2012年3月9日に首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の中間報告が発表されました。帰宅困難者対応の取り組みが「平常時」、「発災時」、「混乱収拾時以降」の3つの段階に分けて記載されており、帰宅困難者対応について行政がどのような対応を企業に求めているのかを把握するうえで有益な資料となっています。今回の中間告書の構成は下記のとおりです。
第1章: はじめに
第2章: 一斉帰宅の抑制
第3章: 一時滞在施設の確保
第4章: 帰宅困難者等への情報提供
第5章: 駅周辺等における混乱防止
第6章: 徒歩帰宅者への支援
第7章: 帰宅困難者の搬送
第8章: 協議会構成員による帰宅困難者等対策の取組状況
第9章: 最終報告に向けて
本コラムでは特に第2章の「一斉帰宅の抑制」に的を絞り、企業にどのような帰宅困難者対応が求められているのかをご紹介します。
平常時の取り組み
一斉帰宅による混乱を防止するため、従業員へ施設内待機方針の周知をすること、また、待機環境整備のため、下記の5つの取り組みを平常時におこなうことが求められています。(1) 企業等における施設内待機方針の策定と従業員への周知
(2) 企業等における施設内待機のための備蓄のあり方
(3) 耐震診断・耐震改修や家具の転倒・落下・移動防止等、施設内待機のための環境整備
(4) 従業員等との安否確認手段の確保、従業員等に対する家族の安否確認手段確保の周知
(5) 訓練等による定期的な手順の確認
(1)および、(3)~(5)の取り組みについては従前の行政関係の防災マニュアル等にに記載されている内容と変わらず、特に目新しくありません。一方で、(2)「企業等における施設内待機のための備蓄のあり方」についてははっきりと3日分の備蓄を促すとともに、以下のように備蓄量の目安、備蓄品目が具体的に例示されています。
品目 | 数量目安 | 例示されている品目 | |
---|---|---|---|
水 | 1人当たり1日3リットル、計9リットル | ペットボトル入り飲料水 | |
主食 | 1人当たり1日3食、計9食 | アルファ化米、クラッカー、乾パン | |
毛布 | 1人当たり1枚 | - | |
その他 | 待機時 | 物資ごとに必要量を算定 | 簡易トイレ、敷物(ビニールシート等)、携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池、緊急医療薬品類 |
事業継続時 | 非常用発電機、燃料、工具類、調理器具(携帯用ガスコンロ、鍋等)、副食(缶詰等)、ヘルメット、軍手、自転車、地図 (※上記の品目はあくまでも例示であり企業ごとに検討する) |
その他の物資として携帯電話用の予備電池等は個人での備えも必要であるとしています。
もし、これまで備蓄の取り組みがなく、例示された備蓄品を一度に揃えることが、保管場所、管理方法、コストの面で現実的でない場合、
- 水、食料といった命に係わるものを優先的に揃える
- 自社の事業継続に必要な備蓄品が何かを整理し、重要度の高いものから揃える
発災時の取り組み
発災時の取り組みについては下記の3点が挙げられています。(1) 企業等による施設内待機の判断(施設の安全性の確認)
(2) 建物や周囲が安全ではないために、施設内に待機できない場合の対応
(3) 防災活動への参加
まず、(1)「企業等による施設内待機の判断」では、国、都県(政令指定都市含む)の一斉帰宅抑制の呼びかけ等を受け、行政機関等から提供される災害関連情報等により周辺の安全を確認したうえで、従業員等を施設内または他の安全な場所で待機させるように、としています。
次の(2)「建物や周囲が安全ではないために、施設内に待機できない場合の対応」では、一時滞在施設等の避難場所へ従業員等を誘導するとしています。
最後に、(3)「防災活動への参加」では施設内で待機している従業員等は可能な範囲で地域における助け合いやボランティア活動への参加等が求められるとしています。
発災時の活動、特に(1)、(2)については、役割分担(情報収集、施設内の点検)、社内の伝達手段を決め、訓練を通して動きをシミュレーションしておくことが、スムーズな災害発生時の対応につながると言えそうです。
混乱収拾時(火災の鎮火や救出・救助活動に落ち着きを見せ始めた段階)以降
混乱収拾時については下記1点のみが対応として挙げられています。(1) 企業における帰宅開始の判断
帰宅開始の判断については、行政及び関係機関から提供される災害関連情報等により、従業員が安全に帰宅できることを確認し、企業内で定めた帰宅の優先順位により従業員等の帰宅を開始する、としています。
一斉帰宅抑止の際の呼びかけと違い、「一斉帰宅抑止を解除する」という呼びかけがあるわけではないようなので帰宅経路の安全性を確認して判断する必要がありそうです。
以上、帰宅困難者対応について「平常時」、「発災時」、「混乱収拾時以降」の3つの段階で求められる企業の対応を紹介しましたが、平時の準備が大半であり、備蓄の準備や災害発生時の防災体制、BCPいずれも長期的かつ計画的な取り組みが不可欠になります。
平常時の備蓄の取り組みでも述べたように、それぞれの組織にとって無理のない取り組みから始めてみることをお勧めします。