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中央防災会議 首都直下地震の被害想定と対策について最終報告を公表

掲載:2014年09月16日

コラム

2013年12月に中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ から、首都直下地震の被害想定と対策の方向性についての最終報告が公表されました。

         

これまでの取り組み

同組織ではこれまでにも首都直下型地震の被害想定を発表してきました(下表参照)が、東日本大震災をきっかけに今回の見直しを行いました。これまでに想定していなかったM8クラスの巨大地震、地震に伴う津波、電力供給減、燃料不足の影響を考慮する必要性が認識されたためです。
 
表:(参考)首都直下地震に対する中央防災会議の取組みと影響を与えた災害
年代 活動 / 災害 備考
1995年(平成7年) 阪神淡路大震災発生  
2003年(平成15年) 首都直下地震対策専門調査会設置  
2005年(平成17年) 首都直下地震対策専門調査会より報告書公表 首都直下型地震の被害想定を盛り込んだ初の報告書
同年 首都直下地震対策大綱公表 首都直下型地震対策の方針
2011年(平成23年) 東日本大震災発生  
2012年(平成24年) 防災対策推進検討会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ設置  
同年 上記ワーキンググループより中間報告公表 東日本大震災を受けて判明した取組むべき対策と今後の課題を整理した報告書
2013年(平成25年) 同ワーキンググループより最終報告公表 首都直下型地震の被害想定を見直した報告書

報告書に記載されている内容

最終報告書は次のような構成になっています。
 
表:首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)目次
第1章 検討の背景、想定対象とする地震
    第1節 検討経緯、報告の視点
    第2節 首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震等について
第2章 被害想定(人的・物的被害)の概要
第3章 社会・経済への影響と課題
    第1節 首都中枢機能への影響
    第2節 巨大過密都市を襲う被害の様相と課題
第4章 対策の方向性と各人の取組
    第1節 対策の方向性
    第2節 首都で生活をする各人の取組
第5章 過酷事象等への対応
    第1節 首都直下のM7クラスの地震における過酷事象への対応
    第2節 大正関東地震タイプの地震への対応
    第3節 延宝房総沖地震タイプの地震等への対応

第1章はイントロダクションです。被害想定の検討の経緯と報告の視点等について触れています。メインテーマとも言える首都直下地震がもたらす被害想定を知りたい場合は第2・3章を、対策の方向性と取組を知りたい場合は第5章を、参照することで必要な情報を得ることができます。

切迫性の高いM7クラスの首都直下地震に対する備えを検討する場合は第4章などの内容が参考になります。なお、第4章の「対策の方向性と各人の取り組み」における「各人」とは国、自治体、企業、民間(個人)のことを指します。第5章「過酷事象等への対応」における「過酷事象」とは、想定を超える構造物の被害の発生を意味します。具体例として、東京湾内の火力発電所の大規模な被災や、当面発生する可能性の低いM8クラスの地震への対策方針等について言及しています。

これまでに発表された被害想定との違い

冒頭で述べましたように、首都直下地震の被害想定は既に2005年に公表されています。しかし、2005年の版では100年に1度起こるかどうかの地震を基に被害想定が考えられていたのに対し、今回の版では、数百年周期の地震を参考に被害想定が考えられている点で大きな違いがあります。ただしちなみに、M8クラスの地震は当面発生する可能性が低いため、具体的な被害想定を示さずに、長期的視点での対策の方向性を示すにとどめられています(第5章の2節)。
細かい変更点に目を向けますと、2005年版で想定した東京湾北部地震については、複数の検討対象地震のうち、被害と首都中枢機能への影響が大きいと考えられるM7クラスの都心南部直下地震を設定しています。また、「風速の想定」についても、今回の版では日最大風速よりもやや強めの風速8m/sに変更されています。
さらに、これまでのように単に人的・物的被害などの定量的な被害を想定するだけでなく、防災減災対策の検討にも活用できるよう配慮がなされています。したがって、被災状況について、時間経過を踏まえ対策実施の困難性も含めて、より現実的な想定が行われています。結果、見直された被害想定では、被害の程度が大きくなり、社会インフラの被害や復旧の推移がより詳細になったと言えるでしょう。
表:首都直下地震被害想定の比較
  2005年 2013年
被害想定の対象地震と前提条件 東京湾北部地震M7.3 都心南部直下地震 M7.3
(夕方、風速15m/s) (夕方、風速8m/s)
最大震度 6強 7
経済被害(直接・間接) 112兆 95兆円
死者数 最大11,000人 最大23,000人
避難者 最大700万人 最大720万人
帰宅困難者(1都3県) 最大650万人 最大800万人
インフラ支障率・復旧予想 電力 停電率 6.1% 6日 停電率 50% 供給力がピーク時の5割程度の状態が1週間以上続く
(需要調整の実施:節電要請、計画停電など)
設備復旧(供給力が元に戻る)は1カ月
通信(固定電話) 支障率 4.8% 14日 支障率 48% 輻輳解消 2日 復旧 1カ月
通信(携帯電話) - - 停波基地局率 46% 輻輳解消 2日 復旧 1カ月
上水道 断水率 25.7% 30日 31% 1カ月
下水道 支障率 1% - 4% 1カ月
ガス(都市ガス) 支障率 12.3% 55日 支障率 17% 6週間
※『首都直下地震対策専門調査会報告』(2005年7月)および『首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)』(2013年12月)を基に筆者が編集

※各数値は東京都及び、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、山梨県、静岡県を対象とした被害想定
表中の「停電率」とは停電の発生割合を示します。また、「支障率」とは該当インフラが利用できない割合を示します。さらに、「停波基地局率」とは携帯電話と電波の交信ができなくなる基地局の割合を意味します。「輻輳解消」は通信がつながる状態のことです。

企業は最終報告をどのようにBCPに活かせるか

中央防災会議では今後、今回のこの見直し結果を踏まえて、首都直下地震対策の指針となる新たな地震防災対策大綱、首都直下地震防災戦略の発表を予定しています。この動きと同様に企業でも、自社の防災・事業継続の活動を、次に示す2つの観点での振り返り材料として活用することができます。

(1) 自分たちのBCPの検証材料として

企業は今回示された被害想定を用いることで、自分たちのBCPが、果たしてどこまで有効に機能するかどうかを確認することができます。結果次第では、長期的な観点で必要に応じて対策を見直す必要があるかもしれません。例えば、演習・訓練の実施にあたり次のようなポイントを検証することができます。

● 公表された被害想定のインフラ支障率・復旧予想を踏まえて必要なコミュニケーション(例:電話やメールによる連絡など)を社内外の関係者とれるのか
● 業務継続に必要な資産(機器、ITシステムなど)を利用できるか
● 目標時間内に業務を再開できるのか


(2) 備えの大きな抜け漏れを確認するチェックリストとして

報告書では企業が首都直下地震に備える対策の方向性についても触れています。事前防災と発災時の対応の二段階に分けて示しています(下記項目参照)が、企業は、これらを基に、自分たちの備えに抜け漏れがないかの確認することができます。

<事前防災の備え> 
企業の事業継続のための事前防災の備えとして以下の活動が挙げられています。
□ 災害時にも継続する重要業務と縮小・中止できる業務の選別
□ 重要な経営資源を安定確保するための対策実施(例:購買先の複数化、製造ラインの複数拠点化、在庫量の検討)
□ サプライチェーン維持の取組(例:関係者間における協定の締結、BCP策定要諦、訓練の実施等)
□ 自己電源比率の向上(例:自家発電・コジェネ等の導入検討)
□ (非常用発電設備がある場合)発電機の性能維持及び燃料の確保と品質維持
□ 事業継続に不可欠な情報資産の保全
□ 災害対応力の構築(例:平時から在宅勤務を一定割合で導入)
□ 交通機関の混乱に対応する通勤体制の工夫(例:二泊三日勤)
□ 社員とその家族の命を守るための教育の実施
<発災時の備え> 

また、発災時の企業に求められる備えについては次の4項目が挙げられています。
□ ライフラインや交通インフラの被災・復旧状況等を勘案しながら、限られた優先的業務を継続するための人員の確保等、実効性のあるBCP(BCM)の策定に努める
□ 経営資源の喪失や復旧の遅延等が生じた場合における結果事象型の対応についても検討を行う
□ 自宅や家族の安全を確保する自助の取組を実践しておくことによって、帰宅困難者という意識を持つのではなく、救助活動や被災者支援等、地域の防災の担い手として活動する
□ 待避施設や備蓄倉庫の確保、平時からの訓練の実施等、都市の安全確保に向けた取組を推進する
防災・減災対策を検討する上で備えるべきことを具体的に確認する材料として本報告書を活用することで、予想される首都直下地震の被害を最小限に抑えるとともに、早期の復旧・復興につなげることが企業には期待されています。
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