東京都より東日本大震災からの反省を踏まえ、従来の被害想定に対する見直しを行った「首都直下地震等による東京の被害想定」報告書が発表されました。
6年ぶりに見直された東京の被害想定報告書
今回の報告書は「第1部 被害想定結果」、「第2部 震源モデル等」、「第3部 被害想定手法」の3部で構成されています。報告書の目玉とも言える「第1部 被害想定結果」では、主として以下の項目がカバーされています。
- 建物被害
- 人的被害
- 交通施設被害
- ライフライン被害
- 避難者・帰宅困難者
「被害想定」を大幅に見直し
従来の想定では、マグニチュード7.3で首都圏は最大でも震度6強でしたが、今回の見直しでは同じマグニチュードでも、一部の地域で震度7が予測されるなど、全体的に被害想定が大きくなっていることが最大の特徴です。
【東京湾北部地震に基づく従来の被災想定と今回の主な被災想定の違い】●東京湾北部地震M7.3の震度分布比較
(平成24年発表) | (平成18年発表) |
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前回 | 今回 | |
震度6強が及ぶ範囲 | 区全体の48% | 区全体の70% |
震度7が及ぶ範囲 | なし | 7つの区で局所的に発生 (江戸川、港、江東、大田、中央、品川、墨田) |
死者数 | 6,413人 | 9,641人 |
津波 | 想定なし | 1.88m |
エレベータ 閉じ込められ者 |
9,161人 | 7,473人 |
帰宅困難者数 | 約448万人 | 約517万人 |
電力(支障率) | 6.1% | 17.6% |
ガス(支障率) | 12.3% | 26.8~74.2% |
上水道(支障率) | 25.7% | 34.5% |
通信(支障率) | 4.8% | 7.6% |
「被害想定」が大きくなった理由とは
このように被害想定が大きくなった最大の要因は、“震源の深さの想定”が変わったことにあります。従来に比べ10キロほど浅い震源となっています。マグニチュードや発生時刻などの想定には変わりはありません。
●東京湾北部地震における従来の被災想定(地震規模と発生時刻など)の違い前回 | 今回 | |
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マグニチュード | 7.3 | 7.3 |
震源の深さ | 30~40キロ | 20~30キロ(10キロ震源が浅い) |
発生時刻 | 冬平日午後6時 | 冬平日午後6時 |
風速(m/s) | 15m | 8m |
このほかにも、いくつかの要因がありますが、これらをまとめると次のとおりです。
(1) より実態に即した被害想定へと全面的に見直し
客観的なデータや科学的な裏付けに基づき、地震モデル、火災の想定手法の改良がなされています。- 首都直下地震としてこれまでにも想定していた東京湾北部地震、多摩直下地震の2つの地震について再検証
- 海溝型地震として元禄型関東地震、活断層で発生する地震として立川断層帯地震の2つの地震モデルを追加
(2) 最新の知見を反映
フィリピン海プレート上面の深度が従来の想定より浅いという最新の知見を反映しています。震源が浅くなるため、従来の想定より震度が大きくなっています。(3) 津波による被害想定を反映
過去の記録等で、都内に最も大きな津波をもたらしたとされる元禄関東地震(1703年)をモデルとして検証がなされています。想定にとらわれ過ぎると東日本大震災の過ちを繰り返すことに
今回の想定に基づいて自社BCPの見直しを行う企業が増えてくるでしょう。これは非常に重要な活動ですが、あくまでもゴールではなく出発点にしか過ぎないということをわたしたちは認識しておくべきです。
阪神大震災の従来の想定は2日の停電を想定していましたが、実際には4日間かかりました。東日本大震災でも連動地震の影響により、想定を遥かに超える津波が襲来しました。
私達が過去から学ぶべきは、「想定は、なかなかあたらない」という事実です。
「このシナリオにさえ対応できれば今度こそ大丈夫だろう」
どうしても、そんな想いに駆られがちですが、次回起こる被害は今回の想定よりも大きいものになるかもしれないし、小さいものになるかもしれません。
大事なことは、今回出された被害想定をベースに見直しを行った後の活動なのです。