
昨今、ドローン市場は急成長を遂げています。東京都における産業用ドローンの市場規模は2018年で107億円と推定されており、2030年には約9倍の965億円に上ると予測されています(東京都戦略政策情報推進本部、2020年、「東京都における産業用ドローンの市場規模の推計と予測」)。自社のサービスの一環としてドローンの導入を検討している方も多いのではないでしょうか。そこで本稿では、ドローンの活用法を紹介するとともに、ドローンに関わるリスクマネジメントについて解説していきます。
ドローンとは
ドローンとは、無人航空機の総称を指します。英語ではUnmanned Aerial Vehicle(UAV)と呼ばれ、その形状により2つの種類に分類されます。
1つ目は、マルチコプターです。回転翼機とも呼ばれ、その文字通り回転する翼を推進力にして飛行するタイプのドローンです。国内で一般的にドローンといえば、マルチコプターを想像される方が多いでしょう。マルチコプターは垂直離着陸やホバリング(空中停止)が可能なため、狭いスペースでも利用することができます。また、比較的初心者にも操縦しやすいことが特徴です。
2つ目は、固定翼機です。こちらは主翼が固定されており、一般的な飛行機と同様の形状をしています。マルチコプターとは異なり、離着陸には滑走路が必要です。
ドローンでできること
2015年の航空法改正により、ドローン飛行の規制や許可に関する一般的なルールが定められ、それに伴い、ドローンのビジネス分野での利用が活発化しています。ここでは、ドローンの活用が大きく期待されている3つのビジネス分野を見ていきます。
1つ目は物流業です。ここでいう物流業とは、陸路や海路、空路によって製品を運搬する事業を指します。この中でもドローンの活用が期待されているのが、陸路による運搬のサービス拡充です。近年、ネットショッピング市場の急激な成長により、小口配送の需要が大きく高まっています(国土交通省、2015年、「平成27年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」)。一方で、そうした小口配送を担うドライバーのなり手は減少を続けています。また、物流量の増加による交通渋滞も課題です。こうした課題の解決策として期待されているのが、ドローンによる小口配送です。ドローンは無人で稼働し、かつ道路という既存インフラに依存しないため、渋滞の影響を受けません。近年、日本国内でもドローンを使用した配送実験が行われており、今後の動向が注目されています。
2つ目は建設業です。建設業では大きく2つの場面でドローンの活用が期待されています。1つ目は建設工事の進捗観測です。工事現場では定期的な進捗記録を作成するために、高所から全景を撮影するというニーズがあります。しかし、高所撮影の実施には、高所作業車の利用や空中写真撮影を専門とする業者への依頼が必要となり、コストがかかることが課題でした。一方で、ドローンを利用すれば高所からの撮影コストを大幅に削減することが可能です。ドローンの活用が期待されるもう1つの場面は、壁面や大規模プラントの検査等のメンテナンスです。従来は、メンテナンスが必要な箇所を特定するために足場を設置していたため、こちらも大きなコストがかかることが課題でした。しかし、ドローンで外壁撮影を行えば、足場の設置は必要ありません。また、小型のドローンを利用すれば、配管や柱等が入り組む狭い空間でも撮影が可能であり、メンテナンスが必要な個所を低コストで発見することが可能です。
3つ目は警備業です。警備業では侵入者の感知や施設の異常検知等の役割が求められますが、従来の固定カメラでは死角が多く、警備員の配置はコストが高いことが課題でした。こうした課題を解決するため、巡回警備員の代わりにドローンを配置する活用法が期待されています。また、ただ施設内を巡回するだけでなく、不審な人物を感知するとドローンが自動で撮影を開始し、コントロールセンターと連携するといった運用方法も開発されています。
ドローン導入のリスク:サービスライフサイクル上のリスク
このように、様々な分野でドローンをビジネスに活用する動きが広がっています。一方で、自社のサービスの一環としてドローンを導入する際には、そのリスクにも留意しなければいけません。
ドローンを活用するサービスは企画・設計、開発、運用・保守、廃棄といったライフサイクルをたどりますが、それぞれのフェーズごとに異なったリスクが想定されます。
まず、企画・設計フェーズでは、自社のサービスのうち、どのプロセスで、どのようなドローンを活用するかを検討します。ここで想定されるリスクは、自社のプロセスにとって最適ではないドローンを選択してしまうリスクです。ドローン導入を検討する段階では、機体の構造や制御方法等に関する理解が深まっていない場合があります。企画・設計フェーズにおいては、自社のサービス設計を詳細に分析し、ドローン導入を検討しているプロセスは本当にドローンで代替できるのか、採用する機体についての理解は十分なのかを確認することが求められます。
次に、開発フェーズでは、自社のサービスに導入するドローンの開発・製造工程で起こりうるリスクを検討します。自社のサービスに対してドローンを独自開発して導入する場合には、ドローン製造における部品の調達や設計等、サプライチェーンに関わるリスクについての検討をする必要があります。
さらに、運用・保守フェーズでは、2つのリスクについて検討します。1つ目は、ドローンが基地局から離陸し、目的地での役割を終えて基地局へと帰還、着陸するまでの運用に関わるリスクです。運行前の点検や荷物の積載に関する基準、モニタリング体制を整備することに加え、航行中の安全確保や事故発生時の対応方法等を明確にすることが求められます。2つ目は、ドローンの定期点検やメンテナンス、故障時の対応等、保守に関わるリスクです。航行距離や稼働期間に応じたメンテナンス基準を設けることに加え、必要に応じてメンテナンス業者を選定することも必要です。また、ドローンの故障時に備え、予備機や予備部品を確保することも求められます。
最後に、廃棄フェーズではドローンの本体内に保存されたデータの取り扱いについて検討します。ドローンの本体内に航行ルートや画像情報等のデータが保存されている場合には、データを適切に消去した上で廃棄しなければ情報漏洩のリスクがあります。ドローンを導入する組織においては、データの消去に関する基準やモニタリング体制を整備することが求められます。
ドローン運用のリスク:オペレーションリスク
ドローンのオペレーション時には大きく3つ(物理的接触、不正アクセス、法令違反)のリスクが想定されます。
まず、物理的接触とは、他の構造物や飛行物体との接触やそれに伴う墜落といったリスクです。特に小型のドローンはバランスを崩しやすいため、強風にあおられて墜落する事故が想定されます。加えて、電池切れによる墜落にも注意が必要です。さらに、ドローンを利用して荷物を運搬する場合には、積荷が落下するリスクも考えられます。
ドローンによる事故件数は急激に増加しています。国土交通省によれば、2019年度は国内で83件の事故が報告されています。また、死亡事故は国内で3件発生しています。
ドローンによる代表的な事故事例を以下にまとめます。
【ドローンによる代表的な事故事例】
発生年月 | カテゴリー | 概要 |
---|---|---|
2017年10月 | 禁止区域への進入 | 伊丹空港敷地内にドローンが侵入し、安全確保のために飛行機の離着陸が遅延した。 |
2017年11月 | 落下 | 岐阜県大垣市のイベント会場にて、群衆の上にドローンが落下。6人が救急搬送された。 |
2019年7月 | 構造物との衝突 | 兵庫県にて、農薬の空中散布中にドローンが電線に接触。電線が損傷した。 |
2019年11月 | 紛失 | 大手電機メーカーが事業所でドローンの運行試験中に制御不能となり、ドローンが事業所外へ飛行したのち、紛失した。 |
出典:「無人航空機に係る事故等の一覧(国土交通省に報告のあったもの)」, 国土交通省
次に、不正アクセスとは、飛行中のドローンへ外部から不正にアクセスされ、ドローンを乗っ取られてしまうリスクを指します。
さらに、法令違反とは、飛行禁止空域への立ち入りなど、法令に違反する行為を行ってしまうリスクです。ドローンを運用する際には、国や警察、各自治体が定める法律や条例に準拠していることを確認する必要があります。ここではドローン運用に関わる代表的な法律やガイドラインを紹介します。
【ドローン運用に関わる代表的な法律やガイドライン】
地域 | 所管 | 法令等 | 概要 |
---|---|---|---|
国内 | 国土交通省 | 航空法 | 飛行物体の飛行禁止空域、飛行方法、同法の対象外となる機体等が定められている。規定の場所や方法以外で飛行させる場合、国土交通大臣による承認が必要となる。違反した場合、50万円以下の罰金が課せられる。 |
無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン | 航空法や関連法令を遵守し、第三者に迷惑をかけることなく無人航空機を飛行させるための基本的なルールが定められている。 | ||
警察庁 | 小型無人機等飛行禁止法 | 一部対象施設周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止を定めている。違反した場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられる。 | |
道路交通法 | 道路上や路肩などでドローンの離着陸を行う場合、道路使用許可申請書を管轄の警察へ提出・申請する等の規則を定めている。また、離着陸だけでなく、道路を通行する車両に影響を及ぼすような低空飛行の場合も同様に申請が必要となる。 | ||
総務省 | 電波法 | ドローン操縦には電波を使用するため、機体には「特定無線設備の技術基準適合証明」の取得が義務付けられている。 | |
東京都 (自治体ごとに制定) |
東京都立公園条例 | 都立公園と庭園系81か所にて、園内におけるドローンの使用を全面禁止としている。違反した場合、5万円以下の罰金が課せられる。 | |
国外 | 米国連邦航空局 | Special Federal Aviation Regulation | ドローンの操縦ライセンスや飛行許可の取得、機体の登録、登録番号の貼り付け等の規則が定められている。 |
EU・スイス連邦航空局 | Aviation Laws and Regulations | 機体の規制・法律(航空法)における0.5KG~30KGのモデル飛行機(ドローン)の規制が設けられている | |
EU・ギリシャ民間航空当局 | Hellenic Republic Unmanned Aircraft Systems Regulation | ドローン飛行の際には、事前に飛行許可の申請をすること等の規則を定めている。飛行許可の申請には個人情報やドローンの登録番号、飛行場所、飛行させる時間帯等の事前通知が必要となる。 | |
シンガポール民間航空庁 | Unmanned Aircraft Regulatory Requirements | 空港又は空軍基地から5キロ以内でのドローンの無許可操縦、または高度61メートル以上上空での操縦を禁止している。一方で、ドローン所有者の登録義務は設けていない。 | |
シンガポール政府 | Infocomm Development Authority of Singapore‘s guidelines | ドローンの利用に関するルールを定めている。また、利用者に向けたハンドブック等を配布している。 | |
ISO/TC 20/SC 16 | ISO 21384など | ドローンの安全な飛行・利活用に向け、機体、手順、運行管理システム等に関する国際規格を定めている。業務範囲としては、無人航空機システム(UAS)の分野における標準化、無人航空機の分類、設計、製造、運用(保守を含む)及びUAS運用の安全管理が対象となる。 |
ドローン運用のリスク:ビジネスリスク
ドローンのオペレーション時に発生した事故は、ビジネスに様々な影響を与えることが想定されます。これがビジネスリスクです。ビジネスリスクは大きく3つ(レピュテーションリスク、ファイナンスリスク、リーガルリスク)に分けられます。
【ビジネスリスクの分類とその概要】
レピュテーションリスク |
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---|---|
ファイナンスリスク |
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リーガルリスク |
|
リスクマネジメントのプロセス
ドローン導入にあたってはこうしたリスクに対応できるよう、マネジメントが必要です。
ドローンに関するリスクマネジメントの活動は、大きく3つのステップに分けることができます。
- リスクアセスメントの実施
- リスク対応策の検討
- KRIの設定およびモニタリング
リスクアセスメントとは、組織が持つ様々なリスクに対し、対応の必要性や優先性を検討するための分析手法です。ドローンリスクマネジメントに際しては、先に説明したように、ライフサイクルとしてのリスクやオペレーションリスク、そしてビジネスリスクの観点からリスクを洗い出し、分析を行うことが求められます。
リスク対応策の検討とは、リスクアセスメントの結果を基に、それぞれのリスクに対してどのような対応をするか、組織としての意思決定を行うことです。ドローンに関わる代表的なリスクと対応策を以下に示します。
【ドローンに関わる代表的なリスクと対応策】
項目 | リスク | リスクシナリオ | 対応策 |
---|---|---|---|
プライバシー | 肖像権の侵害 | 空撮映像をweb上で公開したところ、映像に写り込んだ被撮影者からプライバシーを侵害したとして起訴される。 |
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データマネジメント | 内部データの盗み出し/改ざん | Wi-Fiなど無線通信でのデータ転送時に、第三者に通信を傍受される。 |
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技術 | 禁止区域への進入 | 目視外飛行中のドローンが強風にあおられて予定していた空域を離脱、禁止区域(空港等)へ進入してしまう。 |
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ファイナンス | 事故発生による損害賠償 | ドローンの事故により、顧客やその他ステークホルダーから損害賠償を請求されてしまう。 |
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セキュリティ | サイバー攻撃 | ドローン搭載コンピュータに侵入され、制御を乗っ取られる。 |
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KRIとは、Key Risk Indicatorの略であり、重要リスク指標とも呼ばれます。KRIは、リスクの顕在化をいち早く察知し、被害の発生や影響をできる限り抑えることを狙いとして設定するモニタリング指標です。ドローンリスクマネジメントにおけるKRIの例としては、飛行ルート周辺の風速や基地局帰還後の電池残量、ファイアウォールがブロックに成功したアクセスの数などが挙げられます。
このように、自社の事業にドローンを導入する場合には、「サービスライフサイクル上のリスク」「オペレーションリスク」「ビジネスリスク」の3つのリスクに対してリスクマネジメントのプロセスを構築し、継続的な活動・改善を実施することを推奨いたします。