TEC-FORCE
掲載:2019年06月26日
執筆者:長内 麗奈
用語集
TEC-FORCE(Technical Emergency Control FORCE)とは、2008年4月に、大規模自然災害への備えとして国土交通省によって創設された災害派遣チームのことです。日本語では、緊急災害対策派遣隊と訳され、中小~大規模自然災害で被災した地方公共団体等の ①被災状況の迅速な把握、②被害の拡大の防止、③被災地の早期復旧等に対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施すること、を目的としています。全国の地方整備局職員に加え、国土交通本省や気象庁、国土地理院などの職員で構成されています。
2012年5月には「緊急災害対策派遣隊の設置に関する訓令」として、指揮命令系統の明確化やTEC-FORCEを専門的に担当する事務局を設置するなどの強化策が定められました。
2019年4月時点で、計12,654名が隊員として登録されており、平時から河川や砂防、道路の調査・計画・設計業務および現場業務、管理業務などを通し、専門技術を培っています。
創設の背景
国土交通省はTEC-FORCE創設以前から、2004年の台風第23号による兵庫県・円山川の破堤、同年の新潟中越地震、2007年の新潟中越沖地震など、多くの災害において排水ポンプ車による緊急排水や衛星通信車による被災箇所の映像配信、被災状況調査等を実施し、被災地の早期復旧に尽力してきました。しかし、これら災害応急活動は、災害発生後にその都度、支援体制を整えていたため、より迅速に被災自治体等へ支援を行うための仕組みづくりが課題とされてきました。
その課題解決のために創設されたのがTEC-FORCEです。あらかじめ地方整備局等の職員をTEC-FORCE隊員として任命し、日頃から人員や資機材の派遣体制を整えることで、昨今の迅速な支援活動を実現しています。
東日本大震災時、「くしの歯作戦」により発災からわずか7日間で道路啓開が97%完了できた要因の一つに、TEC-FORCEが早期に現地で被災状況の把握を開始したことが挙げられています。
主な活動実績
TEC-FORCEの主な活動実績は以下の通りです。
年月 | 災害、内容 | 場所 | 活動内容 |
---|---|---|---|
2014年9月 | 御嶽山の噴火 | 長野県王滝村 | Ku-SAT[1]による監視体制確保 |
2015年5月 | 口永良部島の火山活動 | 鹿児島県屋久島町 | 市町村へのリエゾン[2]派遣 |
2015年9月 | 関東・東北豪雨 | 茨城県常総市 | 災害対策用ヘリコプターによる被災状況調査 |
2015年9月 | 関東・東北豪雨 | 宮城県栗原市 | 排水ポンプ車による緊急排水 |
2016年4月 | 熊本地震 | 熊本県庁 | 自治体への技術助言 |
2016年5月 | 熊本地震 | 熊本県南阿蘇村 | 捜索活動への技術的助言 |
2017年7月 | 九州北部豪雨 | 福岡県東峰村 | 被災状況の把握 |
2017年9月 | 台風18号 | 大分県津久見市 | 被災した自治体への情報提供と応急復旧に向けた技術支援 |
2017年4月 | 土砂災害 | 大分県中津市 | 防災ヘリやドローンでの現地調査および土砂災害専門家の派遣等 |
2018年6月 | 大阪北部地震 | 大阪府高槻市 | ブロック塀等の応急危険度のための応急危険度判定士の派遣 |
2018年7月 | 豪雨 | 広島県、岡山県、愛媛県、高知県、京都府等 | 河川・道路、土砂災害の状況調査および排水支援ほか環境整備船の派遣による緊急物資支援等 |
[1]Ku-SAT:小型衛星画像伝送装置
[2]リエゾン(災害対策現地情報連絡員):
フランス語で(Liaison)「つなぐ」「橋渡し」「連絡将校」の意。災害が発生または発生するおそれのある必要な期間だけ自治体に常駐する職員を指し、地方整備局災害対策本部と被災自治体災害対策本部をつなぐ窓口を担う。主な活動は、現地の情報を迅速に得るための「情報の収集・提供」。被災自治体の被災状況の収集や支援ニーズなどを積極的に把握することが責務である。リエゾンの名称が使われ始めたのは2008年の岩手宮城内陸地震からで、東日本大震災では、リエゾンはTEC-FORCEの自治体支援班と位置付けられ、技術的支援や多様な調整も行った。
北海道胆振東部地震でのTEC-FORCEの活動状況
2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震でもTEC-FORCEが災害復旧に貢献しています。北海道開発局ほか、東北・関東・北陸・中部・四国・九州地方整備局から広域的にTEC-FORCEが派遣され、派遣者数は2018年10月13日派遣終了時までに、のべ1,887名にのぼりました。
主な活動として、従来の被災状況調査や道路啓開、土砂撤去、専門家による技術的支援や入浴・洗濯・給水・重油支援等に加え、JETT[3]の派遣やタイムラインの緊急運用が行われました。
「台風・前線性の降雨等に伴う洪水・土砂災害等」を対象としたタイムラインの策定を検討中だった北海道厚真町では、地震発生後の9月28日に、台風第24号の北上にともなって緊急的にタイムラインの運用を開始しました。タイムラインでは、厚真町が「人命を守る」ためにとるべき最低限の「防災行動のための意思決定事項」を整理。気象台等の関係機関から、意思決定する上での助言や情報提供が行われました。
[3]JETT(ジェット、JMA Emergency Task Team):
近年の集中豪雨による洪水、土砂災害、大雪など、激甚化する自然災害に対応するため、2018年5月1日に創設された気象庁防災対応支援チームのこと。災害発生地域周辺の気象台職員で構成されており、気象庁が派遣する。
TEC-FORCEの一員として、現場のニーズや各機関の活動状況を踏まえた的確な気象解説を行うことを役割としており、災害発生前には被害を最小限に抑える働きも担っている。
災害規模に応じた支援の仕組み
TEC-FORCE派遣のフローは、中小規模の災害時と大規模災害時で異なります。
中小規模の災害においては、「TEC-FORCE管内派遣」による支援が行われ、被災した地方自治体等に、被災した地域を管轄する地方整備局等が自らTEC-FORCEを派遣します。
図1:TEC-FORCE管内派遣による支援要請フロー
一方で、大規模災害においては「TEC-FORCE広域派遣」による支援が行われ、被災した地域を管轄する地方整備局等以外に、国土交通省本省を通じて被災地域外の地方整備局等からもTEC-FORCEが派遣されます。
図2:TEC-FORCE広域派遣による支援要請フロー
民間企業の協力が不可欠な活動も
TEC-FORCEの活動には、公的機関以外に、被災地の地元企業による地域支援等、民間企業の協力が不可欠なものも多くあります。
特に、交通、建築、通信、エネルギーなど社会インフラを担う民間企業においては、国の対応方針や動向を知るだけでなく、自社における対応優先度や行動計画の策定などを通し、有事の要請にも柔軟に対応できる体制の強化が大切だといえるでしょう。
参考文献
- 国土交通省 水管理・国土保全局「TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)について」(2019年5月15日アクセス)
- 道下弘子「東日本大震災 語られなかった国交省の記録―ミッションは『NOと言わない』」(JDC出版、2012年)
- 東北地方整備局「震災伝承館-啓開 「くしの歯」作戦」(2019年5月17日アクセス)
- 北海道開発局「平成30年北海道胆振東部地震でのTEC-FORCEの取り組み」(2019年2月8日発表)
- 気象庁「JETT(気象庁防災対応支援チーム)の創設」(2019年5月16日アクセス)