公正取引委員会(公取委)はこのほど、「生成AIに関する実態調査報告書ver.1.0」を公表しました。公取委は昨年10月、生成AIに関するディスカッションペーパーを公表し情報や意見を募集していました。また並行して、国内外の事業者や有識者、関係省庁、海外当局など50者にヒアリングも実施しました。今般公表された報告書は、寄せられた情報や意見を分析しヒアリング結果も踏まえて現時点における公取委の考え方を整理したものです。
生成AIの発展はイノベーションの創出などが期待される一方、独占禁止法や競争政策の観点において潜在的なリスクもあると指摘されています。生成AI関連市場の状況を踏まえ公取委は想定される論点を5つ示し、ディスカッションペーパーとして昨年10月、情報や意見を募集しました。
示された5つの論点とは、①アクセス制限・他社排除②自社優遇③抱き合わせ④生成AIを用いた並行行為(生成AIが価格や販売戦略を推奨し結果的に協調的な価格設定となってしまい、消費者にデメリットとなるケース)⑤パートナーシップによる高度専門人材の囲い込み―。これに対し集まった712件の回答とヒアリング結果から、特に「①アクセス制限・他社排除」と「③抱き合わせ」について競争上の懸念を示す意見が寄せられたとし、この2点について独占禁止法や競争政策における考え方が示されました。
まず、「①アクセス制限・他社排除」については、生成AIモデルがスマートフォンに搭載されたケースを取り上げています。既に公取委は寡占化が進んだモバイルOSにおいてアクセス制限をして取引・競争を妨げ、自社OS上で自社アプリが有利になるようにすることは、独占禁止法において問題となる恐れがあると示しており、生成AI関連市場においても強固な地位を構築している事業者がアクセスを制限することによって新規参入者や既存の競争者が排除される恐れが生じるときには、独占禁止法において問題となる恐れがあると指摘しました。
次に「③抱き合わせ」については、販売促進手法の一つであり、それ自体が直ちに独占禁止法における問題となるものではないとした上で、取引先である利用者を容易に確保することができなくなり、事業活動費が引き上げられる、新規参入や新商品開発の意欲が損なわれるといった、既存の競争者や新規参入者が排除されるもしくはこれらの取引機会が減少するような状態をもたらす恐れが生じるときには、独占禁止法における問題となる恐れがあると示しました。
なお、5つの論点のうち、「②自社優遇」や「④生成AIを用いた並行行為」、「⑤パートナーシップによる高度専門人材の囲い込み」については懸念されるような行為を示した意見などは寄せられなかったとしています。
公取委は今後も生成AI関連市場を注視し、実態調査を継続すると発表しています。公式サイトには新たに「生成AIに関する情報募集フォーム」を開設し幅広く情報提供を呼び掛けています。