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英国BCP識者訪問の旅(4) 規格作りのプロ集団 英国規格協会へ潜入

掲載:2010年06月23日

執筆者:代表取締役社長 副島 一也

コラム

今回はBSI(英国規格協会)の英国本部にお邪魔した模様をお伝えします。BSI英国本部はロンドンの西部、チジックといわれるエリアにあります。周りに全く高い建物が無いエリアに何故か一棟だけ大きなビル(18階くらい)が建っておりまして、そこが世界をリードする多くの標準規格を生み出してきたBSI本部ビルです。

         

錚々たるメンバー

今回お会いしたのはびっくりするほど豪華な方々でした。BSIグループ全体のCEOであるハワード・カール氏、英国規格協会ダイレクターのマイク・ロー氏、ビジネス開発ダイレクターのアンドリュー・モリス氏、BS25999プロダクトマネージャーのジュリアン・スラッセル氏らです。BSIファンや規格ファンの方なら垂涎ものです(どのくらいいるかは定かではありませんが…)。

とにもかくにもこうしたオールスターな皆さんに直接お話を伺う機会をいただいたことは幸運でした。但し、これだけハイレベルな方々だと、逆にBCMという個別のテーマについてはそれほど詳しい話を聞けないのでは、と不安になりましたが、それは全くの杞憂でした。以下に、BCMやBS25999に関して彼らから聞いたことをまとめます。

英国でBCMが必要と感じられた背景

英国では事業継続の課題は非常に重要と考えられていたため、BSIは早いうちからグローバル企業や政府関係者とコミッティーを作ってBCMについての議論を重ねてきました。

昨今日本でも企業の過失問題は後をたちませんが、英国でも深刻な問題が多方面で発生していました。ブリティッシュエアウエイズでは機内食業者のストライキにより一斉に100便欠航となった結果、莫大な払い戻しが発生したり、原子力業界ではサプライチェーンに瑕疵を発見したことで全発電施設の操業を停止するような事態が何度も起きました。この他にも、鉄道業界では大規模な衝突事故が立て続き発生したことで、事故を起こした企業だけでなく業界全体に大きな被害を及ぼしました。自然災害では洪水が発生し、時に1ヶ月以上の断水を引き起こし、多くの企業に困難をもたらしました。

故に、事業継続という問題は、国家として考えなくてもならない非常に重要な課題であると、誰もが認識し始めたのです。

左: BSI規格協会ディレクター マイク・ロー氏  右: BSI Group CEO ハワード・カール氏

英国政府や保険会社の取り組み

BS25999のコミッティーには内閣府やUKASも早い段階から加わっていたことで、注目を集めるとともに、制度面からも強い支持を得ていたと言えます。特に、この規格は初めて英国政府が自らのアセスメントを希望したことでも注目されました。政府自らが自身のサプライ、つまりITや建設、輸送などがきちんと機能し続けることが重要と考え、実際に動いたわけです。

また、興味深いのはこの規格に関しては、保険会社からの働きかけも非常に積極的だったことです。保険会社にとっては、企業が自らリスクマネジメントに取り組み、その内容をアセスメントとして利用できれば、保険料の上昇の抑止に利用したり、顧客の間口を広げることが可能になると考えられたからです。

事業継続に関するBS規格とISO規格

ビジネス開発ディレクター アンドリュー・モリス氏

BS25999が発行されて以後、ISOでも事業継続管理に関しての規格化が進められています。しかしながら、ISO化の是否についてモリス氏はこう語ります。

「国際標準規格を作る力量をもつ団体はBSIを除いてそうはいない。ISOで規格が成立するためには全会一致の合意が必要だが、ISOファミリーには150ヶ国もあるので合意が取りづらい。結果として多くの意見を取り入れようとして規格の中身が希釈するようなことがあれば、企業としてもISOは使いたくないという意見になることもありえる。BSIの目標は企業が必要とする規格を作ることにある。結果は見てみないと分からないが、米国も現在のBS25999を非常に高く評価している。彼らも内容を薄くするようなことは望まないだろう。」

BCMの本質:企業に求められる絶え間ない努力

最後に、彼らはBCMは応急処置ではない、ということを強調していました。BCMの仕組みが根付き、スタンダードレベルに達するには時間がかかります。企業はその努力を継続し体質を平時から改善することで、どんなタイプの問題が生じても損害を最小限に抑えられる状態にしておくことこそがBCMの本質であるということです。

一方で、規格が出来たことで、BCMの共通言語が出来たことは企業の中で推進する際にも分かりやすくなったと言えます。企業には、こうした共通言語を理解した上で社内の仕組みを整備していくことが求められているのです。

インタビューを終えて

今回、BCMを長年牽引してきた方々にお話を伺って、なるほどと思うことが沢山ありました。

ISO化についても単に国際標準を優先してISO化すれば自動的にそちらに移行すればいいなどとはBSIのトップは思っていないんですね。しっかり顧客目線で働きかけようとしてるんだな、と大変勉強になりました。また、BCMを企業文化に組み込むことの重要性をいち早く説いていたり、そのための共通言語を作ったり、世界の事業継続能力向上の為のリーダーシップを強く感じました。我々も今後に生かしていかねばと思った次第です。

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