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英国BCP識者訪問の旅(3) これがロンドンのバックアップオフィスだ!

掲載:2010年06月08日

執筆者:代表取締役社長 副島 一也

コラム

今回は日本ではまだ馴染みの薄いサービス「バックアップオフィスサービス」を大きく展開している企業「サンガード社」のDR(障害復旧)サイト訪問の様子をご紹介します。

今回は日本ではまだ馴染みの薄いサービス「バックアップオフィスサービス」を大きく展開している企業「サンガード社」のDR(障害復旧)サイト訪問の様子をご紹介します。

訪問したサンガードのDRサイトがある新金融街「ドックランドエリア」

サンガードはアメリカやイギリスを中心に世界中でデータセンターやDRサイトのサービスを提供しており、ここイギリスでも国内約20箇所でDRサイトを運営しています。今回は「英国の新金融街」と言えるドックランドにあるDRサイトにお邪魔しました。

日本でDRサイトと言えば通常データセンターを想起することと思います。自社サイトで保有しているシステムに万一のことがあった時、すぐに切り替えて使える二重化されたシステムを社外のデータセンターに用意しておくという対策に使える施設です。電源設備、耐震・免震対策など堅牢なデータセンターは日本でも多くの企業がサービスを提供しています。

しかし、ワークスペースや事務機器に対しての対策はどうなっているでしょうか?被災した際にシステムは稼動しているが、普段作業しているワークスペースが使えなくなるということはあり得ます。オフィスや机、電話、ファックス、プリンターなど業務に必要な経営資源は多様です。そういった事務用の資源を提供してくれるサービスがバックアップオフィスサービスです。イギリスでは、FSA(英国の金融庁)の指導が強力なこともあり、ほぼすべての金融機関がバックアップオフィスを用意しています。

金融機関のフロント(ディーリングやトレーディング)業務用のバックアップオフィス

例えば、ロンドンのある金融機関は拠点の1000人の従業員のために、600人分のバックアップのワークスペースを用意しています。ディーリングを行うフロント用だけでなくミドルオフィス、バックオフィス用にも必要な比率でそれぞれバックアップのスペースを用意しています。ただし、すべての席をデディケート(占有)で契約すると、費用が大変高価になってしまいます。そこで、600席のうち例えば150席は占有契約とし、残り450席分はシェア(共有)契約とすることが可能です。占有はその名前通り1:1の契約です。契約者は有事の際、確実にその席を使用できます。一方でシェア契約では、1:20とか1:30の割合で利用権を確保します。シェアする契約者数が多いほど費用は抑えることができます。

占有契約用ワークスペースとシェア契約用ワークスペース

シェアの契約と聞くと、広域災害で一斉に契約企業が押し寄せたら機能しないのではないかという心配が湧いてきます。しかしここは地震のない国、英国。多くの企業が想定するリスクは広域災害ではなく、火災、テロ、爆発などによる事故や特定区域の封鎖なのです。そこで、シェア契約では、800メートル圏内では1社しか契約しないなどの「排他ゾーン」と呼ばれる条件設定があります。また、シェアで契約する会社の立地、業種、規模などを元にリスク分析を行い、同時に被災する可能性を下げるための工夫を常に行っているそうです。さらには、契約は部屋ごとに行うのですが、その部屋が使えない場合は他の部屋のアレンジにも対応してくれますし、その施設そのものが使えない場合はロンドン近郊10箇所以上に点在する他の施設でのアレンジも可能です。日本で言えば、東京、神奈川、千葉、埼玉などに施設があり、契約しているバックアップオフィスに問題があっても、どこか他の施設で業務が出来るような状態を想像すれば分かりやすいでしょうか?

私自身も英国でコンサルティングをおこなっていた10年間に、いくつかのDRサイトでお客様のバックアップシステムやバックアップオフィスの構築を支援してまいりました。実際に、ある事故でお客様がBCPを発動された場面にも遭遇しました。滅多にないことではありますが、いざ何かが起きても大丈夫な備えを続ける、非常に根気のいる取り組みが企業の事業継続を支えています。

日本では今現在バックアップオフィスというサービスそのものはあまり多く提供されてはいません。多くの企業では有事の際には関連企業のスペースを借りたり、研修施設を利用したり、または、外部の会議室を探すことで対応しようと考えている場合もあるでしょう。しかしながら、本当に必要なスペースや機材を必要な時間内に用意できるのか、今一度考えてみることも必要ではないでしょうか。

案内してくれたサンガードのリチャード氏(中央)とNewton IT(UK)の森本(右)

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