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英国BCP識者訪問の旅(1) 取材同行記事始&アイスランド火山で足止め

掲載:2010年05月11日

執筆者:代表取締役社長 副島 一也

コラム

BCMSの実質的な世界標準規格であるBS25999やBCI GPG(Good Practice Guideline)を生んだ国イギリス・・・
BCPやBCMSはイギリスでどのような経緯で発展してきたのか?
また世界で圧倒的多数のBS25999認証取得の進む国におけるBCPとはどのようなものなのか?
そんな疑問を読み解こうと総合リスクマネジメント誌『リスク対策.COM』2010年5月号にて「英国BCP」の特集が企画されました。

改めまして、皆さま、こんにちは。ニュートン・コンサルティングの副島です。今回はリスク対策様にくっついて行ってまいりましたイギリス取材同行記をお届けします。

今回の企画は「百聞は一見に如かず」。本場のBCPを直接現地に見に行こう、ということで、英国においてBCPに関わる多くの識者に直接現地でお話を伺いました。準備にあたっては、BSIグループジャパン竹尾社長の全面的なバックアップのもと、英国BSIに多大なるご協力をいただきました。また、インタビューの日程調整については、弊社グループ企業である英国ニュートンIT社長の森本が中心となっておこないました。ご協力いただきました皆様にはこの場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。

識者の方の詳しいインタビューは是非『リスク対策.COM』5月25日号をご覧頂きたいのですが、取材に同行した弊職が感じたことを並行してBCM Naviでご紹介していきたいと思います。

第1回はBCI Lyndon Bird氏のインタビューをお送りしようと思っていたのですが、丁度この取材旅行から帰国を予定していたタイミングでアイスランドの火山爆発があり、その影響で欧州の広範囲で飛行機が飛ばず、予定より1週間伸びての帰国と相成りましたので、この間、イギリスではどんな感じだったのかなど現地の旅行代理店「日新トラベル」の三重野支店長のお話も交えながらご紹介致します。

         

そんなに大事(おおごと)なの?

何かの事故・事件が起きたとき最初によく分からないのは「事の重要性」だったりします。何か起きたという事実・情報は入るわけですが、そのことで自分がもしくは自社がどんな影響を受けるのかは、実はなかなか分からないものです。

今回私がアイスランドの火山爆発の第一報を得たのは外出中の車の中でした。英国Newton ITの森本からの電話で「大変なことが起きたね!」と言われたのですが、一体何のことか分からず「はあ?」と見当違いなリアクションをしてしまいました。しかし、それからあっという間にヒースロー始め、多くのヨーロッパの空港が閉鎖され、いつ再開するのか全く分からない状況になってしまいました。

では、この時点で困ったことを整理してみます。

  • 火山爆発の状況・影響が分からない
  • いつ空港が再開するのかわからない
  • ヨーロッパの他の国の空港の状況がわからない
  • 航空会社の再開の目処がわからない

もちろん、航空会社には何度も電話を試みました。が、さすがに電話はパンク状態で全く繋がりません。私の場合は航空券を現地(英国)の代理店である日新トラベルさんで購入していたので、こちらで情報を得ることが出来ました。このときはやはり代理店さんでお願いしていて良かったと思ったものです。

ただし、色々な情報が集まっているはずの代理店でも、上述したような情報については正確な答えはありませんでした。英国や欧州の航空当局や航空会社でさえも自然との闘いであり、火山活動が続くのか、風がどう流れ火山灰がどう動くのか、などの疑問に答えることは出来なかったからです。

日新トラベルUKの三重野支店長に聞く

丁度折り悪くこの時期は欧州ではイースターの期間中でした。日本ではあまり一般的ではありませんが、多くの欧米の国々ではイースターは大型のホリデー期間にあたり、学校もお休みになり旅行に出かける人達が最も多い時期です。英国でも飛行機が飛ばないために約15万人の英国人が自国に戻れない状況になっていました。

欧州航空管制局、英航空当局、空港、航空会社が話し合いの上で、危険があると判断して空港を封鎖してはいるものの、ビジネスは止まり、影響が各方面に出てまいります。閉鎖期間が長引けば、それだけ経済に与える影響もどんどん大きくなります。

この間、旅行業界で起きていたことについて日新トラベルの三重野支店長に話を伺いました。

日新トラベル 三重野支店長

Q:この期間の対応はどうされていたのですか?
A:火山噴火直後の土日は、多くの社員が出社して対応しました。旅行中の顧客をリストアップし、各企業に状況説明の連絡を行いました。宿泊予約や飛行機以外の別ルートの案内など出来ることは何でもバックアップしました。また、航空会社さんの社内での対応もものすごいボリュームになった模様です。

Q:英国で対応していて日本との違いなど特に気づいたことはありますか?
A:基本的に土日でも十分な対応をしたのは日系企業だけだったのではないかと思います。今回、火山爆発が伝えられたのが週末の木、金でした。とりあえず多くの空港が閉鎖されましたが、いつ再開するのかについて協議は週明けに行うというのが欧州航空管制局や英航空当局の発表でした。このあたりはもし日本だったらではありえないことじゃないかと感じました。顧客からの要望も多く、期待値も高いですからね。

Q:再開はスムーズに進んでいますか?
A:そうですね、各航空会社も試験飛行を行ったり、ダイバード運行を行ったりと工夫しながら早期再開に向けて進めていったと思います。具体的にはKLMやBA、ルフトハンザなどが比較的早くテスト飛行を行い安全確認を進めました。また、最初に再開する便では、出発地は発ち、目的地に向かうが、目的地が閉鎖された場合、別の空港に到着することもありえるとの念書を用意し、同意できる顧客だけを対象に運行されました。日本を発ちロンドンに向かった飛行機がロシアやイタリアに着くという可能性もあったわけです。こうしたフレキシブルな対応で早期再開が実現していったのだと思います。

Q:最後に今回のインシデントを通してコメントがありましたら?
A:現実にエクストラで人手がかかり、大変な対応を迫られましたが、いざというときにきちんと対応できる会社であることをお客様にアピールする機会にもなったのではないかと感じます。また、いつ起こるかわからないインシデントに対し、業界全体でしっかりした危機管理について対応できるよう取り組むとことの重要性を感じており、知識や経験をしっかり蓄え、今後にも安心してご利用いただける会社になるよう頑張って参りたいと思っています。

三重野支店長、貴重なお話ありがとうございました!

欧州のリスクマネジメント

「土日に頑張って対応しない欧州での状況」についてですが、だからと言って欧州がリスクマネジメントに熱心ではないのかというと、そうではありません。もしこれがテロ対応で土日も危険にさらされているような状況であれば関連当局は間違いなく動いていたでしょう。今回の場合は、土日に判断したところで改善できる可能性も低く、また、その間止めておくことの方が危険が少ない状況であったため、土日は動かなかったと考えるべきだろうと思います。そういう意味では、彼らの対応は十分冷静にリスク分析をしたうえでの対応だったといえるかもしれません。

ただし、日本人からしますと、そうした合理性は理解しつつも、土日も移動の予定がある多くの顧客がいる中で当局が動かないというメンタリティには大いに違和感を覚えます。当局が動かなければ、空港、航空会社、代理店など多くの事業者が動けず、多くの一般顧客の不満は大きくなります。日本の文化では、対応しないことは大きなリピュテーションリスクになりかねません。これはまた別のリスク対応となりますが、その人種・文化・背景などもリスク対応で考えるべき要素になり、一元的な正解は無いのだろうなあと改めて感じたインシデントでした。

次回アップ予告

さて、次回以降ですが、今回訪問してきました、BCI本部、BSI本部、スコティッシュパワー、サンガード、Newton IT 他 日系金融機関などの様子を写真も含めてご紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
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