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米朝共同声明と北朝鮮核問題の展望

掲載:2018年06月15日

コラム

6月12日にアメリカ合衆国(以下米国)のドナルド・トランプ大統領と朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)の金正恩委員長が首脳会談を実施し、会談の成果として米朝共同宣言に署名しました。北朝鮮による核兵器開発、弾道ミサイル開発は日本の安全保障や東アジア経済に大きな影響を及ぼすため、米朝共同声明の内容は日本の市民や企業からしてみても重要です。今回トランプ大統領と金委員長により署名された共同宣言は実務的な内容は殆ど含まれておらず、今後より具体的な手続き的な協議が必要となる内容でした。

では、署名された共同宣言はどのような内容だったのでしょうか。

         

米朝共同宣言の概要

まず、前文においてトランプ大統領による北朝鮮の体制保証の約束と、金委員長による非核化の決意が述べられています。この両者の約束は同じ文の中で宣言されており、米国による体制保証と北朝鮮による非核化が交換関係にあることが明確化されたと言えます。また、前文後段では両国間の信頼関係の構築を進める旨が述べられています。そして共同宣言の本文は以下の4段から構成されています。

  1. 平和と繁栄に向けた新たな関係の樹立のための取組
    ここで述べられている「新たな関係」とは、これまでの経緯から朝鮮戦争の終戦協定締結と、より将来的な国交関係の樹立であると言えます。今後、核・弾道ミサイル問題の解決に向けた交渉と国交樹立の交渉が同時に進められていくもの考えられます。
     
  2. 朝鮮半島における永続的かつ安定的な平和的体制の構築
    2段目の朝鮮半島における永続的かつ安定的な平和的体制の構築は、前文で宣言された北朝鮮の体制保証が平和的で永続的なものであることを意味します。米国は北朝鮮体制が安定的かつ永続的に維持されるように保証し、北朝鮮は非核化によって平和的体制への転換が求められます。
     
  3. 4月27日の南北首脳会談で署名された板門店宣言の内容の再確認と北朝鮮による完全な非核化の約束
    板門店宣言では、第一に南北の共同繁栄と自主統一、第二に軍事的緊張の緩和、第三に朝鮮半島における平和体制の構築と非核化が宣言されています。ここでは、朝鮮半島の終戦協定に向けた取り組みが再度確認されており、非核化が明示されています。
     
  4. 朝鮮戦争中の捕虜や遺骨の回収・返還
    朝鮮戦争では米国軍に約4万人の戦死者が生じており、遺骨の一部は未回収となっています。また、朝鮮戦争の休戦から65年がたちますが北朝鮮国内には未だ数百名の戦争捕虜が存命しているとされています。今後、両国間の関係改善のため戦争捕虜と遺骨の回収・変換が進められます。

後文では上記内容の迅速な実施と、米国のポンペイオ国務長官と北朝鮮の高官による交渉が今後進められていくことが宣言されています。

北朝鮮核・弾道ミサイル問題の展望

以上の様に、6月12日の米朝首脳会談の結果署名された米朝共同宣言は、北朝鮮の非核化と体制保証に言及し、東アジアにおける冷戦の終結と北朝鮮の核・弾道ミサイル問題の解決に向けた政治的第一歩として重要なものとなりました。今後の交渉では、米朝を中心に具体的な非核化手続きが詰められていくものと考えられ、以下の様な課題を解決していかなければなりません。

「完全な非核化(complete denuclearization)」とは何を意味するのかが今回の共同宣言では定義されておらず、例えば核弾頭に絞るのか、放射性物質の濃縮を含めるのかについての合意を行わなければなりません。

「新たな関係の構築」では、非核化交渉と終戦・国交樹立交渉が同じ交渉枠組みで議論されるのか、同時並行で進められるのかを決めていかなければなりません。終戦交渉は南北の領土と体制の承認や賠償関係が含まれる可能性があり、非核化交渉と同様に複雑なものとなり得ます。

また核兵器の投射手段として北朝鮮が開発している弾道ミサイルを、非核化プロセスに含めるのかどうかについて明確に合意しなければなりません。弾道ミサイルの取り扱いを明確にしなければ、イランのJCPOAと同様に、後の対立の要因となり得ます。

現在北朝鮮には核兵器開発、弾道ミサイル開発に対する経済制裁が課されており、米国はテロ支援国家指定を行っています。今後の交渉で北朝鮮から制裁の緩和や解除が求められるものと想定され、制裁の取り扱いについて関係各国で合意しなければ非核化の交渉は進展が難しくなるといえるでしょう。

そして、これらの交渉に参加し、非核化を実施する国を取り決めなければなりません。例えば米朝の2国間や、米韓と中朝の4カ国、日露を加えた6者協議の参加国などが想定され、非核化の実施に当たってはそれぞれの役割分担について合意しなければなりません。

核開発問題の解決を進めたイランの事例では、オバマ政権で合意されたJCPOA(包括的共同作業計画)からの米国の一方的離脱がトランプ大統領により発表されたように、核問題の解決プロセスは関係各国の長期的な協力が無ければ瓦解してしまいます。北朝鮮はイランとは異なり、実際に核兵器を保有していることから非核化の交渉とプロセスはより複雑なものとなります。

北朝鮮の核兵器・弾道ミサイル問題を巡る過去1年の主な動き
2017年 7月4日 火星14号の発射実験
7月28日 火星14号の発射実験
8月28日 火星12号の発射実験 (日本上空を通過しJアラートが発令される)
9月3日 6度目の核実験の実施
9月15日 火星12号の発射実験 (日本上空を通過しJアラートが発令される)
11月28日 火星15号の発射実験
2018年 2月 平昌オリンピック南北合同チームが実現
4月28日 南北首脳会談実施、板門店宣言が署名される
6月12日 米朝首脳会談実施、米朝共同宣言が署名される
 

先日、北朝鮮は核実験場の破壊を外国メディアに公開し、非核化へのステップを踏み出しています。しかし、非核化への実務的な手続きは今後の交渉に委ねられています。そして、複雑な非核化交渉の中で、米朝共同宣言で謳われた内容が破棄される可能性は多分に存在しています。米朝共同宣言により、2017年に行われたような北朝鮮による示威的行為や軍事的緊張の高まりは喫緊の脅威ではなくなりましたが、現実に北朝鮮が核兵器とその運搬手段である弾道ミサイルを保有している事実に変わりはありません。実際に北朝鮮の非核化作業が開始され、非核化が達成されたことが確認されるまでは予断を許さない状況であると言えるでしょう。

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