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日本国内への弾道ミサイル攻撃に対する備えと行動

掲載:2017年04月21日

コラム

昨今の北朝鮮の弾道ミサイルや核実験に係る活発な活動により、組織や個人の危機管理において、弾道ミサイルへの対応についても日頃から検討する必要性が高まっています。本稿では皆様が今後弾道ミサイルへの対策を検討する際に参考にして頂けるよう、弾道ミサイルに関する解説を行いながら、日本の迎撃態勢や制度を踏まえた推奨される行動を検討しています。

弾道ミサイル発射の予兆や攻撃の検知、迎撃態勢の整備は進められており技術も進歩していますが、予兆や攻撃の検知・迎撃が困難であることに変わりはなく、いざというときに適切な行動をとるためには、時間が非常に限られていることを知っておかなければなりません。そして、弾道ミサイル着弾までの時間的猶予がどの程度なのかを理解するには、弾道ミサイルの飛行軌道と北朝鮮が配備している弾道ミサイルについての知識が必要です。また、対応策の検討や情報収集に必要な基礎知識として、日本が国としてどのような備えをしているのかを知らなければなりません。その上で、自らの命と組織の人員を守るために取るべき行動を考えるには、国民保護計画に基づく警報通知態勢を確認し、警報発令後に推奨される避難行動を考え、普段から使用することのできる情報収集手段を得ておく必要があります。

         

日本への着弾時間と北朝鮮の弾道ミサイル

弾道ミサイルが発射されてから攻撃に備えるための時間は限られており、一瞬の判断が命取りになる可能性があります。仮に弾道ミサイルが北朝鮮から日本に向けて発射された場合、東京までは最短で4分程度、通常7~8分で着弾すると考えられます。弾道ミサイルはその名の通り山なりの「弾道」軌道を描いて飛行しますが、どの程度の角度で打ち上げるかを選択することが可能です。奇襲性を高めるために着弾までの時間を短くする場合、ディプレスド軌道と言われる最高高度をより低くした軌道で発射します。迎撃回避の可能性を高めるためには、最高到達高度の高いロフテッド軌道を選択し発射します。これらの発射オプションは弾道ミサイルの能力に依存するため、攻撃目標地点が使用する弾道ミサイルの最大射程範囲に近い場合は最小エネルギー(ミニマム・エナジー)軌道という45度前後の角度で打ち上げます。

北朝鮮が保有する弾道ミサイル「スカッド」の射程は500㎞程度、最新型の「スカッドER」は射程1000㎞程度とされています(北朝鮮から東京までは直線距離で1500㎞程度)。「ノドン」は射程1500㎞~2000㎞とされ、ミニマム・エナジー軌道で打ち上げられると想定されます。2016年に数回打ち上げた弾道ミサイル「ムスダン」は射程3,000㎞~4,000㎞とされ、6月の発射実験の際は迎撃を難しくするためのロフテッド軌道の実験であったとされています。「北極星1号、2号」は北朝鮮が公開した弾道ミサイルでは初めて固体燃料を使用している可能性が高く、発射準備に必要な時間が短く事前に予兆を確認することがより難しくなります。これは、固体燃料は保存性が高く発射に必要な時間が30分程度とされるためで、液体燃料弾道ミサイルは燃料を充填した状態で保存することが難しいため弾道ミサイルの発射準備に数時間が必要とされています。北極星シリーズは実験の成否や傾向から、未だ配備段階にはなく実験中であると見られますが、「北極星1号」として北朝鮮が公開した画像は海中から発射されておりSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)と見られ、発射前の事前探知は一層困難です。

日本の弾道ミサイル迎撃態勢

では、日本はこれらの弾道ミサイルによる攻撃を受けるリスクに対して、どういった備えをしているのでしょうか。国としての備えは組織や個人が取るべき行動の基礎となり、情報を収集し分析するために必要な知識となります。米国の早期警戒衛星や日本の情報収集衛星、各種レーダーなどによって、弾道ミサイル発射の予兆が確認された場合、自衛隊は非常勤務体制をとり、弾道ミサイル迎撃ミサイルSM-3を搭載する海上自衛隊のイージス艦は訓練等を中止し迎撃地点に移動します。SM-3は最高到達高度400~500kmとされ、「ミッドコース・フェーズ(下記コラム参照)」での迎撃を担います。

さらにイージス艦による迎撃失敗に備えPAC-3を自衛隊市谷駐屯地や沖縄県等に配備します。PAC-3は射程10~20km程度で「ターミナル・フェーズ」での迎撃を担い、言わば最後の盾と言えるでしょう。PAC-3はサウジアラビアなどが湾岸戦争時のイラクや、現在もイエメンからの攻撃に対して実戦使用しており、高い確率で迎撃に成功していますが運用状況が異なる点には留意しておく必要があります。韓国が配備を決定したTHAAD(終末高高度防衛システム)は射程200㎞前後とされ、その名の通りPAC-3に比べ「ターミナル・フェーズ」のより高い高度での迎撃を目的としています。本来であれば弾道ミサイル迎撃のためには防衛大臣が総理大臣の承諾の下、破壊措置命令を出さなければなりませんが、昨今の北朝鮮による活発な弾道ミサイル実験と技術的進歩を踏まえ、2016年8月8日に常時発令となり、3か月毎に更新され現在まで継続しています。

また、弾道ミサイルに限らず実際に日本への攻撃の蓋然性が高まると、自衛隊に出動命令が出されます。自衛隊への出動命令は、緊急度の低い順に予測事態、切迫事態、発生事態がそれぞれ国会において認定されることで内閣総理大臣から出されます(緊急の場合の国会承認は事後承認となります)。予測自体は字義通り、日本への武力攻撃が予測されている状況に出されます。切迫事態は、日本に対して武力攻撃が行われることが明らかであると認められる状況です。発生事態は実際に日本に対する武力攻撃が生じている状況です。それぞれの状況における自衛隊の動きは、予測事態において陣地の構築や招集が行われ、切迫事態では防衛出動を行い部隊配備が進められ、発生事態すなわち日本が実際に攻撃を受けると個別的自衛権に基づき武力行使による反撃が行われます。2017年4月18日には、弾道ミサイルが発射され日本の領海内への着弾が予測される場合も切迫事態として認定できるよう政府が検討に入ったとの報道がされました。
 

【弾道ミサイルの軌道】

弾道ミサイルの軌道は発射から着弾までを3つに区分します。発射直後からロケットエンジンを燃焼させ加速する段階を「ブースト・フェーズ(加速)」。ロケットエンジンの燃焼が完了し、エンジンと燃料タンクを切り離した弾頭が慣性飛行をするのが「ミッドコース・フェーズ(中間)」。ミッドコース・フェーズでは宇宙空間を飛行するため、着弾させるためには大気圏に再突入しなければなりません。この再突入から着弾までの時間を、「ターミナル・フェーズ(終末)」と言います。宇宙に関する映画やアポロ計画についての映像などでご存知の方も多いとは思いますが、宇宙空間から大気圏に再突入すると空気抵抗による摩擦が発生し物体は非常に高温となります。弾道ミサイルによる攻撃を成功させるためには、再突入する弾頭の中身を守るカバー部分が、この高温や振動に耐えるよう設計しなければなりません。
 

国民保護計画と着弾後の対応

以上のように、日本は弾道ミサイルに対する備えを進めていますが、迎撃や探知が難しいことに変わりはなく、私たちは弾道ミサイル着弾までの限られた時間で最善の行動をとらなければなりません。弾道ミサイルによる攻撃が目前に迫り、弾道ミサイルが着弾した際に個人や組織がまず取るべき行動は「国民保護計画」に基づき通知される警報を適切に把握することが必要です。また、実際に弾道ミサイルが発射された際は各々の瞬時の判断に依存するため、事前に推奨される行動を知っておくことが大切です。

日本政府は他国による日本攻撃の可能性に鑑み、平成15年に「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(事態対処法)」及び、平成16年に「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)」を制定、これらの法律に基づき「国民保護計画」を策定しています。基本的な指針等は国民保護ポータルサイトから確認出来ます。

弾道ミサイルの日本への発射が確認されるなど、日本への攻撃が目前に迫っていることが確認された際には、政府は複数の情報伝達手段を用いて市民への警報通知を行います。一つめが、「緊急情報ネットワーク(Em-Net)」を使用し、各地方自治体や放送機関への通知による避難指示などの情報伝達、二つめが、「全国瞬時警報システム(J-ALERT)」による自動通知。三つめが消防防災無線による警報や避難の伝達です。各警報システムの不具合等も想定し、全ての手段を使用した通知が実施されますが、最も緊急性が高く私たちが聞くことになるのはJ-ALERTの警報だと考えられます。これらの手段を使用した国民保護に係る警報のサイレン音は、国民保護ポータルサイト内で聴くことが可能です。

国民保護に係る警報が発令された場合、第一義的に推奨されるのは屋内への避難です。とくにコンクリート造の堅牢な建物や、地下施設への避難が求められます。地下施設の無いビルであれば、窓から遠ざかることでより安全を確保することが出来ます。弾頭の種類によりますが、まずは着弾時の爆発により生じる爆風から身を守り、次に着弾した弾頭の場所や種類により国や自治体から避難や待機等の行動指示があるので情報に注意して下さい。また、PAC-3による迎撃が成功したとしても弾頭の破片、弾頭が核兵器や化学兵器であった場合は放射性物質や有毒物質が降下してくる可能性があるため、行政機関からの避難指示がない限り少なくとも数時間は屋内に待機する必要があると言えます。こうした行動をとるために、事前に日常の行動範囲にどのような建物や地下施設があるのかを調べておくことも必要です。

 

北朝鮮からの攻撃予兆についての情報獲得手段

組織や個人の命を守るためには、如何に情報を得るかも非常に重要です。特に弾道ミサイルの場合、攻撃が発生する可能性についての情報が検知され通知される可能性があるため、日常から情報へのアンテナを張っておく必要があります。具体的には、戦争や武力衝突の可能性が生じた地域に対しては外務省が海外安全情報スポット情報を出し、攻撃が目前に迫る若しくは発生すると渡航勧告レベルを引き上げます。2017年4月11日に外務省は朝鮮半島情勢の緊迫化を踏まえ、韓国在留邦人に対して注意するようにとのスポット情報を出しています。なお、北朝鮮については、日本と国交がなくミサイル実験や核実験に対する国際的な制裁の一環として人的往来や経済活動が制限されているため、日本人には渡航の自粛が求められています。

弾道ミサイルについて過剰に恐れ、パニックになるのではなく、他のリスクと同様に、日常から有事の際の行動を検討し、実際に発生しても冷静に対処出来るように備えておきましょう。

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