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コラム

日本企業にとっての安全保障貿易管理の重要性と改正外為法

2017年07月04日

コンサルタント

菊池 朋之

コンサルタント 菊池 朋之

2017年5月24日に外国為替及び外国貿易法(外為法)が改正されました。この改正は、国際的な安全保障の安定化のために、核兵器等の大量破壊兵器(WMD)を含む兵器の国際的拡散や不法取得の防止の強化を目的としたものです。

対象となる物品や技術の国際取引に関する規制の違反者に対する罰則及び制裁が大幅に強化されています。具体的には、違反した場合、法人名が公開されるとともに、罰金や制裁が課されます。このため社会的なマイナスイメージとなり、罰金や制裁は企業の資本及び業務継続にとっての大きなリスクとなります。

しかも、同法の影響を受ける企業は決して少なくありません。軍用技術ではなくても、汎用品や技術の多くが軍民両用性(デュアルユース)を持つからです。例えば、メーカーや商社などは機微技術に係る品目の輸出や技術取引について届け出が義務付けられています。

こうした背景から、企業は同法の改正内容をしっかりと理解しておきたいところです。が日本の安全保障貿易管理制度は、国際的な多国間貿易管理制度や国連の決定に基づいており、制度の全容を把握するには、それらの国際的な枠組みを理解する必要があります。

そこで本稿では、これら国際的な兵器の拡散防止に関する制度と日本の安全保障に関わる貿易管理制度を概説した上で、経済産業省が公開している外為法の改正のポイントを記載していきます。

多国間貿易管理の概要

多国間貿易管理の基本的な目的は、技術輸出国間の輸出規制制度のムラを均質化し、抜け漏れの無い兵器の拡散防止策を講じることにあります。

なお、兵器の拡散防止を目的とした貿易管理においては、国際政治情勢と密接に連関しながら主要な輸出国間での会議によって対象となる物品や技術の情報交換が行われます。合わせて、国連の安全保障理事会で特定国家への輸出禁止措置等が決定されます。その内容に基づき各国が独自に輸出管理を行います。

また、主要輸出国間の会議体は対象となる兵器によって異なっており、核兵器については原子力供給国グループ(NSG: Nuclear Suppliers Group)、生物化学兵器についてはオーストラリア・グループ(AG: Australia Group)、弾道ミサイル等のミサイル関連物品についてはミサイル技術管理レジーム(MTCR: Missile Technology Control Regime)、通所兵器についてはワッセナー・アレンジメント(WA: Wassenaar Arrangement)がそれぞれ設立されています。
 
原子力供給国グループ(NSG)
原子力供給国グループ(NSG)は、原子力専用に開発・設計された物品と技術及び原子力関連汎用品と技術を対象とした会議体です。1978年にガイドラインが制定され、現在48ヶ国が参加しています。

なお、このグループが設立されたきっかけはインドの核実験です。インドは民生用として原子力発電のために供給された原子力施設と燃料を用いて核兵器を開発し、1974年に行った実験を行いました。核不拡散条約(NPT)未加盟国により核兵器の不拡散のためには民生用であっても規制する必要が認識されたのはこの時です。

また、このグループがもたらす具体的な規制ですが、NSGは原子力関連物品の輸出先について、輸入国がIAEA(国際原子力機関)との包括的保障措置協定を発効していることを原則としています。他方、欧米や日本がIAEAの包括的保障措置協定未発効国のインドと結んだ原子力協定等のように例外も存在します。NSGの対象となるのは核兵器の生産に資する可能性のある原子力関連の網羅的な物品や技術であり、その品目は原子力専用品を列挙したパート1と、原子力以外にも使用可能な汎用品を列挙したパート2に分けられています。
 
オーストラリア・グループ(AG)
オーストラリア・グループ(AG)は、化学兵器及び生物兵器の生産に使用可能な技術の網羅的な輸出管理の実施を目的とした会議体です。現在オーストラリア・グループには40ヶ国が参加しています。

1980年から始まったイラン・イラク戦争において化学兵器が使用されたことを受け、1985年に発足しました。特にイラン・イラク戦争化学兵器生産のために、民生用として輸出された化学プラント等が化学兵器の生産に使用されたとの疑惑が生じたことから、化学兵器の生産に使用可能な技術の網羅的な輸出管理の実施を目指して発足しました。その後生物兵器の生産に関する技術も加えられたという経緯があります。
 
ミサイル技術管理レジーム(MTCR)
ミサイル技術管理レジーム(Missile Technology Control Regime)は、ロケット・システムや無人航空機システムに関する技術を対象とした会議体です。1987年に発足され、現在34ヶ国が参加しています。

なお、発足の具体的なきっかけは、イラン・イラク戦争です。多数の弾道ミサイルが使用されたことにより、核兵器や化学兵器といった大量破壊兵器(WMD)の搭載可能な弾道ミサイル技術の国際的な拡散が明白となりました。弾道ミサイルを含む大量破壊兵器運搬手段の拡散を防止する必要があるとの認識の高まりが1987年の発足へとつながります。

また、MTCRでは参加各国が取り組むべき技術として、搭載能力500キログラム以上かつ射程300キロメートル以上の完成したロケット・システムや、完成した無人航空機システム及びロケットの各段,再突入機,ロケット推進装置,誘導装置等のサブシステム(カテゴリー1)、射程300キロメートル以上の完成したロケット・システム、完成した無人航空機システム、ならびに、それらシステムの開発に使用されうる資機材・技術(カテゴリー2)を挙げています。
 
ワッセナー・アレンジメント(WA)
ワッセナー・アレンジメント(Wassenaar Arrangement)は、通常兵器と通常兵器関連の汎用品を対象とした会議体です。1996年に発足し、現在41ヶ国が参加しています。

米ソ冷戦の終結に伴い、それまで米国を中心とする西側からソ連を中心とする東側への貿易政策の調整を行っていた対共産圏輸出統制委員会(COCOM)に代わる新たな枠組みへの必要性が生じたことをきっかけに設立された組織です。
 

日本の貿易管理制度

日本は以上の国際的な枠組み、すなわちNSG、AG、MTCR、WAのいずれにも参加しており、これらの枠組での議論は適宜外為法や政令等に反映されます。

まず輸出規制そのものに関してですが、注目すべき規制がいくつかあります。外為法第48条及び政令である輸出貿易令はその1つです。この法に基づき、特定の仕向け地や貨物の輸出規則が定められています。また、特定技術を特定国に輸出する際の規則を定める外為法23条第一項も注目すべき規制の1つです。
 
次に品目ごとの規制についてです。規制品目については、輸出管理令の別表1に列挙されるとともに(リスト規制)、キャッチオール規制と呼ばれる需要者と輸出品の用途(エンドユーザー)から行われる規制が存在します。

なお、輸出品目や技術が軍事的に特に機微なものである場合、すなわち輸出管理令別表1に列挙された品目の場合は仕向け地の区分無く経済産業大臣の許可を受けなければなりません。ちなみに、列挙されたリストに基づいた規制であることから、「リスト規制」と呼ばれています。

また、輸出管理令別表に列挙された項目以外でもキャッチオール規制、すなわち大量破壊兵器の開発・製造・使用・貯蔵若しくは通常兵器の開発・製造・使用に用いられる可能性があることを輸出者が知るか(客観要件)、経済産業大臣からの通知を受けた場合(インフォーム要件)には許可が必要となります。

ところで、キャッチオール規制は全ての国への輸出に課されるわけではなく、外為法上仕向け地となる国家はホワイト国、国連武器禁輸国及び地域、その他という3つの区分が設定されています。

 大量破壊兵器のキャッチオール規制はホワイト国以外の国・地域であり、それらの対象国は規制要件の内インフォーム要件と客観要件の両方が該当します。通常兵器のキャッチオール規制についてもホワイト国以外の国地域が対象となりますが、国連武器禁輸国・地域についてはインフォーム要件と客観要件の内用途要件、つまり経産省からの通知若しくは輸出品が通常兵器の開発・製造・使用に用いられる可能性があることを知った場合に輸出の許可が必要となります。ホワイト国でも国連武器禁輸国・地域でもないその他の国への通常兵器のキャッチオール規制はインフォーム要件、即ち経済産業大臣からの通知があった場合に輸出の許可が必要となります。以上の規制制度をまとめたものが下図となります(2017年7月3日現在)。なお、それぞれの国や地域において取るべき手続きに関しては、国際情勢等の変化によって変更される可能性があります。

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外為法の改正

2017年5月24日に施行された改正外為法により、輸出管理に関する義務の違反に対する罰則及び制裁が大幅に強化されました。外為法上の輸出管理等の規制は国際的な兵器の拡散を防止するための措置であるため、遵守が求められますが、制度への理解の無いまま取引を行えば違反行為となり、法人及び個人にとってこれらの罰則は大きなリスクとなります。大きくは罰金よる金銭的リスク、輸出入取引禁止制裁による業務継続リスク、違反法人名・個人名が公開されることによる社会的信用へのリスクがあると言えます。

以下は、同法の改正内容の概要です。
改正外為法の概要(経済産業省HPより抜粋)
(1)輸出入・技術取引規制における罰則の強化
  1. 機微技術等の違法流出の抑止力を高めるべく、大量破壊兵器関連の貨物又は技術についての無許可の輸出又は取引や、制裁による輸出入規制の違反など、違反行為に対する罰金刑を引上げます(現行:最大1,000万円→改正案:最大3,000万円)。
  2. 併せて、これらの違反行為を行った法人に対する重科制度を創設します(最大10億円)。
  3. 輸出許可・技術取引許可に付された条件に違反した場合における過料を罰則化します。
     
(2)輸出入規制における行政制裁等の強化
  1. 輸出入規制の実効性を強化すべく、輸出入の禁止等の行政制裁を命じられた法人の役員等に対し、制裁の対象となった業務と同じ業務を営む別会社の当該業務を担当する役員等に就任することや、同じ業務を個人業として新たに開始することを禁止するといった行政制裁逃れに対応する制度を創設します。
  2. 我が国独自の輸出入禁止措置に違反する行為への抑止力を高めるべく、当該輸出入禁止措置の違反者に対する行政制裁の期間の上限を引上げます(現行:1年間→改正案:3年間※)。※大量破壊兵器関連の貨物の輸出規制等の違反者に対する行政制裁の期間の上限と同等です。
  3. 無許可輸出等の違反行為の調査のための立入検査の対象に、輸出業者等の関係者(例:輸出仲介業者)を追加します。
     
(3)対内直接投資規制の強化
  1. 投資や買収を通じた機微技術の流出を適切に管理すべく、審査付事前届出制の規制対象に、外国投資家が他の外国投資家から非上場株式を取得するもののうち、国の安全を損なうおそれが大きいか否かの基準で審査が必要なものを追加します。
  2. 無届けで対内直接投資等を行った外国投資家等に対し、国の安全を損なうおそれがある場合には、株式の売却命令等の必要な措置命令を行うことができる制度を創設します。  
     
世界的にも高い技術力を誇る日本企業にとって、国際的な安定を脅かす国や不安定な地域への大量破壊兵器やその運搬手段及び通常兵器に関する技術の拡散を防止することは、社会的にも重要な責務の一つです。こうした観点から見れば、輸出管理の規制を遵守することは法的義務を履行しリスクを回避するのみならず、CSR(企業の社会的責任)を果たすことにもつながるといえるでしょう。
 

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