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コラム

他人事では済まされない「グローバルリスク報告書2018(The Global Risks Report 2018 13th Edition)」から読み解くべきこと

2018年05月16日

コンサルタント

北川 信夫

コンサルタント 北川 信夫

世界経済フォーラム(World Economic Forum)は2018年1月17日、第13版となる「グローバルリスク報告書2018」を発表しました。本稿では、同報告書を概説するとともに、2018年に発生可能性の高いリスクと影響が大きいリスク及び10の将来起こりうる危機の要綱を解説します。

なお、「グローバルリスク報告書」とはグローバルビジネスリーダが直面するであろうリスクに対して適切な対策を講じるためのポイントを伝えることを狙いとして、世界経済フォーラムが毎年発表しているものです。その調査・分析にはマーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズ(Marsh&MacLennan Companies)が協力しており、2006年から発行され、今年で13年目になります。

各種分析・評価にあたっては、グローバルリスク意識調査(The Global Risks Perception Survey、以下「GRPS」)と呼ばれるデータが活用されており、今回のグローバルリスク意識調査は、企業、政府、学術界、NGO、国際機関等のリーダーで構成される世界経済フォーラムのコミュニティとリスクマネジメント協会(Institute of Risks Management)に加え、各分野の学識者からなる専門家会議のメンバーを対象に実施されています。

2018年に発生可能性の高いトップ5のグローバルリスクとは

発生可能性が高いリスクについては、2017年と2018年で大きく変わってはいないようです。事実、最も発生可能性が高いと考えられているリスクは両年ともに「異常気象(1位)」です。
そのような中で2018年に注目すべきは「サイバー攻撃(3位)」や「データの不正利用または窃盗(4位)」など、情報セキュリティに関するリスクが上昇していることでしょう。

発生可能性が高いリスク
2017年 2018年
1 異常気象 異常気象
2 大規模な非自発的移住 巨大自然災害
3 巨大自然災害 サイバー攻撃
4 大規模なテロ攻撃 データの不正利用または窃盗
5 データの不正利用または窃盗 気候変動緩和・適応への失敗

出典:The Global Risks Report2018 13th Edition FigureⅣ:を基にニュートン・コンサルティングが作成

2018年に影響の大きい上位5つのグローバルリスク

影響が大きいリスクについても順番の変動はあるものの、2017年からリスクの項目に変化はありません。具体的には、最も影響の大きいリスクに「大量破壊兵器(1位)」、その後に「異常気象(2位)」が続いています。「異常気象(2位)」「巨大自然災害(3位)」「気候変動の緩和や適応への失敗(4位)」は、発生可能性のトップ5にもランクインしていることを考慮しますと、これらのリスクは特に企業が注意すべきものと言えるでしょう。
 
発生可能性が高いリスク
2017年 2018年
1 大量破壊兵器 大量破壊兵器
2 異常気象 異常気象
3 水危機 巨大自然災害
4 巨大自然災害 気候変動の緩和や適応への失敗
5 気候変動の緩和や適応への失敗 水危機

出典:The Global Risks Report2018 13th Edition FigureⅣ:を基にニュートン・コンサルティングが作成

発生可能性が高いリスク及び影響が大きいリスクの事例

上記リスクは主には下記のような事例を指します。

異常気象
地球規模での気温上昇による降水量の増加、干ばつ、山火事、海面上昇等の気象災害発生等

自然災害
バリ島アグン山噴火、メキシコ沖地震(M8.2)等

サイバー攻撃
標的型サイバー攻撃、ランサムウェア、産業制御システムへの攻撃等

データの不正利用または窃盗
コインチェック社の仮想通貨流出、Facecbook社の個人情報不正利用等

気候変動緩和への支援や対応の失敗
米のパリ協定離脱等

大量破壊兵器
北朝鮮の核・弾道ミサイル開発、イラン核問題等

水危機
水不足、水質汚染等

Future Shocks(10の将来起こりうる危機)

今回の報告書から新たに「Future Shocks(将来起こりうる危機)」というセクションが設けられ、10の危機が挙げられましたが、組織においてはこれら危機をも考慮して、中長期的に「どのような戦略をとるべきか」といった企業戦略を考えることが重要だと言えるでしょう。なお、ここで言う「将来起こりうる危機」とは、既出のリスクが「明日にでも起こる可能性があるリスク」であるのに対し、「やや先の将来に起こる可能性のある影響の大きなリスク」を指します。

例えば、危機の1つに「A Tangled Web:人工知能(AI)の台頭によるインターネットの機能不全」が挙げられています。いきなり明日にインターネットサービスがダウンするという話ではなく、また仮にその可能性が高いとしても短期的に打てる手は限られています。企業は、インターネットに依存度についてバランスをとるような戦略をとりつつ、ビジネス展開をしていくことが必要になるかもしれません。
 

  1. Grim Reaping:異常気象、政情不安、農作物病害の結果生じる穀物地帯の同時機能障害による食料供給不足
  2. A Tangled Web:人工知能(AI)の台頭によるインターネットの機能不全
  3. The Death of Trade:保護主義的な経済政策の実施による国際貿易の停滞
  4. Democracy Buckles:ポピュリズムの蔓延による自由民主主義の混乱
  5. Precision Extinction:AIやドローン船舶を使用した大量漁獲による水産資源の絶滅
  6. Into the Abyss:経済政策の失敗による世界恐慌の発生
  7. Inequality Ingested:バイオ工学及びスマートドラッグによる格差の拡大
  8. War without Rules:国家間でサイバー攻撃が戦争手段として使用されることによる戦争の脱ルール化
  9. Identity Geopolitics:アイデンティティを巡る紛争の増加
  10. Walled Off:法的規制、サイバーセキュリティ、保護主義によるインターネットの脱グローバル化

終わりに

リスクマネジメントの取り組みを進めるにあたっては、地震等の日本で発生する蓋然性の高いリスクだけではなく、世界全体で起こりうるリスクに備えなければならないと言えるでしょう。

地震について言えば、日本は世界有数の地震大国です。日本は地震等の自然災害に関する経験が豊富なため、巨大自然災害、とりわけ大地震を想定した危機管理対策を実施していますし、2011年の東日本大震災を契機に本格的に地震対策の強化が進んでいると言えます。また近年、その蓋然性の上昇が喧伝されている首都直下地震や南海トラフ地震に備えて安全対策や事業継続策の検討も推進されています。

一方で、地震以外のリスクについては、まだ日本企業の取り組みは十分とは言えないでしょう。グローバルリスク報告書2018で挙げられているような多様なリスクはいつ、どこで発生するか分かりません。グローバル化の進展により、それらのリスクが国境を越えて影響を及ぼすようになってきています。つまり、リスクマネジメントの取り組みを進めるにあたっては、地震等の日本で発生可能性の高いリスクだけではなく、世界全体で起こりうるリスクに備えなければならないと言えます。ちなみに、当社のコンサルティング支援先でも地震等の自然災害以外のリスク対応の変化(強化)が起きています。とりわけ、グローバル企業からのお問合せが増えているのが、大量破壊兵器への対応、サイバー攻撃を含むテロ対応、そして政情・治安不安等、本報告書でも取り上げられているリスクです。

本稿において「グローバルリスク報告書2018」にどのようなリスクが記載されており、何故それらのリスクが上位に挙がっているか、どのような危機が将来起こりうるものとして挙げられているかを知っていただけたかと思います。本稿で紹介した様々なリスクを自社・自組織の事業の関連性と照らし合わせ、それらのリスクが及ぼす影響を想定して、予防策や対応策を検討してみてはいかがでしょうか。

まずは、リスクと向き合う事。本稿が読者の皆様のリスクになるべき事象を知り、リスクを特定・分析・評価を行い、対策を検討する、危機管理・リスク対策の一助となれば幸いです。