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海外出張のリスクやトラブル、企業はどう備えるか

掲載:2018年08月22日

執筆者:シニアコンサルタント 日下 茜

コラム

昨今、海外のリスク、とりわけ海外出張者のリスクが高まっており、企業はこれまで以上に備えをしておくことが求められています。近年の国際化により、海外に拠点を置いてグローバルにビジネスを展開する企業が増え、海外出張・業務渡航は当たり前のことになってきました。日本人の海外渡航数の増加に伴い、事故や事件、テロなどのトラブルに巻き込まれる可能性が高まっています。企業は、従業員に対して注意喚起・安全配慮義務を果たすことがますます必要になっており、リスクマネジメントを考える部門にとっては頭を抱えたくなるような問題です。そこで本項では、そうした企業が押さえるべきポイントについて解説していきたいと思います。

         

海外でトラブルに遭う邦人が増加傾向にある

本題に入る前に、まず、海外でトラブルに遭う邦人が増加傾向にあるという事実を認識しておきましょう。

外務省領事局海外邦人安全課は、毎年「海外邦人援護統計」を発表していますが、2016年の海外における事件・事故の総援護件数は総件数18,566件(前年比3.07%増)となり、過去10年間で最多でした。内訳の中で最も多いのが「犯罪被害」で4,202件です。ここ数年、「強盗」「窃盗」「詐欺」といった犯罪被害の件数は全体として減少傾向にある一方で、テロや政変等といった大規模な事案に巻き込まれるケースが増えています。2016年3月のベルギー・ブリュッセルでの連続爆破テロ事件では邦人2人、同年7月にはバングラデシュのレストランが襲撃され、邦人8人が被害に遭いました。

在外区間別の援護件数を見ると、在タイ日本国大使館が最も多く、次いでフィリピン、ロサンゼルス、上海、ニューヨークの順となり、ビジネスパーソンが出張で訪れることの多い国が目立ちます。

出典:2016年(平成28年)海外邦人援護統計を基にニュートン・コンサルティングが作成

海外へ渡航する際に、企業の危機管理部門が必ず押さえておくべきポイントは?

このような状況の中で、企業の危機管理部門はどのような対策を講じれば良いのでしょうか。ポイントは2つあります。不幸な事件・事故に巻き込まれないためのいわゆる「予防策」と、不幸にして事件や事故に巻き込まれてしまった時に速やかに影響を最小化させるための「事後対応策」です。
具体的には次の通りです。

1)予防策: 危機意識を醸成し、周知する
<自分の身は自分で守る>

トラブルに遭った時、「自分を守れるのは自分だけ」という意識を常に持つことで、とっさの判断や行動で被害を防ぐ、あるいは被害を最小限にとどめることが可能になります。そのためには、治安の良い日本とは異なり、あらゆる危険や危機がいつ起きてもおかしくないという「海外モード」の意識を社員に持たせることが重要です。

では、渡航後、どうやったら危ない目に遭わずに、自分の身を守れるのでしょうか。
具体的には、次のような事項に留意することが望まれます。

  • 目立たないようにする
  • 危険な場所には近づかない、危ないと感じたらすぐに避ける
  • 夜間の徒歩移動は極力控える
  • 多額の現金・貴重品を持ち歩かない
  • すぐに信用しない
  • 体調が優れないと犯罪被害に遭いやすくなるため、十二分に健康管理をする
  • なにがあっても無抵抗主義を貫く


<事前の情報収集と準備があらゆる危険を未然に防ぐ>
事前に渡航先に関する治安状況や安全対策等についてあらゆる情報収集を行い、予備知識を習得することが、緊急時に適切な行動に繋がります。外務省の海外安全ホームページ、在外公館、各国の政府観光局、旅行会社、渡航先にいる知人等から様々な情報を取得することができます。 なお、渡航前に知っておくべき情報は以下の内容が挙げられます。
  • 渡航先の基本情報(治安情勢、犯罪手口や防犯対策、医療情報、入国時の注意事項、渡航先の文化、タブー)
  • (3か月未満の渡航の場合)たびレジ
  • (3か月以上の渡航の場合)在留届の登録
  • 各種トラブル(盗難・紛失、事件・事故、自然災害、テロ等)の対応方法
  • 緊急時の連絡先(自社、在外公館、保険会社等)
  • 滞在先の大使館や領事館が対応してくれるトラブルの範囲(トラブルに応じて、在外公館で対応してもらえることと対応してもらえないことがあるため)

 
2)事後対応策:危機管理体制やプロセスの整備

社員が事件・事故に巻き込まれてしまった場合に備え、社内で誰がどのような行動をとるのか予め決めて、その通りに慌てずに行動できるようにしておくことが重要です。
なお、危機管理体制とは、会社として危機発生時に情報を一元的に集約し、迅速な意思決定を行うことを目的に、危機管理担当者や経営層を中心に立ち上げる体制です。また、プロセスとは、本社として有事には誰と誰がコミュニケーションを取るのか、誰がどこにいつまでに集まり、何を決める必要があるのか、現地に対してどういう指示やサポートを出すのか、などを決めた行動計画です。

ちなみに、こうした体制や行動計画を文書化したものは一般的に「危機管理マニュアル」と呼ばれます。地域、国、都市によって起こりうるリスクは異なるため、事前にアセスメントを実施し、訪問先に応じたマニュアルを作成している企業もあります。グローバル危機管理・BCP策定についての詳細はこちらを参照ください。

危機管理マニュアルの整備だけでなく、有事の際に実際に行動できるよう定期的な訓練を実施することも重要です。現地でのトラブルが発生した際には、本社側も迅速な支援ができるよう、ハード面(マニュアルの整備)だけでなくソフト面(従業員の危機管理に関する教育や体制整備)での準備を日頃から整えておくことが非常に重要になります。

おわりに

企業は、世界各地で起きている事件・事故を他人事と思わず、日頃から意識を醸成し、備えをしておかなければなりません。世界各地でソフトターゲットを狙ったテロが頻発している中、「我が社はそんなに海外進出してないから」「海外出張はそこまで多くないから」、あるいは「日本企業にはそこまで過激なことはしてこないはず」といった他人事のような意識は捨ててください。例えば途上国では、日本人=裕福というイメージから、日本人や日本企業であることが狙われる理由にもなりうるのです。

企業は、従業員への安全対策研修の実施、危機管理体制の強化等、組織として日頃から予防策を講じ、不幸にも社員がトラブルに遭ってしまった場合、迅速に対応できるようにすることが必要です。まずはトラブルに巻き込まれないために、また、有事の際でも最低限の被害にとどめられるよう、一人ひとりの危機意識を高め、日頃から準備をすることが重要です。

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