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ISO 20121

掲載:2015年04月14日

改訂:2021年08月02日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

改訂者:

ガイドライン

ISO20121は正式名称、ISO20121:2012 (イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム-要求事項と利用手引)であり、略してESMS(Event Sustainability management systems)とも呼ばれます(但し、ここでは以後ISO20121と呼びます)。オリンピックやマラソン大会、お祭りなど、各種イベント開発・運営を行う組織に向けて発行された国際規格です。社会的・経済的・環境的要素を考慮した持続可能性あるイベント開発を実現するための仕組みの提供を狙いとしています。なお、「持続可能性ある」とは、将来世代のニーズに応える能力を確保しながら、今日のニーズに応えること、を言います。つまり、目先の成功ではなく、世代を超えた長いスパンでの成功を目指したイベント開発のことです。

         

認証規格にも、利用手引きにもなる規格

ISO20121は、第三者認証を受けることが可能な規格です。つまり「あなたは間違いなく、持続可能性あるイベント開発を行うための仕組みをISO20121に準拠する形で整備し運用しています」といったことを独立・公平な第三者によって証明してもらうことができるものです。もちろん、認証を受けずに、単に規格を適用するだけということもできます。

したがってISO20121には、規格適用を望む組織が必ず従わなければならない要求事項・・・WHAT(何が)が書かれています。言い換えると要求事項とは、適用を望む組織にとっての義務です。ちなみに、この要求事項が誕生するにあたっては、おおいに参考にされた規格があります。BS8901(BS=British Standard)という英国規格であり、2007年に発行されたものです。ISO20121は、この後継規格です。

他方、ISO20121は「利用手引き」としての性格も持っています。同規格の中には、先の要求事項(WHAT)を、どうやって(HOW)実現すればいいのかといったヒントが書かれています。

規格の構成は

前出の背景から、本規格の基本概念や制定手順は、他のISOのマネジメントシステム規格とは大きく異なる部分があり、それが以下に示すような特徴となって現れています。

ISO20121の構成は、ISOマネジメントシステム国際規格の標準に則ったもの※です。したがって、1章から3章までは通常どおり、適用範囲や用語の定義など、規格の基本的事項に関して記載されています。
※AnnexSLに定められるISOマネジメントシステムの章構成に関する標準ルールに則っています


4章から10章までが要求事項(WHAT)に対する記述です。ISO20121の適用を望む組織が必ず「しなければならないこと」が記述されています。継続的改善のコアとなる考え方「PDCA(Plan-Do-Check-Act)」に合わせて章内が構成されています(下図参照)。簡単にまとめると、組織の理解(4章)に始まり、方針の決定(5章)、分析や目標・計画の策定(6章)、計画の実行(8章)、進捗確認・結果の振り返り(9章)、改善(10章)という構成です。

出典:ISO20121:2012 図1.本国際標準規格におけるイベントの持続可能性に関するマネジメントシステムのモデル

最後に、ISO20121の巻末には「付属書」がついています。先述した「利用手引き」が掲載されている箇所です。全部で、A、B、Cの3つの付属書から構成されます。

ISO20121の個性は4章、6章、8章

先述しましたように、ISO20121はISOマネジメントシステム国際規格の標準に則った形で構成されています。つまり、ISO9001、ISO14001、ISO27001などといった他のISO規格と非常に似通っているのです。逆に言えば、他のISOマネジメントシステム規格と似ていない箇所が、ISO20121の個性であり、特徴であるといえますが、とりわけ注目すべきは下記6点です。
項番 タイトル 特徴
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解 組織を取り巻くであろう内外の利害関係者について、他のISO規格よりも具体的に列挙
4.5 持続可能性ある開発の原則、目的及び価値の宣言 他の規格には登場しない要求事項
8.3 サプライチェーンマネジメント 他の規格には登場しない要求事項。購買や入札のあり方について言及
付属書A 当規格を計画・導入するためのガイダインス 他の規格には登場しないもの。4~10章の要求事項1つ1つに対し解釈や実現の要点を言及
付属書B サプライチェーンマネジメント 他の規格には登場しないもの。アセスメント方法などについて言及
付属書C 評価 他の規格には登場しないもの。イベント開発・運営に関する典型的な課題例を数多く列挙

ISO20121の用途

いろいろなモノがあふれ、複雑な技術が登場し、そしてこれらがつながり、現代のイベント開発や運営は、規模の大小にかかわらず、もはや社会・経済・環境への影響を考えなくしては語れない時代になってきています。こうした中、ISO20121は、イベント主催者が、冷静・客観的、効果的・効率的・・・そして適切にイベント開発・運営を行うための有効な手段の一つになりうるでしょう。場合によっては、認証制度も上手に利用することで、イベントの利害関係者への規律をもたらすとともに、多くのユーザに対するアピールにもつながります。

事実、2006年に開催されたロンドンオリンピックおよびパラリンピックのロンドン組織委員会(LOCOG)は、認証を受けました。厳密に言えば前身規格であるBS8901に基づいた認証でしたが、元々、ISO20121を生み出すきっかけになった大会でもあります。ちなみに、ロンドン組織委員会では、5つのテーマを念頭においた持続性あるイベント開発・運営が行われました。そのテーマとは「気候変動対応、浪費対応、生物多様性保全、(あらゆる人を受け入れる)一体化社会創出、健康的な生活」です。

また、2016年のリオデジャネイロ・オリンピック、及び2020年の東京オリンピックの組織委員会もそれぞれISO20121の認証を取得しました。東京オリンピックでは、新型コロナウイルスの影響で大会が延期になったため、延期後のマネジメントシステムに対する維持審査が行われました。審査では大会延期や新型コロナウイルスへの対応状況について重点的な確認が行われ、結果的に認証の維持が承認されました。

 


London 2012 Olympic and Paralympic Games Sustainability Plan

Rio 2016 Olympic and Paralympic Games Sustainability Plan
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