宿泊施設を対象としたBCPの策定に繋がる新型インフル対策マニュアル
「宿泊施設施設を対象としたBCP(事業継続計画)の策定に繋がる新型インフルエンザ対策マニュアル」は、静岡県における観光業を維持・継続させるための支援の一環として静岡観光局の手によって策定されたガイドラインです。全国旅館生活衛生同業組合連合会作成の「ここまでやろう新型インフルエンザ予防・対策」が、当マニュアルのベースになっており、昨年より蔓延している新型インフルエンザA(H1N1)程度の被害規模を想定したものです。
対象者は、主に宿泊の現場
当マニュアルでは、新型インフルエンザが発生した際に宿泊の現場で行うべき対策について、自己評価形式で、時系列順に記載しており、自社で対策が不十分である箇所を見つけ実際に役立つ対策を迅速にうてるような作りになっています。なお、新型インフルエンザ対策を考える際には、一般的に、以下に示す大きく4つの対策が必要とされています。
- 平時における対策
- 被害の拡大に応じた予防策
- 自社の社員・社員の家族・取引先などで感染者がでたときの対策
- 事業を継続するための対策(対処的対策)
【当マニュアルに付属する主な様式】
お客様向け想定問答集
ポスター案(日本語および英語)
定期的業務状況
休業した場合
納入業者対応のための様式
必要物品備蓄リスト案
各種連絡先一覧のための様式
教育・訓練のための様式
対応のための様式
一般的な事業者であればこれで十分、ただし留意が必要
当マニュアルは、宿泊業にかかる広く一般的な対策についてカバーしていることから、一般的な宿泊施設業者であれば非常に有益な情報源になるものといえます。また、現場を意識して様々な帳票類を記載していることから、短期間で効果的な準備を行う上で有益なガイドラインです。ただし、以下の幾つかの点について留意した上で活用するとより大きな利益を享受できると思われます。<応用が効かない>
当マニュアルをそのまま適用しただけでは、極めて限られた場面にしか活用できない可能性があるということに留意することが必要です。というのも、1つには当マニュアルの想定が、今すでに流行っているH1N1型になっているためです。このタイプは、現在、季節性インフルエンザよりも若干高い致死率(0.45%)が公表されているものの、実質的な企業への影響は、さほど大きなものではありません。もう1つの大きな脅威として見られている鳥インフルエンザ(H5N1)の致死率は2%※と見られており、この脅威を前提とした場合に、このマニュアルを活用することは困難である思われます。
また、当マニュアルを改善するための活動(演習)の部分の解説がさほど充実していないため、自身で工夫をするなり別の手段を活用するなりして、補うことが必要です。発生や被害パターンが、地震に増して何とおりにも考えられる新型インフルエンザに対して応用が効くようにするためには、様々なパターンの演習を定期的かつ効果的に行うことが必要不可欠です。
<多種多様な業務を行っている組織には不向き>
新型インフルエンザを考える際に、組織の事業内容や規模によってはBCPの中で「止めるべき業務」「いかなる場合でも継続させるべき業務」「縮退させて継続させるべき業務」など事前に業務の優先順位をつけておくことが必要です。たとえば、単なる宿泊施設提供だけでなく、多種多様なサービス展開を行っている企業(例:プールやジム、アミューズメント施設の提供、温泉、公に人を集めるイベント開催、企業向け会議施設の提供、コンサルティングなど)では、「備蓄品や感染者対応手順」を考えるだけではなく、そもそも「どの業務を即座に停止させるか」「どの業務は維持でも止めないようにするのか」などといったことを普段から考えておかないと、被害の拡大に意思決定が間に合わなくなります。当マニュアルは、新型インフルエンザ発生直後の対策に比重がおかれており※3、この部分に対する記述が弱いため、このあたりの分析や準備については、何らかの形で補う工夫を持つことが必要です。
※3. 当マニュアルの本文中でも、このマニュアル地震がBCPになるというよりも「このマニュアルはBCPの策定につながるマニュアル」と謳っています