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竜巻の規模を表す「藤田スケール」

掲載:2013年03月05日

改訂:2024年06月11日

改訂者:ニュートン・コンサルティング 編集部

用語集

藤田スケール(Fスケール)は、米国で考案された竜巻の強度を推定する際に使われる尺度のことです。竜巻の強度は主に風速で判断されますが、竜巻は局地的に発生し激しい突風でもあるため、風速計から実測値を得ることは困難です。そのため藤田スケールでは、竜巻発生後の被害状況から風速を推定するという手法をとります。1971年に発表され、その後も「改良藤田スケール」(EFスケール)や、日本においては「日本版改良藤田スケール」(JEFスケール)が策定され運用されています。竜巻が発生した後の被害写真や映像を用いた検証のほか、竜巻襲来後に形成される円形の渦巻き模様のパターンや、レーダー追跡、目撃者の証言、報道映像などを基に階級(0~5までの6つ)が決まります。

         

藤田スケールの歴史と階級の定義

1971年に、シカゴ大学名誉教授だった藤田哲也博士(1920~1998)が、当時の国立暴風雨予報センター局長のアレン・ピアソンと共に提唱したのが藤田スケール(藤田-ピアソン・スケールとも言われます)です。

藤田スケールの階級はF0~F5(原型はF12まで定義)があり、建造物や草木等の被害に基づいて算出されます。

竜巻などの激しい突風をもたらす現象は局地的で、風速計から風速の実測値を得ることは困難です。このため博士は、竜巻などの突風により発生した被害の状況から風速を大まかに推定する藤田スケールを考案しました。被害が大きいほどFの値が大きく、風速が大きかったことを示します。日本ではこれまで、F4以上の竜巻は観測されていません。

表1 藤田スケールにおける階級と風速の関係
階級 風速 表1 藤田スケールにおける階級と風速の関係
F0 17~32m/s
(約15秒間の平均)
テレビのアンテナなどの弱い構造物が倒れる。小枝が折れ、根の浅い木が傾くことがある。非住家が壊れるかもしれない。
F1 33~49m/s
(約10秒間の平均)
屋根瓦が飛び、ガラス窓が割れる。ビニールハウスの被害甚大。根の弱い木は倒れ、強い木は幹が折れたりする。走っている自動車が横風を受けると、道から吹き落とされる。
F2 50~69m/s
(約7秒間の平均)
住家の屋根がはぎとられ、弱い非住家は倒壊する。大木が倒れたり、ねじ切られる。自動車が道から吹き飛ばされ、汽車が脱線することがある。
F3 70~92m/s
(約5秒間の平均)
壁が押し倒され住家が倒壊する。非住家はバラバラになって飛散し、鉄骨づくりでもつぶれる。汽車は横転し、自動車はもち上げられて飛ばされる。森林の大木でも、大半は折れるか倒れるかし、引き抜かれることもある。
F4 93~116m/s
(約4秒間の平均)
住家がバラバラになって辺りに飛散し、弱い非住家は跡形なく吹き飛ばされてしまう。鉄骨づくりでもペシャンコ。列車が吹き飛ばされ、自動車は何十メートルも空中飛行する。1トン以上ある物体が降ってきて、危険この上もない。
F5 117~142m/s
(約3秒間の平均)
住家は跡形もなく吹き飛ばされるし、立木の皮がはぎとられてしまったりする。自動車、列車などがもち上げられて飛行し、とんでもないところまで飛ばされる。数トンもある物体がどこからともなく降ってくる。
出典:気象庁

竜巻とその発生メカニズム

出典:気象庁

竜巻は、積乱雲に伴う強い上昇気流により発生する激しい渦巻きで、多くの場合、漏斗状または柱状の雲を伴います。直径は数十~数百メートルで、数キロメートルに渡って移動し、被害地域は帯状になる特徴があります。

改良藤田スケール(EFスケール)について

竜巻の規模を表す数値として、現在も国際的に広く用いられている藤田スケールですが、藤田スケールはあくまで竜巻による被害の大きさを示したものであり、竜巻の厳密な風速を求める設計にはなっていなかったため、スケールでは階級ごとに風速が定義されているものの、実際の被害の程度と推定される風速が一致しないことも少なからずあったようです。また、比較的強い竜巻(特にF3~F5)に対する風速の推定値が実際の風速より極端に高く評価されてしまう欠点がありました。

このため、米国では2000年から2004年にかけて、テキサス工科大学WISEセンターで、同センターの研究員のみならず世界中の優れた気象学者や技術者が協力して『藤田スケール改良計画 (Fujita Scale Enhancement Project) 』が進められ、改良藤田スケールが開発されました。これは2006年2月に一般に公開され、その後米国では、2007年2月より竜巻の強さを示す新たな階級として採用されています。

改良藤田スケールも、藤田スケール同様EF0~EF5までの6段階で竜巻が分類されていますが、より詳細な竜巻の被害調査結果を反映して、スケールで定義される風速と竜巻の被害想定がより実際と近くなるよう(EF3~EF5では、F3~F5より風速が小さく定義されています)変更が加えられています。

表2 改良藤田スケールにおける階級と風速の関係
階級 風速 想定される被害
EF0 29~38m/s 軽微な被害。
屋根がはがされたり、樋や羽目板に損傷を受けることがある。また、木の枝が折れたり、根の浅い木が倒れたりする。確認された竜巻のうち、被害報告のないものはこの階級に区分される。
EF1 39~49m/s 中程度の被害。
屋根はひどく飛ばされ、移動住宅はひっくり返ったり、破壊されたりする。玄関のドアがなくなったり、窓などのガラスが割れる。
EF2 50~60m/s 大きな被害。
建て付けの良い家でも屋根と壁が吹き飛び、木造家屋は基礎から動き、移動住宅は完全に破壊され、大木でも折れたり根から倒れたりする。
EF3 61~74m/s 重大な被害。
建て付けの良い家でもすべての階が破壊され、商店街などで見られるような比較的大きな建物も深刻な損害をこうむる。列車は横転し、吹き飛ばされた木々が空から降ってきたり、重い車も地面から浮いて飛んだりする。基礎の弱い建造物はちょっとした距離を飛んでいく。
EF4 75~89m/s 壊滅的な被害。
建て付けの良い家やすべての木造家屋は完全に破壊される。車は小型ミサイルのように飛ばされる。
EF5 >90m/s あり得ないほどの激甚な被害。強固な建造物も基礎からさらわれてぺしゃんこになり、自動車サイズの物体がミサイルのように上空を100メートル以上飛んでいき、鉄筋コンクリート製の建造物にもひどい損害が生じ、高層建築物も構造が大きく変形するなど、信じられないような現象が発生する。
EFスケールが導入された2007年2月1日以来、この階級の竜巻はこれまでに全米で9例確認されている。

出典:Wikipedia

日本版改良藤田スケール(JEFスケール)について

改良された藤田スケールですが、藤田スケールは被害状況から竜巻の強さを推定する尺度であるため、そもそも被害状況が日本の実態と異なっていると得られる結果の誤差が大きくなるという課題がありました。そのため日本では、気象庁が日本での竜巻被害の実態に基づいて日本独自のスケール「日本版改良藤田スケール」(JEFスケール)を2015年12月に策定、翌2016年4月から運用を開始しました。

被害指標の充実

日本版改良藤田スケール(JEFスケール)は、従来の藤田スケール(Fスケール)よりも被害状況を的確に当てはめることができます。藤田スケール(Fスケール)の考え方では、発生した被害状況をあらかじめ想定していた被害状況パターン(例えば、「壁が押し倒され住家が倒壊する」など)に当てはめて階級を求めます。このとき「住家」を被害指標と呼びます。従来の藤田スケール(Fスケール)ではこの被害指標が米国仕様の住家、非住家、ビニールハウスなど9種類だけでした。一方、日本版改良藤田スケールでは改良藤田スケール同様、この被害指標を大幅に増やしました。また、被害状況についても被害指標(建築物や樹木など)がどの程度の被害(被害度)だったか、というDI(Damage Indicator=被害指標)、とDOD(Degree of Damage=被害度)に分けて設定するようにしました。日本版改良藤田スケールではDIが31種類(※)に拡充されています。具体的には、住家を木造と鉄骨系プレハブ、鉄筋コンクリート造とに細分化したり、日本に多い自動販売機や墓石などを採用したりしました。

※2024年4月から「船舶」が追加されました。

表3 日本版改良藤田スケールの被害指標(DI)
木造の住宅又は店舗 電柱
鉄骨系プレハブ住宅又は店舗 地上広告板
鉄筋コンクリート造の集合住宅 道路交通標識
仮設建築物 カーポート
大規模な庇・独立上家の屋根
鉄骨造倉庫 木製・樹脂製・アルミ製フェンス、メッシュフェンス
木造の非住家建築物 道路の防風・防雪フェンス
園芸施設 ネット(野球場・ゴルフ場等)
木造の畜産施設 広葉樹
物置 針葉樹
コンテナ 墓石(棹石)
自動販売機 路盤
軽自動車 仮設足場(壁つなぎ材)
普通自動車 ガントリークレーン
大型自動車 船舶
鉄道車両 -

出典:気象庁HP「日本版改良藤田(JEFスケール)とは」

JEFスケールの階級と風速の対応

日本版改良藤田スケール(JEFスケール)は、藤田スケール(Fスケール)と統計上の一貫性が保たれるよう設計されています。具体的には、同じ被害であれば、基本的には藤田スケール(Fスケール)でも日本版改良藤田スケール(JEFスケール)でも階級は同じになります。これにより、過去のデータとの比較や継続的な統計値の算出が可能となります。このアプローチは、米国の改良藤田スケール(EFスケール)策定の際にも用いられました。

表4 日本版改良藤田スケールにおける階級と風速の関係(DOD)
階級 風速の範囲
(3秒平均)
主な被害の状況(参考)
JEF0 25~38m/s
  • 木造の住宅において、目視でわかる程度の被害、飛散物による窓ガラスの損壊が発生する。比較的狭い範囲の屋根ふき材が浮き上がったり、はく離する。
  • 園芸施設において、被覆材(ビニルなど)がはく離する。パイプハウスの鋼管が変形したり、倒壊する。
  • 物置が移動したり、横転する。
  • 自動販売機が横転する。
  • コンクリートブロック塀(鉄筋なし)の一部が損壊したり、大部分が倒壊する。
  • 樹木の枝(直径2cm~8cm)が折れたり、広葉樹(腐朽有り)の幹が折損する。
JEF1 39~52m/s
  • 木造の住宅において、比較的広い範囲の屋根ふき材が浮き上がったり、はく離する。屋根の軒先又は野地板が破損したり、飛散する。
  • 園芸施設において、多くの地域でプラスチックハウスの構造部材が変形したり、倒壊する。
  • 軽自動車や普通自動車(コンパクトカー)が横転する。
  • 通常走行中の鉄道車両が転覆する。
  • 地上広告板の柱が傾斜したり、変形する。
  • 道路交通標識の支柱が傾倒したり、倒壊する。
  • コンクリートブロック塀(鉄筋あり)が損壊したり、倒壊する。
  • 樹木が根返りしたり、針葉樹の幹が折損する。
JEF2 53~66m/s
  • 木造の住宅において、上部構造の変形に伴い壁が損傷(ゆがみ、ひび割れ等)する。また、小屋組の構成部材が損壊したり、飛散する。
  • 鉄骨造倉庫において、屋根ふき材が浮き上がったり、飛散する。
  • 普通自動車(ワンボックス)や大型自動車が横転する。
  • 鉄筋コンクリート製の電柱が折損する。
  • カーポートの骨組が傾斜したり、倒壊する。
  • コンクリートブロック塀(控壁のあるもの)の大部分が倒壊する。
  • 広葉樹の幹が折損する。
  • 墓石の棹石が転倒したり、ずれたりする。
JEF3 67~80m/s
  • 木造の住宅において、上部構造が著しく変形したり、倒壊する。
  • 鉄骨系プレハブ住宅において、屋根の軒先又は野地板が破損したり飛散する、もしくは外壁材が変形したり、浮き上がる。
  • 鉄筋コンクリート造の集合住宅において、風圧によってベランダ等の手すりが比較的広い範囲で変形する。
  • 工場や倉庫の大規模な庇において、比較的狭い範囲で屋根ふき材がはく離したり、脱落する。
  • 鉄骨造倉庫において、外壁材が浮き上がったり、飛散する。
  • アスファルトがはく離・飛散する。
JEF4 81~94m/s
  • 工場や倉庫の大規模な庇において、比較的広い範囲で屋根ふき材がはく離したり、脱落する。
JEF5 95m/s~
  • 鉄骨系プレハブ住宅や鉄骨造の倉庫において、上部構造が著しく変形したり、倒壊する。
  • 鉄筋コンクリート造の集合住宅において、風圧によってベランダ等の手すりが著しく変形したり、脱落する。

出典:気象庁HP「日本版改良藤田(JEFスケール)とは」日本版改良藤田スケールにおける階級と風速の関係

日本版改良藤田スケールでは、被害指標が31と多岐にわたり、それぞれの被害度に応じて風速をもとめるため、推定される風速の幅が狭くなり精度が高くなりました。日本は米国に比べて竜巻の発生頻度は低いものの、台風にともなって竜巻が発生するなど、激しい突風による被害は日本でも発生しています。令和元年東日本台風では千葉県市原市で竜巻が発生し、死者1名、軽傷者9名、住家等被害として全壊12件、半壊23件、一部損壊54件などと被害が出ました。市原市の報告書によると、当時の突風の強さは風速約55m/sと推定され、日本版改良藤田スケール(JEFスケール)における階級はJEF2に該当すると記されています。