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「令和元年台風第15号・第19号をはじめとした一連の災害に係る検証レポート」から学ぶ災害への備え

掲載:2022年01月20日

執筆者:コンサルタント 田村 優作

コラム

日本では、台風によって毎年のように甚大な被害が発生しています。気象庁によると、1991年から2020年までの30年間における1年間の台風の発生数は平均25.1個です。日本にはそのうち約11.7個が接近し、約3個が上陸しています※。これだけ見ると、日本に上陸している台風の数は少なく感じるかもしれません。しかし、近年では地球温暖化の影響も相まって台風の威力は増大しており、1つの台風が上陸するだけで多くの被害が出ています。
台風災害については、国が主導して自治体などの対応を検証・改善する取り組みも行われています。こうした取り組みには、企業・組織が災害への備えを推進する上で参考になる部分があります。本稿では、内閣府の検討会が2020年3月にまとめた「令和元年台風第15号・第19号をはじめとした一連の災害に係るレポート」を読み解くとともに、企業・組織としての災害への備えを考えます。

※ここでいう「接近」とは、気象庁の定義に則り、台風の中心が日本のいずれかの気象官署等から300km以内に入った場合を指す。「上陸」とは北海道、本州、四国、九州のいずれかの海岸線に達した場合を指す

         

令和元年房総半島台風(台風15号)の概要

レポートで検証された令和元年台風第15号とは「令和元年房総半島台風」のことです。令和元年(2019年)9月7日から8日にかけて小笠原近海から伊豆諸島付近を北上し、9日午前3時前に三浦半島付近を通過して東京湾を進み、午前5時前に強い勢力で千葉市付近に上陸しました。千葉市では最大風速35.9メートル、最大瞬間風速57.5メートルを観測し、多くの地点で観測史上1位の記録を更新した暴風が特徴的な台風でした。人的被害は死亡者数1人、負傷者数150人、避難者数は2,200人を超え、物的被害も7万棟超の住家被害を始めとして、停電は最大で934,900戸、断水は140,000戸(ピーク時)、その他にも通信障害の発生など甚大なものになりました。

検証された課題とその対応策①大規模停電

令和元年房総半島台風では想定外の長時間に及ぶ停電が発生しました。レポートでは、背景には4つの課題があったとし、その対応策を示すとともに、被災地域に電力を供給している東京電力にもレジリエンス向上のための緊急時の体制の改善・見直しを求めています。以下、その内容を抜粋して紹介します。

課題①被害状況をスムーズに把握するための巡視要員が不足していた
→対応策:被害状況を素早く把握するため、緊急時の体制を原則24時間以内、大規模災害時では48時間以内に整える

課題②復旧作業や情報提供に遅れが生じた
→対応策:完全復旧よりも早期の停電解消を最優先する「仮復旧」を実施する。また、復旧の見通しを正確に判断できるように、被害情報の集約と報告の手法を効率化する

課題③鉄塔の技術基準が地域の実情を踏まえておらず、電柱や配電線への倒木対策が不十分だった
→対応策:鉄塔の技術基準を地域の実情を踏まえた内容に見直す

課題④非常用電源の導入と十分な燃料の確保が出来ていない重要施設(病院や官公庁舎など)があった
→対応策:分散型電源を設置する民間事業者等への支援措置の実施や、分散型電源のみで電力供給を行えるようにすることで、地域における災害時のレジリエンスを向上させる

検証された課題と対応策②通信障害

レポートでは、もう1つの大きな被害として通信障害を挙げています。通信障害が生じた原因は主に下記の3点であるとし、それぞれの対応策を以下のように示しました。

課題①携帯電話の通信障害について、利用者に分かりやすい情報提供ができなかった
→対応策:定量的な指標(影響利用者数等)を用いるなど、分かりやすい形で情報提供する

課題②発災後初期の県災害対策本部では、一部の関係事業者が参集できないなど、情報共有や対応調整を円滑に行う体制が不十分だった
→対応策:関係機関の協力が必要となる事項を総務省が一元的に把握し、関係機関と調整するなど、総務省リエゾン[1]の役割を充実させる

課題③停電が想定を超えて長時間にわたったため、非常用電源でも対応できず携帯電話基地局等の機能を持続できなかった
→対応策:重要拠点をカバーする携帯電話基地局等の非常用電源を長時間対応にする

[1]リエゾン(災害対策現地情報連絡員):
フランス語で(Liaison)「つなぐ」「橋渡し」「連絡将校」の意。災害が発生または発生するおそれのある必要な期間だけ自治体に常駐する職員を指し、地方整備局災害対策本部と被災自治体災害対策本部をつなぐ窓口を担う。主な活動は、現地の情報を迅速に得るための「情報の収集・提供」。被災自治体の被災状況の収集や支援ニーズなどを積極的に把握することが責務である

令和元年東日本台風(台風第19号)の概要

令和元年台風第19号とは「令和元年東日本台風」のことで、令和元年(2019年)10月12日午後7時前に大型で強い勢力で伊豆半島に上陸した後、関東地方を通過し、13日未明に東北地方の東海上に抜けました。台風本体の発達した雨雲や台風周辺の湿った空気の影響で、静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。10月10日からの総雨量は神奈川県箱根町で1,000ミリに達し、東日本を中心に17地点で500ミリを超えました。人的被害が大きく、死亡者数は104人、負傷者数は374人に上りました。

検証された課題と対応策①避難行動

レポートでは令和元年東日本台風への対応について、避難行動に課題があったと指摘し、検証しています。避難行動での課題として下記の3点を挙げ、それぞれの対応策を示しました。

課題①災害リスクと取るべき行動についての理解が進んでいない
→対応策:ハザードマップや避難行動判定フロー、避難情報のポイントを各戸に配布・回覧するなど、国や自治体による普及啓発活動を進める

課題②防災情報の「警戒レベル」の説明が分かりにくく、住民に混乱をもたらしている
→対応策:警戒レベルや警戒レベル相当情報等について分かりやすく解説した資料「避難情報のポイント」を国が作成し、市町村がハザードマップや避難行動判定フローとともに地域で配布・回覧する

課題➂高齢者や障害者等の避難が円滑にできなかった
→対応策:ハザードマップ等を用いて、浸水想定区域や土砂災害警戒区域等の災害リスクが高い区域に住む避難行動要支援者を洗い出し、その情報を防災・危機管理部局と医療・保健・福祉部局等の部局間で共有するなど、円滑な避難に向けた体制を構築する

検証された課題と対応策②河川・気象情報

レポートではもう1つの課題として、河川・気象情報を挙げています。河川・気象情報の発信・伝達で問題が発生した原因は主に下記の4点にあると分析し、それぞれの対応策を以下の通り示しました。

課題①大雨特別警報の解除にあたり、解除後も引き続き大河川の洪水に対する警戒が必要であることへの注意喚起が十分でなかった
→対応策:大雨特別警報の解除が「安心情報」として受け取られないよう、大雨特別警報の解除を 「警報への切り替え」と表現する。切り替えと合わせて、今後の水位上昇の見込み等、河川の氾濫に関する情報を発表する

課題②過去の災害事例を用いて報道しても危機感が伝わらないなど、情報発信に問題があった
→対応策:過去事例を引用する際は、地域に応じた詳細かつ分かりやすい解説を併せて実施する、災害危険度がどこで高まると見込まれるかを地図上で示した「危険度分布」の認知度・理解度を上げるための広報を強化するなど、情報発信を見直す

課題③同時多発的に決壊・越水等が発生する中、一部の河川で洪水予報・水位周知情報を発表できなかった
→対応策:確実な洪水予報等の発表のため、外部問い合わせ専任の担当者の設置、システム操作訓練等事務所全体で洪水予報発表体制を強化する。また、現地での確認が困難な場合に備え、河川監視カメラなど機器による監視体制を強化する

課題④緊急速報メールやウェブサイトでの河川情報提供が機能しない事例があった
→対応策:メールの定型文を事前に用意し、事務所からメールを直接配信できるよう、手続き・システムを変更する。また、水位等の河川情報を提供している国土交通省のウェブサイト「川の防災情報」のサーバーを増強する

企業・組織としての災害への備え

レポートで検証された課題と対応策からは、企業・組織が災害対策に備える際のヒントを見出すことができます。具体的には、下記のような備えが考えられます。

①停電の際の対応を考えておく

停電の際にも最低限の電力を確保するため、代替策の一例として蓄電池が挙げられます。また、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークの機会が増えている企業・組織は多く、従業員が自宅で被災する確率も高まっています。家庭用の蓄電池も販売されていますから、従業員向けに購入費用の補助を行い、停電に備えるよう促すのも良いでしょう。

②通信障害に備える

携帯電話が使用できないケースを想定して、対策を決めておきましょう。一例としては、仕事で使用する携帯電話とプライベートで使用する携帯電話のキャリアを分けておくという対策があります。大手キャリアは基地局を所有しており、それぞれのキャリアによって被災後の通信品質は異なります。片方は繋がらなくとも、もう片方が繋がれば従業員の安否を確認できます。

③従業員への防災教育に努める

ハザードマップなどの防災情報に日頃から馴染んでいる人は多くありません。企業・組織としても従業員にハザードマップの使用方法など防災に関する正しい知識を周知・教育しておくと安心です。

レポートで検証された令和元年房総半島台風や令和元年東日本台風のような勢力の強い台風は年々増えてきています。どの企業・組織にとっても、様々な場合を想定した備えが必要になります。過去の災害からの教訓なども参考に、今一度、自社の備えやBCPを見直してみてはいかがでしょうか。

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