eシールの導入で期待される働き方改革~脱ハンコ

掲載:2021年01月21日

コラム

企業におけるテレワークの導入率は、年々増加しています。総務省の情報通信白書(令和元年版)によると、2018年は13.9%でしたが、2019年は19.1%へと上がっています。そして2020年は新型コロナウイルス感染拡大の防止策として、テレワークの実施が強く求められ、2020年11月実施のリモートワークに関する民間調査によると、正社員のテレワーク実施率は全国平均24.7%、コロナ収束後のテレワーク希望率はテレワーク実施者全体で78.6%にも上りました。しかし他方で、請求書の印刷や銀行対応等、押印作業のために出社せざるを得ない業務が依然としてあります。

これを解決すると期待されている方策のひとつが「eシール」です。角印の電子版に相当するもので、書類の電子化を推し進める仕組みとして注目を集めています。

ウィズコロナ、アフターコロナにおける、その必要性なども踏まえ、以下、解説していきます。

         

eシールとは? その定義と仕組み、メリット

定義

総務省では、eシールを電子文書の発信元の「組織」を証明する目的で行われる暗号化等の措置で、企業の角印の電子版に相当するものと定義しています。
これに対して、企業の代表印の電子対応については電子署名とタイムスタンプが既に国内でも利用されています。

仕組み

請求書や領収書などの書類にeシールを付与することで、角印の押印と同様の効力が発生します。書類の郵送は不要となり、電子メールでの送信が可能になります。

eシールは認証局(認定制度)を通して発行される仕組みですが、まだ国内では制度の検討段階にあります。一方、海外ではEUにおいて法規制が整備されており、既に実用化されています。

図表1:eシールの仕組み

出典:総務省「組織が発行するデータの信頼性を確保する制度(eシール)の検討の方向性について」

eシールがもたらすメリット

電子署名は個人に紐づく仕組みであるため、運用面での制限(作業が個人に依存する、人事異動などにより再発行が必要になる等)があります。他方、eシールは組織に紐づく仕組みであるため、活用範囲が広いと言えます。請求書など迅速かつ大量に発行しなければならない書類の作成に適しています。また、書類が電子化されることでメール送信が可能となり、書類の封入および郵送の手間とコストの削減が実現します。

総務省のトラストサービス検討WGは、eシール等の導入により、経理関係業務等において効率化が図られ、大企業1社あたりの作業時間は10.2万時間/月から5.1万時間/月にまで短縮する余地があると試算しています。

図表2:eシールのメリット

出典:総務省「組織が発行するデータの信頼性を確保する制度(eシール)の検討の方向性について」

eシールを規定しているeIDAS規則とは?

eIDAS規則とは

eシールはEUで施行されたeIDAS規則に規定された仕組みです。eIDAS規則とは、EU加盟国における電子取引に関する信頼性とセキュリティを保護するための法規制です(正式名称はEU規則No 910/2014、Electronic Identification and Trust Services Regulation)。EUにおける電子取引の確実性を確保し、市民、企業の経済活動の効率化を促進させる目的で、2016年7月に発効されました。
それまでは1999年に制定された「電子署名指令」をベースにして、EU加盟国がそれぞれ自国の法律に置き換えて、適用を行っていました。しかし、各国の法規制が異なるため、電子署名等の対応も違い、電子取引において支障が出ていました。この課題を解決するために、全EU加盟国に適用される統一規格としてeIDAS規則は制定されました。

eIDAS規則の仕組み

eIDAS規則では、電子本人認証(eID)と電子署名、eシール、タイムスタンプなどのトラストサービス(eTS)の統一基準を定めており、図表3のように構成されています。

  • 電子本人認証(eID)
    オンラインで本人確認することが出来る機能を指します。具体的には電子署名入り国民IDカードにあるeID機能のことです。
  • トラストサービス(eTS)
    電子署名、eシール、タイムスタンプ、電子書留送付サービス、ウェブサイト認証を含む包括的な電子認証サービスを指します。

図表3: EUにおける電子本人認証(eID)とトラストサービス(eTS)

出典: 総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ中間取りまとめ」に基づき弊社にて作成

EUの政策執行機関である欧州委員会の部局であり、情報・通信技術およびメディア分野を担っているDG-Connectによると、eIDAS規則の導入は、EU諸国間において、便利で安全な電子取引を可能にするだけでなく、コストと時間の節約、信頼性やアカウンタビリティの向上につながるとしています。
EU29ヶ国において、一定の要件を満たした安全な電子取引を提供するサービス・プロバイダーは179社あります(2020年1月時点)。EUでは本規則が施行されて以降、電子署名をはじめとする各種eIDAS関連サービスの利用が拡大しています。

EUにおけるeシールの活用事例

EUでは、eシールの普及も進んでいます。特に、電子決済サービス等をはじめとする金融サービスや、ヘルスケア等の情報システム間のデータ交換等において、その取引の信頼性を担保する目的で活用が進んでいます。

【事例1】決済サービスの法的枠組み(PSD2)における活用
2020年12月より、「欧州決済サービス指令」の改定版(PSD2)において、各種決済サービス提供者は、当該組織の正当性を確認するため、eシールまたはWEB認証を用いることが義務づけられています。

【事例2】官民情報連携基盤 「X-Road」
エストニアやフィンランドでは、官民情報連携基盤「X-Road」が採用されています。住民登録、健康保険、金融関連情報の共有等を行う際、データ送信時にeシールが使われ、その情報の信頼性を担保しています。このX-Roadに接続されている全てのサービスは、eシールを利用しており、その証明書が定期的に更新され、問題が発生した時点で切り離すことでその安全性を確保しています。データ法がありデータが標準化されていることがポイントです。

図表4: 官民情報連携基盤 X-Road

出典:内閣官房「デジタル・ガバメント技術検討会議における検討状況 データ連携基盤の取組」
総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ中間取りまとめ」

ウィズコロナ、アフターコロナにおける日本国内の電子取引の状況

日本でも電子書類が本物であると認証する公的制度の整備が進められています。総務省は2020年4月にeシールの制度設計についての検討会を立ち上げました。
eシールなどの普及には、信頼性を高めるための認定制度が必要であるという見方から、今後、国が関与して発行事業者の認定制度をつくる方針です。2020年12月に開催された第7回検討会では、2021年度春頃をめどに、eシールに係る指針(案)の策定を目指す方針が示されました。
日本のビジネスにおいては、紙に押印することを重視する慣行が日々の業務や行政の現場に根強く残っていますが、今回のコロナ禍におけるテレワークの広がりを踏まえ、これまで遅れていた「脱ハンコ」の整備が急務となりつつあります。

まとめ

新型コロナウイルス感染拡大の先行きはまだまだ不透明であるものの、様々な場面において、この困難を変革のきっかけにすることが求められています。組織間の電子取引におけるeシール活用を検討することは、ウィズコロナ、アフターコロナ時代に必要な新しい働き方への第一歩につながると期待されます。ただ、中小企業などにおいては、情報システムの整備自体が進んでいないケースも多々あります。電子認証の制度の定着には、普及支援策を含めた、さらなる多面的な取り組みも求められることになるでしょう。

(執筆:川邉 実沙紀)

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