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テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン

掲載:2021年11月15日

ガイドライン

「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(テレワークガイドライン)は、厚生労働省が企業向けに策定したもので、主にテレワーク時の労務管理に関する事項を定めています。テレワークについては、働き方改革の一環として2018年に策定された「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」があり、これを改定する形で2021年3月に本ガイドラインが定められました。本稿では、テレワークガイドラインの主な内容について、活用方法なども交えて解説します。

         

テレワークガイドラインの活用方法と特徴

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、企業ではテレワークの導入が急速に進みました。コロナ禍の終息後も多様な働き方の一環としてテレワークを継続する動きもあり、「導入する」時期から「定着させる」時期へ移行しつつあると言えそうです。

こうした状況下で役立つのが、テレワーク運用の指針となるガイドラインです。本ガイドラインは、テレワークにおける労働時間管理や安全衛生、導入の際の注意点などについて具体的に解説しており、就業規則などのルール作りや見直しなどに活用することができます。これからテレワークを導入する企業はもちろん、既に導入している企業でも、一定期間テレワークを運用して見えてきた課題への対処などに役立つでしょう。

前述の通り、本ガイドラインはコロナ禍以前から活用されていた「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が昨今の情勢を踏まえて改定されたものです。改定によりタイトルに「テレワーク」という言葉が盛り込まれ、労働時間管理に主眼を置いていた旧版に比べて、より踏み込んだ内容となりました。また、テレワークの導入に際し、これまでにない柔軟な運用を促している点も特徴と言えます。

ガイドライン概要①テレワークの形態と対象

ここからは、実際にガイドラインの中身を見てみましょう。

テレワークの形態

テレワークといえばまず「在宅勤務」が浮かびますが、テレワークガイドラインでは他にも多様なテレワークの在り方を示しました。具体例は下表の通りです。私生活との線引きが困難といった理由で在宅勤務を希望しない従業員には、このような選択肢も考えられます。

勤務形態 概要
サテライトオフィス勤務 シェアオフィスやコワーキングスペースを含むサテライトオフィスで業務を行う
モバイル勤務 外勤での移動時間などを利用して業務を行う
ワーケーション 普段とは異なる場所で余暇を楽しみつつ業務を行う(モバイル勤務・サテライトオフィス勤務の一形態)

出典:「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を基に筆者作成

テレワークの対象

テレワークの対象については、いわゆるエッセンシャルワーカーが従事する業務など、一般にテレワークを実施することが難しい業種・職種であっても個別の業務によっては実施できる場合があるとして、企業側の意識改革や業務方法の見直しを求めています。また、対象となる従業員についても、正規雇用・非正規雇用といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象から除外することのないよう促しています。

一方で、注意すべきポイントとして、オフィスに出勤する従業員のみに負担が偏らないようにする、新入社員や異動直後の従業員にはコミュニケーションに関する特段の配慮が必要といった点も盛り込んでいます。

ガイドライン概要②ルール策定と労務管理上の注意点

ルール策定と周知

テレワークガイドラインでは、労使で協議して策定したテレワークのルールを就業規則に定め、適切に周知することを推奨しています。前述の通りテレワークには様々な形態が想定されるため、従業員が働く場所を選択できる場合には、あらかじめ就業規則にどのような場所での勤務が可能かを定めておくことが考えられるとしています。なお、働く場所を問わず、従業員が属する事業場がある都道府県の最低賃金が適用されることに注意が必要です。

労働時間管理

テレワークにおいては、オフィスでの就業とは違い、従業員の勤怠を直接確認できないため、労働時間の把握について事前の取り決めが必要になります。テレワークガイドラインでは、労働時間把握のため、以下の方法を挙げています。

労働時間把握の方法 概要
客観的な記録による把握 業務用パソコンの使用時間やサテライトオフィスの入退場時刻などで労働時間を確認
自己申告による把握 従業員の自己申告で労働時間を確認。その際、申告された時間外にメール送信がされていないかなど、実際の労働時間との相違に注意が必要

出典:「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を基に筆者作成

労働時間の把握に関しては「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚労省)も参考になります。

また、ガイドラインではテレワーク特有の「中抜け時間」「勤務時間の一部のみテレワークを行う場合のオフィスへの移動時間」といった事象についても具体的に言及しています。中抜け時間の取り扱いとしては「休憩時間とし、終業時刻の繰り下げや時間単位有給休暇で対応する」「休憩時間を除き労働時間として扱う」といった選択肢を示しています。移動時間に関しても、休憩時間・労働時間いずれもの扱いが考えられるとしました。

テレワークはフレックス制度など柔軟な働き方との相性が良いのも特徴です。テレワークガイドラインでは、オフィス勤務の日は労働時間を長く、テレワークの日は労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やすといった運用を紹介しており、このような制度の創設も選択肢の一つとして考えられます。

人事評価・人材育成

互いの顔が見えない環境での人事評価について、テレワークガイドラインでは、評価者が対象者に求める水準をあらかじめ明確に示すべきだとしています。併せて、評価対象期間中に達成状況について労使共通の認識を持つための機会を柔軟に設けること、テレワークをしていることを理由に不利益な扱いをしないことなどを求めています。人材育成については、オンラインならではの利点を活かした社内教育として「従業員の営業の姿を大人数の後輩がオンラインで見て学ぶ」「動画にしていつでも学べるようにする」といった例を挙げています。

ガイドライン概要③安全衛生の確保

企業には労働安全衛生法などの関係法令に従って労働者の安全衛生を確保することが求められており、テレワークにおいてもそれは変わりません。テレワークガイドラインでは安全衛生上留意すべき項目として、メンタルヘルスやハラスメント対策、自宅における労働環境の整備、労働災害の考え方などを挙げています。いずれの項目でも、関係法令を遵守しつつ、テレワーク特有の事情を考慮する必要があります。例えば、メンタルヘルスに関しては、上司や同僚と離れて働くことになるため、周囲が心身の不調に気づきにくいといった問題が発生しがちです。テレワークガイドラインでは、こうした事情を踏まえ、健康相談体制の整備やコミュニケーション活性化のための措置を実施することが望ましいとしています。

なお、テレワークガイドラインには事業者向けの「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト」が掲載されています。ガイドラインでは、このチェックリストを用いて定期的(半年に1回程度)に確認を行い、その結果を衛生委員会などに報告することを推奨しています。チェックリストの中で特に重要とされている項目(労働安全衛生関係法令上、実施が義務付けられている事項)は下表の通りです。

分類 項目
安全衛生管理体制 業種や事業場規模に応じ、必要な管理者等の選任、安全・衛生委員会等が開催されているか
常時使用する労働者数に基づく事業場規模の判断は、テレワーク中の労働者も含めて行っているか
安全衛生教育 雇入れ時にテレワークを行わせることが想定されている場合には、雇入れ時の安全衛生教育にテレワーク作業時の安全衛生や健康確保に関する事項を含めているか
作業環境 労働安全衛生規則や事務所衛生基準規則の衛生基準と同等の作業環境となっていることを確認した上でサテライトオフィス等のテレワーク用の作業場を選定しているか
健康確保対策 定期健康診断、特定業務従事者の健診等必要な健康診断を実施しているか
健康診断の結果、必要な事後措置は実施しているか
関係通達に基づき、労働時間の状況を把握し、週40時間を超えて労働させた時間が80時間超の労働者に対して状況を通知しているか
週40時間を超えて労働させた時間が80時間超の労働者から申出があった場合には医師による面接指導を実施しているか
面接指導の結果、必要な事後措置を実施しているか
テレワーク中の労働者に対し、医師による面接指導をオンラインで実施することも可能であるが、その場合、医師に事業場や労働者に関する情報を提供し、円滑に映像等が送受信可能な情報通信機器を用いて実施しているか。なお、面接指導を実施する医師は産業医に限られない
メンタルヘルス対策 ストレスチェックを定期的に実施し、結果を労働者に通知しているか。また、希望者の申し出があった場合に面接指導を実施しているか。(労働者数50人未満の場合は努力義務)

出典:「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」別紙 テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】より抜粋

おわりに

厚労省ではテレワークガイドラインの周知のため、ガイドラインについて分かりやすく解説したパンフレットを2021年9月に発行しました。イラストや具体例が豊富に用いられ、従業員への説明などに活用できる内容となっています。また、テレワークの情報セキュリティ分野では「テレワークセキュリティガイドライン」(総務省)があり、2021年5月にテレワークの急速な拡大などを踏まえた改定版(第5版)が公表されました。テレワークの導入・運用に当たっては、こうした関連ガイドライン等も併せて参照すると良いでしょう。

コロナ禍を機に普及が進んだテレワークですが、まだ試行錯誤の段階にある、今後の運用に課題を抱えているといった企業も多いのが実情です。テレワーク導入は従来の労務管理や業務フローを見直すチャンスでもあります。本ガイドラインを参考に、円滑で生産性向上につながるテレワーク運用を目指してみてはいかがでしょうか。

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