デュアルユース
掲載:2024年05月17日
用語集
「デュアルユース(軍民両用)」とは、軍事と民生の両方に利用できる技術や製品のことです。進歩が著しい情報技術(IT)や人工知能(AI)、航空宇宙技術、バイオテクノロジーなどの分野は応用範囲が広く、軍事利用と民生利用を完全に分けることは困難とされています。そのため、技術がもたらす利益とリスクの適切な管理の重要性が高まっています。
デュアルユースの様々な背景
デュアルユースの開発には「スピンオフ」と「スピンオン」、また狭義のデュアルユース(軍民の同時用途開発)や デュアルユース・ジレンマ(意図しない軍事転用)など、様々な背景があります。
20世紀に多かったスピンオフは、もともと軍事目的で開発された技術が、民生用に転用されるケースです。国家レベルで研究・開発された技術が、私たちの生活を便利で豊かにすることに役立てられています。
民生技術の進展がめざましい現在ではスピンオン、民間で生まれた技術を軍事目的に転用するケースが増えています。また、デュアルユース・ジレンマと呼ばれる、民生技術が当初の目的から外れ、戦争やテロなどに利用される可能性もあるなど、倫理的な問題もはらんでいます。
デュアルユースの事例
デュアルユースという用語は聞き慣れないかもしれませんが、その事例を見れば、私たちの生活に深く浸透している技術であることがわかるでしょう。
インターネット
インターネットは、冷戦時代にアメリカ国防総省が軍事目的で開発した「ARPANET(Advanced Research Projects Agency NETwork)」が起源です。その後、民生用に開放され、現在では生活に欠かせないインフラとして社会に根付いています。
GPS(全地球測位システム)
GPSもインターネットと同じく、冷戦時代にアメリカ国防総省が自軍機やミサイルなどの位置特定のために開発した技術が起源です。1990年代に民生用に開放され、現在ではカーナビゲーションやスマートフォンなどに広く利用されています。
3Dプリンター
3Dプリンターは、製造業や建築・医療などの分野で活用される、複雑な形状の立体物を安価で短時間に作成できる技術です。軍事目的にも転用されており、銃器や部品の製造、前線基地での即席の装備品作成などに利用されています。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティ技術は、不正アクセスやサイバー攻撃から、組織・個人の情報システムやネットワークを守る技術として発展しました。軍事目的では、敵対国へのサイバー攻撃やインフラへの攻撃、情報戦における世論操作などがあります。
デュアルユースの現状と課題
アメリカや中国をはじめとした各国は、先端技術に巨額の投資を行なっています。これは、企業や研究機関のイノベーションを促し経済的な競争力を高めると同時に、軍事利用を視野に入れたデュアルユースの戦略です。
日本でも、民生の先端技術を安全保障に役立てるため、防衛装備庁に新たな研究機関の創設を計画するなど、デュアルユースの体制を拡充しています。一方で、研究者の間からは、技術が本来の用途と異なる形で軍事利用されるリスクに対する懸念は消えません。
地政学的な緊張が高まる中、デュアルユースがもたらす利益とリスクの適切な管理が求められています。