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【共催セミナー報告】 実際にやってみよう!法的観点からの台湾有事ミニセミナー+シミュレーション

掲載:2024年12月18日

コラム

11月21日、ニュートン・コンサルティングは、TMI総合法律事務所様と共に「実際にやってみよう!法的観点からの台湾有事ミニセミナー+シミュレーション」と題するセミナーを開催しました。

国内外で多様な法務実績をもつTMI総合法律事務所様と、リスクマネジメントに特化したコンサルティングを行う当社。両者の知見を掛け合わせた共催イベントは、二度目の開催となりました。

今回は、リスクが高まり続ける台湾有事をテーマに、講演だけでなく、有事をシミュレーションするワークショップも実施しました。当日は、法務やリスクマネジメント、グローバル事業など、各社でさまざまな部門を担う方々が参加。セミナーの様子を抜粋してご紹介します。

はじめに

ニュートン・コンサルティング代表・副島より

セミナーの冒頭、当社代表の副島一也が参加者の皆様にご挨拶しました。

ニュートン・コンサルティング
代表取締役社長
副島 一也

副島「弊社は長年、リスクマネジメントを専門にコンサルティングを手がけてきました。あらゆるリスクがある中で、私自身が一番避けたいものを挙げるならば、それは戦争です。ただ、ロシアによるウクライナ侵攻を誰も予見できなかったように、事前に想定したことはなかなか当たりません。ですから、『リスクが現実になる可能性は何%なのか』と分析するよりも、『もしも有事が生じたら、自社は何をすべきか』と対策を考えるほうが重要なのです。本日は、さまざまな会社・部署の皆様にお集まりいただきましたので、それぞれの知見を持ち寄って考える場にできたらと思います。」

第1部

台湾有事における法的リスク分析

第1部では、TMI総合法律事務所様によるセミナーを実施。経済安全保障やサイバーセキュリティなど、幅広い法務に携わる白石和泰氏が登場し、法的な視点から、台湾を取り巻く現状や、注目すべきポイントについて解説しました。

TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
白石 和泰氏

白石氏「2023年10月1日時点で、日系企業は中国に31,060拠点、台湾に1,496拠点あります。台湾有事の影響は、当然大きなものになるでしょう。日本政府も『中国軍の台湾上陸には1か月かかる』としていた予測を『上陸は1週間以内に可能』と修正するなど、危機感を高めています。中国の台湾政策に関する法令に注目し、規定内容を確認することで、有事において中国がどのような対応をするのか、ある程度予想できるため、法令の検討は有益です。」

続けて白石氏は、台湾有事において生じるリスクとして次の5点を挙げ、それぞれに関連する法律や、過去の事例について説明しました。

  • 中国事業が停止し、投資が回収できなくなるリスク
  • 従業員の安全が脅かされ、退避できなくなるリスク
  • サイバー攻撃を受けて、技術が漏洩するリスク
  • 欧米諸国や日本が中国に対して経済制裁をするリスク
  • 中国が経済制裁への対抗措置をとるリスク

また、経済制裁に関するリスクについては、この分野で講演や執筆の経験を多数持つ張氏が解説。その中で、経済制裁の内容を理解する必要性についても指摘しました。

張氏「日本企業は、欧米諸国や日本、EUが中国に対してとる経済制裁の内容に違反した場合、罰則・制裁を受けて、日本や欧米市場でビジネスができなくなる可能性があります。こうなると、有事の起きている中国・台湾だけでなく、他の国でも経済活動ができない、板挟みのような状況になってしまいます。」

第2部

地政学リスクとBCP

ニュートン・コンサルティング
エグゼクティブ・コンサルタント
久野 陽一郎

第2部の前半では、当社エグゼクティブ・コンサルタントの久野陽一郎が講演。国内外500社以上で危機管理などの支援をしてきた実績を踏まえ、BCPの基本的な考え方について解説しました。

久野「国内外で、災害リスクや感染症リスク、そして紛争・戦争などの地政学リスクが頻繁に起きています。このような中で事象ごとに対策を打っているようでは、きりがありません。そこで意識したいのが、さまざまなリスク対応を汎用的に網羅する、オールハザード型のBCPです。」

BCPの枠組みを理解したところで、第2部の後半では、シナリオをもとにした台湾有事シミュレーションを実施。参加者は4人1組のグループに分かれ、台湾有事を想定した下記の4段階について、自社への影響や、台湾・中国にある自社の人員への対応策などを話し合いました。

  1. 海上が一部封鎖された場合
  2. 日米、中国の双方で貿易規制を行った場合
  3. 開戦となった場合
  4. 戦争状態が長期化した場合

各グループのディスカッション内容に対しては、久野が適宜フィードバックをし、次のように締めくくりました。

久野「当社では8月に、中国・台湾に拠点がある(または取引がある)企業のBCP担当者1,000名を対象に、調査を実施しました。その結果、63%の企業が台湾有事は経営課題・リスクであると認識していることがわかり、昨年調査時の56%と比較して、危機意識が高まっていることが明らかになりました。参加者の皆様も、今日のシミュレーションで考えたことを自社に持ち帰っていただきたいと思います。」

第3部

パネルディスカッション

プログラム最後のパネルディスカッションでは、TMI総合法律事務所様の國井耕太郎氏と、ニュートン・コンサルティングの内海良もパネリストとして参加。それぞれの視点から、台湾有事について意見を交わしました。

まず議題に挙がったのは、「何をもって台湾有事の予兆を判断するのか」という点。ニュートン・コンサルティングの久野は、「SNSを通して、中国や台湾の民衆の動きを見るのも一つの方法。現地のインターナショナルスクールで、最近どのような注意事項が回っているのか把握するのも有効だと思います」と述べました。TMI総合法律事務所様の國井氏は、「ロシアによるウクライナ侵略に際して、侵略が起こる数か月前から米国政府はロシアによる侵略への注意喚起を行いました。台湾有事に関しても、米国政府が発信する情報は非常に参考になるものと思います」と話しました。

ニュートン・コンサルティング
執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント
内海 良

サイバーセキュリティに関する議論では、この分野でのコンサルティング経験を豊富にもつ内海が、「台湾有事では、確実にサイバー攻撃が起きます」と断言。「有事での攻撃に気づかれないよう、平時から少しずつ攻撃する手法が一般的。もうすでに、破壊型のマルウェアが仕込まれているかもしれません。普段から社内のログをアーカイブし、平時と有事の状況の違いを見比べておくとよいでしょう」と注意喚起しました。

パネリストらは、台湾有事における日本国内の影響についてもあらためて議論。防衛省での勤務経験をもつ國井氏は、「有事の際は、偽情報が飛び交う可能性が非常に高いと考えます。誤った情報に基づき経営判断をしてしまわぬよう、企業は情報の原典にあたることを一層意識する必要があります」と話しました。

TMI総合法律事務所
アソシエイト弁護士
國井 耕太郎氏

平時での対策については、ニュートン・コンサルティングの久野・内海があらためて、部署横断型でのシミュレーションが実践的な訓練になると提言。また、TMI総合法律事務所様の張氏は、「有事の際、経済制裁の状況は刻一刻と変わります。その際、日本企業は政府に対して、今どんなことに困っているのかを伝えることも大切です」と話しました。続けて白石氏が、「平時においても、政府側と企業側が互いに、『こちらの考えを知ってほしい』と思っている。TMI総合法律事務所が、そのつなぎ役を務めることも多々あります。今後もTMIが政府と企業のパイプ役となり、必要なときに助け合える環境を作っていけたらと考えています」と締めくくりました。