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軍隊に学ぶ危機管理のあり方

掲載:2010年12月17日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

コラム

ビジネス雑誌、ハーバードビジネスレビュー今月号(2010年11月号)のテーマは「軍隊に学ぶリーダーシップ」でした。その中に、危機管理に関する面白い記事があったので紹介します。

記事: "You have to lead from everywhere" (あらゆるところから指揮をとらねばならない)"
by アメリカ沿岸警備隊最高司令官 Thad Allen氏

「(滅多に遭遇しないような)“大きな危機”に直面した際、どのように対応してきたか、そして、そこで求められたリーダーシップとはどんなものか?」ということが、記事の趣旨です。

         

BCPをも包括する危機管理

「滅多に遭遇しないような“大きな危機”」とは、換言すれば、「予想外の事態」を指します。自然災害であっても、ある程度その発生や被害が事前に予測され、対応方法が決められているものについては、この記事が前提とする“大きな危機”には当たりません。ある程度想定されるシナリオに応じて行動計画を立てる事業継続計画(BCP)とは、この点で異なります。危機管理はBCPをも包括するより広範なリスクを見据えた体制とも言えるでしょう。そしてそれは、CMP(危機管理計画:危機が発生した際の危機管理チームの行動計画書)として定められます。

したがって、たとえば、アメリカで頻繁に起こっている通常サイズのハリケーンがもたらすような事態は、大きな危機ではないことになります。逆に、2005年にニューオーリーンズ州(アメリカ)で起きた巨大ハリケーン、カトリーナ災害※1であるとか、つい最近起きたBP社のメキシコ湾オイル流出事故などは、ほとんど想定できなかったような(少なくとも想定していなかった)事態であり、“大きな危機”に当てはまります。

「発生の予想が難しい(シナリオを描くのが難しい)事態に対して、何をどこまで用意しておくべきなのか(または用意できるのか?)」という事を考える上で、この記事は非常に興味深いものでした。

※1. 通常のハリケーンに対しては、州政府が機能していることを前提とした行動計画が策定されており、それに沿って対応が行われています。しかし、カトリーナの時には州政府そのものが機能しない事態に陥りました。

“指揮命令系統の徹底”よりも重要なこと

最高司令官Thad Allen氏は記事中、以下のように述べています。

「軍隊(あるいは想定範囲内の事態への対応)ではChain of Command(指揮命令系統)が重要だ。しかし大きな危機に対しては、Unity of Effort(努力を結集させること)が重要になる」

なお、「Chain of Command(指揮命令系統)」とは、「各人決められた役割・責任の中で、組織階層を尊重し、ルールを守って、決められた指示通りに動くこと」を指します。これに対して「努力の結集」とは、「そのときそのときで、決められたルールに縛られすぎず、ある程度柔軟(かつ迅速)に動き、利用可能なリソースを最大限活用するよう現場のみんなが力を合わせて動く」ことを意味します。

(予測できない)危機であればあるほど、周囲は混乱状態である可能性が高く、細かい指示を出せないため、多くの場面で自己判断が求められます。リーダーは、おおざっぱな指示を出して(ただし正確に伝えて)、各チームの判断で動いてもらうことが現実的であり、実効的である、というわけです。

危機管理成に求められるリーダーの絶対条件

さて問題は、どうやって「努力の結集」を実現するか、というHOWです。Thad Allen氏の発言をまとめると、“強力なリーダーシップ”とコミュニケーションに集約されます。強力なリーダーシップとは、具体的には以下の5つであると述べています。

  • マクロ的に物事をとらえられること
  • 明瞭簡潔な指示を出し、正確に現場に伝えられること
  • 必要な場所に足を運び、かつ、いつどこからでも指揮をとれるようにしておけること
  • 平常心を装っていられること
  • 好奇心が旺盛であること

上記2点目の「明瞭簡潔な指示」は、経営に通じるものがあります。経営者の意志を正確かつわかりやすく現場に伝えるのは決して容易いことではありません。たとえばThad Allen氏はカトリーナ災害の際、約2000人以上の関係者を一部屋に集めて、次のようなメッセージを発信して、リーダーシップを発揮することに成功したそうです。

~カトリーナで集合した部隊2000人を一室に集めリーダーが出した唯一の命令~
「自分に助けを求めてきた者には、自分が一番大切に思う人達(家族であるとか、親友であるとか)にとるであろう対応と同じ対応をしなさい。そのような行動をとって失敗しても想定される事態はせいぜい2つだけだ。1つは、やり過ぎてリソースを無駄に使ってしまう可能性があるということ。しかし、やり過ぎは構わない。どんどんやりなさい。もう1つは、誰かがケチをつけてくることだ。しかし、そのような文句があっても、それは全て私の責任だ。気にしないで積極的に行動しなさい。」

“融通性”を持ったプランと適切な人材の確保が、危機管理成功の鍵

仕事柄、私はお客様からCMP(危機管理計画:危機が発生した際の危機管理チームの行動計画書)を見て欲しいとご相談を受けることがあります。その際に感じるのは、今回の記事の趣旨と合致するところですが、細かい行動手順や「あれば良さそう」的な情報を記載した行動計画書は、見栄えはいいかもしれませんが、実は事態の変化に柔軟に対応できない可能性が高く有効性が低い、ということです。まして、予測が困難な事態であればあるほど、緻密な計画書は融通性とともにその効果を失ってしまうと言えるでしょう。

したがってCMP(危機管理計画)を考える際には、本当に重要な要素、たとえば、危機管理対策本部の人員構成やコミュニケーション手段の確保、主要ステークホルダーの連絡先などをおさえておき、後は、現場でリーダーシップを発揮できる人たち(それを支える人たち)を確保しておくこと、これが重要になるのではないかと考えます。

===2011年4月27日(追記)===

“危機管理のあり方”に関するテーマで2011年4月27日の日経記事にジュリアーニ前市長の考えが掲載されていましたが、Thad Allen氏の上記発言を補完するものでしたので以下に紹介しておきます。

前市長によれば、危機管理で大切なことは、Command and Control(指揮と制御)だそうで、中でも指揮については、ワン・ボイス(命令を出す人を1人に絞ること)、(たとえ1人が無理な場合でも)ワン・セントラル・ボイスを心がけることが重要であると述べています。ワン・セントラル・ボイスとは、情報の発信者が複数いたとしても同じ時間に同じ場所から揃って情報を発信することを意味します。

ぜひ、こういったことも肝に銘じておきたいものです。

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