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ハイレベルBIA(ハイレベル事業影響度分析)

掲載:2009年12月11日

改訂:2021年08月27日

改訂者:コンサルタント 藤岡 誠

用語集

ハイレベルBIAとは、事業影響度分析(BIA=Business Impact Analysis)の一種であり、企業などの組織において、事業活動全体の復旧要件の大枠を決定するための分析手法です。「事業活動全体の復旧要件の大枠」とは、災害などで中断した事業を復旧する際に組織が満たすべき要求事項を指します。具体的には例えば「どの事業を優先的に復旧・継続させるのか?」「どれくらいのスピードでどのレベルまで復旧させるのか?」「復旧させる際には何を重要視するのか?」などといったことです。なお、ハイレベルBIAという名称は広く普及しているわけではなく、別の名称で呼ばれることもあります。世界中のBCP(事業継続計画)プロフェッショナルの知見を集約した「Good Practice Guideline 2018」では、「イニシャルBIA」や「製品・サービスBIA」と表記しています。

         

ハイレベルBIAのポイント

ハイレベルBIAのポイントは、組織の売上目標が組織の各階層で設けられるのと同様、復旧要件も事業の各階層ごとに設定されるものだ、ということです。ここで「事業の各階層」とは、事業を構成する要素群の階層を意味します。具体的には「事業」→「事業を支える製品・サービス」→「製品・サービスを支えるプロセス」→「製品・サービスを支える業務」→「業務を支える経営資源」を意味します(下図参照)。つまり、ハイレベルBIAは、この階層において「事業」→「事業を支える製品・サービス」の復旧要件を考える分析手法です。

ハイレベルBIAの意義

ハイレベルBIAの意義は大きく分けて3つあります。
第1の意義は、組織が複数の事業を営んでいる場合、BCPを優先的に策定すべき事業を選定できることです。組織の資源は限られている上、有事にどれだけ急いで復旧すべきかは事業の性格によっても異なることから、ハイレベルBIAという合理的な分析結果に基づいて、資源をより優先的に振り分ける事業を選別することは有益です。

第2の意義は、事業活動全体の復旧要件をまずは「ハイレベル」で俯瞰できることです。ここでの「ハイレベル」とは「高水準の」という意味ではなく、高い位置から捉えた「俯瞰的な」という意味です。事業活動全体の復旧目標を俯瞰的に明確化することで、その後の個別業務ごとの分析を効果的・効率的に実施しやすくなります。なぜなら、個別業務の復旧目標を決める際には、事前に決めておいた事業活動全体の復旧目標が1つの目安になるからです。個別業務の復旧目標をいきなり議論すると足並みが揃わず、バラバラな目標設定がなされてしまうリスクがあります。

第3の意義は、組織のステークホルダー(利害関係者)に対して説明責任を果たしやすくなるという点です。ここで「ステークホルダー」とは、組織の役員や従業員、株主、あるいは取引先などを指します。ハイレベルBIAのような分析を行わずに、「ただなんとなく優先順位を決めた」となった場合、これらステークホルダーへの説明が困難になります。

ハイレベルBIAの手法

ハイレベルBIAでは具体的に以下の3つの検討を行います。

1. ステークホルダーニーズ分析
組織のステークホルダー(図参照)特定とニーズの洗い出しをするステップです。これを通して、組織の事業活動がどのような人や組織とつながっており、配慮する必要があるかを明らかにします。

図:ステークホルダーの具体例

2. 対象事業の選定(複数事業を営んでいる場合)
事業の特性や経営層の方針をインプットにしながら、優先的に復旧させるべき事業、すなわち優先的にBCPを策定すべき事業がどれかについて分析を行います。「事業の特性」とは、例えば次のようなものです。

  • 有事下において、その事業の需要は増えるのか、減るのか
  • 会社にとって財務の観点でどれだけ重要な事業か
  • 会社にとって将来性の観点でどれだけ重要な事業か
  • 顧客や社会に与える影響はどれだけ大きいのか

3. 事業の復旧目標の分析
#2で選定した事業ごとに、その事業が万が一中断した際の復旧の(全体)目標について分析・決定をします。分析によって決める事項は、最大許容停止時間(MTPD)と目標復旧時間(RTO)です。なお、最大許容停止時間(MTPD)とは、事業停止時間に関する組織としての許容限界点のことです。例えば、MTPDが1ヶ月となった場合、「この事業が仮に1ヶ月以上中断した場合、どんなに頑張ってももう2度と元の事業の形には戻せない」という意味になります。ここには「経営層がどうしたい」という意志は含まれず、あくまでも客観的にどこまで止まったらアウトか、という意味合いのものです。また、復旧目標(RTO)とは、MTPDを踏まえた上で「経営層が目指したい」復旧目標です。例えば、RTO1週間とした場合は「その事業が仮に中断することがあっても、1週間以内の復旧を目指したい」という意味になります。

MTPDの算定にあたっては、財務影響度・成長性・公益性・契約要件の厳格性などといった複数の観点で「時間の経過とともに事業中断がもたらす影響」を分析することで特定することが一般的です(下表参照)。

観点 時間経過とともに事業中断が組織にもたらす影響の大きさ MTPD RTO
1日 1週間 ・・・
財務 ・・・ 1ヶ月 1週間
成長性 ・・・
・・・ ・・・ ・・・ ・・・

ハイレベルBIAを有効なものにするために

ハイレベルBIAを有効なものにするためには、経営層に近い立場の人が分析に参加することが重要です。言い換えれば、組織経営全体を把握し、事業の自社にとっての重要度や、ステークホルダーへの影響の大きさを把握しており、また優先順位を判断できる立場にある人を巻き込むことです。その理由は、ハイレベルBIAが事業全体の復旧要件を決めるものだからです。有事にどこまでどれくらいのスピード感で復旧させたいのか、それを現場の責任だけで決定することはできません。

また、経営に近い立場の人が入ることで、その後のBCP活動を円滑に進めることができます。トップの意思が入った方針づくりができるため、その後の個別具体的な事業の継続策策定にあたっても、トップの意思に反した計画が現場で作られるのを防ぐことができます。またトップがどこまでコストパフォーマンスを意識するかという基準も最初のコミュニケーションの中である程度共有できるため、組織の実態に合った、現実的なBCP策定につながりやすいと言えます。

参考文献
  • 打川和夫.(2020.)『図解入門ビジネス 事業継続マネジメントシステム ISO22301 2019のすべてがよ~くわかる本.』 秀和システム.
  • 勝俣良介.(2012.)『ISO22301徹底解説 BCP・BCMSの構築・運用から認証取得まで.』オーム社. ニュートン・コンサルティング監修.
  • Business Continuity Institute/The BCI Forum Limited.(2017.)『Good Practice Guidelines 2018.』 British National Library.
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