デジタルリスクを考える③~APIエコノミーが内包するリスク~

掲載:2022年01月06日

執筆者:チーフコンサルタント 谷野 祐規

コラム

APIエコノミーとは、API(Application Programming Interface) の公開によって自社と他社のサービスをつなぎ合わせ、それによってエコシステムが大きくなっていくことで作られる一連の経済圏(エコノミー)のことです。 APIとは、「アプリケーションやシステムをつなぐためのインターフェイス」であり、アプリケーションの一部を公開して、他のアプリケーションと機能を共有することでプログラムを連携させる仕組みです。APIを公開し、それを他社が利用することによって、API提供企業はサービスのリーチ範囲が広がり、新規顧客の獲得が見込めるなどのメリットを享受できます。他方、APIを利用する側の企業は、魅力的な機能を自前で開発せずに自社サービスに組み込めるというメリットがあります。本稿は不定期連載「デジタルリスクを考える」の第3回として、APIエコノミーの概要や活用事例をご紹介するとともに、APIエコノミーが内包するリスクについても考えます。

         

APIエコノミーの根幹を支えるAPI連携

API自体は決して新しい技術ではないにもかかわらず、昨今APIエコノミーが注目を浴びている要因の一つに、Webサービスの利用環境が大きく変化したこと挙げられます。インターネットの高速化やスマートフォンの普及、クラウドサービスの多様化など、Webサービスの利用環境には短期間で大きな変化が起こりました。そのような中で自社の限りある経営資源を有効に活用しながらイノベーションを起こすために、APIエコノミーは大きな役割を担います。

身近な例では、Google社が提供する地図アプリ「Google Maps(Googleマップ)」があります。このアプリは、飲食店の検索サイトや配車アプリなど様々な他社のサービスからインターネットを介して連携されています。これはGoogle社が地図のソフトウェア機能をAPIとして提供しているためで、他社は自前で地図を開発せずにGoogle社の地図情報を自社のサービスに活用することができます。このように、APIの活用は「提供する側:API Provider」と「利用する側:API Consumer」の2つのプレイヤーに分かれ、APIを展開するプラットフォーム上で連携することで、双方に価値が提供されます。こうしたプレイヤーは続々と増え、多くのプレイヤーが連携して、APIエコノミーが形成されていくのです。

APIエコノミーによって大きな成長を果たした事例

上記のようにAPIエコノミーを活用することで急拡大したサービスの一つに米ウーバー・テクノロジーズが提供する「ウーバー(Uber)」があります。Uberは日本国内では規制により料理配達事業が中心ですが、本来はライドシェアと言われる形態の配車サービスが主力事業で、それは登録ドライバーの車両をスマートフォンでタクシー代わりに手配できるというものです。アプリを利用すると、車の位置情報がスマートフォンに表示されドライバーと簡単に連絡が取れます。支払いも事前に登録したカード情報により自動的に完了するため、配車から支払いまでをワンストップで完結することができます。Uberは乗客と車のマッチング機能の開発に専念し、その他の機能については、Google社の提供する地図情報や、Twilio社の提供するコミュニケーション機能、Braintree社の提供する決済機能など、複数のAPIを利用したことでサービスを迅速に立ち上げることができました。

また、UberはGoogle社などのAPIを「利用する側」ですが、同時に「Uber API」を公開しており、「提供する側」でもあります。例えば、ホテルなど宿泊施設がホームページ上にUber APIを組み込めば、宿泊客はそのホテルのホームページからUberの配車サービスを利用できます。結果として、Uberがこれまでリーチできなかった層へのサービス利用を促しました。

2009年に創業したウーバー・テクノロジーズは、このようにAPIを活用するモデルによって成長を果たし、約10年で上場することになります。上場直前の2018年末のアクティブユーザー数は9100万人にまで達し、2018年の総利用回数は52億回となりました。この結果、上場時の時価総額は820億ドル超にも上りました。

APIエコノミーにおけるリスク

それでは、APIを活用する上でのデメリットやリスクはないのでしょうか。例として、UberがGoogle社のAPIを利用していることのデメリットやリスクを考えてみましょう。まず考えられるのは、自社にとって重要なデータがAPIを通じて他社にも提供されることです。Uberの例では、乗客が配車サービスを利用するたびにAPIを通じてGoogleマップの機能が呼び出され、いつ・どこで配車が行われたかなどの交通パターンに関するデータが、大量にGoogle社へ提供されます。さらにUberにとって脅威となるのは、Google社がUberへの地図機能の提供を打ち切ったうえで、配車サービスに進出するというシナリオです。Uberが現在500億円もの資金を投入して独自の地図データを作成しているのは、このような背景があるためと考えられます。

また、個々の契約にもよりますが、API連携に過度に依存してしまうと、APIを提供している企業がAPIの仕様を変更したり、提供を停止したりする際に、自社サービスにも不具合が生じる可能性があります。自社サービスの核となる技術をしっかり持ったうえで、不足している部分をAPIによって補うという考え方が重要となります。

このように、APIを活用することは、ビジネスの展開を加速させる一方、自社の競争優位性を脅かすようなデータを提供したり、APIの提供停止やAPI利用規約の変更によるサービスへの影響が発生したりと、様々な戦略上のリスクを抱えることにもなります。

今後のAPIエコノミーに関するシナリオは?

近年、デジタル経済の進化により、複数社のリソースを外部調達して生産性を高め、新たな商品やサービスの開発を次々に行うことが求められています。総務省による「情報通信白書」でも何年も前から、自社の資源・技術だけを用いる自前主義からの脱却を提言しています。APIエコノミーはシステム開発のスタイルを、自前主義をやめてコモディティ化されたサービスを活用してシステムを作るという「新しい開発プロセス」に変えました。これからは、「APIを組み合わせたシステム開発」が選択肢として存在感を高めていくことが考えられます。

折しも現在、開発の主流はプログラムコードを記述するコーディング作業が少ないローコードに移行しつつあります。ローコードであれば、事業部門でもシステム開発ができる可能性もあります。こうした背景もあり、今後のITシステムは、オープンなAPIと自社で開発したプライベートなAPIとをローコード開発基盤で統合するという、すでにECやBtoCでは主流になりつつあるスタイルが、社内システムや業務システムなどにも使われるようになると考えられます。すべてがAPI化するという意味において真のAPIエコノミーが形成されるのはこれからと言え、今一度、APIエコノミーのリスクも踏まえた上で向き合うことが必要になるでしょう。

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