デジタル敗戦からの脱却を目指す、報告書「デジタル経済レポート―データに飲み込まれる世界、聖域なきデジタル市場の生存戦略」を公表 経産省
経済産業省は4月30日、報告書「デジタル経済レポート―データに飲み込まれる世界、聖域なきデジタル市場の生存戦略」(※)を公表しました。日本が抱える「デジタル赤字構造」に警鐘を鳴らしとるべき戦略を示すことで、従来の政策アプローチや産業構造に囚われない新たな官民の協力関係の構築と、実行すべき施策策定の前提となる共通認識の醸成を狙いとしています。
同書では、日本のデジタル競争力について「デジタル敗戦」ともいうべき危機的な状況だと指摘しています。マクロ経済指標における「デジタル赤字」が2024年現在、6.85兆円の赤字を計上しており、報告書を作成したプロジェクトチームが開発した「PIVOTデジタル赤字推計モデル」を用いると、ベースシナリオで2035年には約18兆円のデジタル赤字を計上、さらに、AI革命を踏まえた悲観シナリオでは約28兆円のデジタル赤字を計上するという結果となりました。
なお、デジタル赤字とは、財務省と日本銀行が公表する国際収支統計におけるサービス収支のうち、デジタル関連についての支払超過を示すものです。デジタル関連収支は、「著作権等使用料」、「通信サービス」、「コンピュータサービス」、「情報サービス」、「経営・コンサルティングサービス」の5項目で構成されています。一方、報告書を作成したプロジェクトチームは「著作権等使用料」と「コンピュータサービス」、「専門・経営コンサルティング」の3項目に絞った上で、事業区分を「専門・経営コンサルティング」、「アプリケーション」、「ミドルウェア/OS」、「SI」、「計算資源インフラ」、「デジタル広告」、「デジタル取引」、「エンタメ関連」の8つに細分化し、独自の「PIVOTデジタル赤字推計モデル」を開発しました。3項目に絞った理由はこの3つでデジタル赤字の97%を占めるためです。
独自の推計モデルから得られた結果と、量子コンピューティングといった重要技術動向を踏まえ、日本がとるべき戦略の方向性を示しています。
具体的には、短期と長期の2段構えで日本が実施すべきグローバル市場進出に基づく受け取り増加戦略です。短期では受け取りを増やすことを目指し、長期では支払い構造を転換することを目指します。ハードウェアとソフトウェアの主従が逆転したこと、上流と下流工程に付加価値が偏る「バリューチェーンのスマイルカーブ」といった現象を前提にして国際市場進出型の産業戦略について説明しています。
このほか、デジタル関連収支ではなくモノの扱いとして貿易収支に算入されている「隠れデジタル赤字」の存在、経済産業省が中心となって推進している「ウラノス・エコシステム」(Ouranos Ecosystem)というデータ連携の取り組み、ギャップ分析を踏まえた上での施策的示唆などをまとめています。
※経済産業省大臣官房若手新政策プロジェクトPIVOT(Policy Innovations for Valuable Outcomes and Transformation)の一環として、デジタル経済プロジェクトチームが作成