エンタープライズアーキテクチャ(EA)を強く推奨、総括レポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」を公表 デジタル庁/経産省/IPA
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2024年6月に閣議決定)に基づき設置された「レガシーシステムモダン化委員会」は5月28日、これまでの議論を総括したレポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」(以下、総括レポート)を公表しました。レガシーシステムが日本企業のDX推進にとって大きな障壁となっている一方で、企業の対応は依然としてスピード感に欠けるとし産業界・企業に対し具体的な提言をまとめるとともに、政策の方向性も示しました。
レガシーシステムモダン化委員会はレガシーシステムの問題解消に向けた省庁横断の協議会です。「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(司令塔はデジタル庁)に設置が盛り込まれ、事務局はデジタル庁と経済産業省、情報処理推進機構(IPA)が務めています。
レガシーシステムとは、古いプログラム言語などで作られ、複雑化・老朽化した既存システムのことです。レガシーシステムは新しいサービスや技術との連携が難しいといった問題のほかに、保守に手間がかかったり、将来的に障害が発生した際に復旧できなかったりするリスクが指摘されています。
レガシーシステムからの移行が容易であれば問題はないのですが、実際には多くの困難が伴うため、それが大きな障害となっています。レガシーシステムを新システムに移行するにあたって、事業に深刻な影響を及ぼす問題事例が実際に発生しています。全銀システム(全国銀行データ通信システム)の障害(2023年10月)や江崎グリコの物流センターで起きたシステム障害(2024年4月)などは、レガシーシステムを刷新・移行する過程で発生したとされています。
移行に伴う困難は例えば、長年のカスタマイズにより複雑化した仕様を読み解くこと、蓄積されたデータ移行の問題、多額のコスト、人材の不足、移行に伴う事業中断リスクなどがあります。こうした問題を踏まえ総括レポートでは、企業が取るべき対策として次の2点を提言しています。
1点目は、経営層の強力なコミットメントのもと、現行踏襲を見直しつつシステムの可視化と内製化、標準化を進めることです。経営層やCxOが数年で代替わりするユーザー企業では「中長期的なシステムへの投資が先送りされ理解が進まない」と明言。自社組織の全体的な構造を整理した上で、IT/デジタル戦略とビジネス戦略を統合し、IT資産とビジネスプロセスを最適化する枠組み「エンタープライズアーキテクチャ(EA)」を設けることを強く推奨しました。
標準化対応では例えば、業務プロセスを見直すことでSaaS(Software as a Service)へ移行できるかを最優先で検討します。将来のレガシーシステム化を防ぐためにも特に、中堅・中小企業はスクラッチ開発を避け、パッケージやSaaSを原則とすべきであると記しました。
2点目は上流人材の育成・確保を進めるとともに、ベンダー企業は代替技術の開発やユーザー企業の内製化支援・伴走に取り組むことです。ベンダー企業では、生成AIなどを活用してレガシーコードを解析し、その導入事例やプラクティスをユーザー企業に広く展開することで、自社の付加価値を高めていくことも重要だとしました。
政策としては例えば、上流人材の育成・確保のために人材育成のプラットフォームを構築し市場に広く開放していくほか、システム移行(モダン化)の取り組みを促進・助成するためのインセンティブのあり方について引き続き検討していくと記されています。