企業価値を高める「DX認定」を受けるには ~デジタルガバナンス・コード対応でDXを加速~

掲載:2022年08月08日

改訂:2022年12月08日

執筆者:エグゼクティブコンサルタント 星野 靖

改訂者:ニュートン・コンサルティング 編集部

コラム

デジタルトランスフォーメーション(DX=デジタル技術を用いたビジネス変革)という言葉が頻繁に聞かれるようになって久しいですが、昨今では、ビジネスにおけるデジタルデータの活用は企業の成長に必要なだけでなく、企業の存続に関わると言える状況になってきました。しかし、日本企業におけるDXの普及は諸外国に比べても後れを取っており、現状のままでは国際競争力がますます弱まることが危惧されます。これを受けて情報処理促進法が改正され、2020年5月から「DX認定制度」がスタートしました。本稿では、DX認定制度および同制度の認定基準となる「デジタルガバナンス・コード」について解説するとともに、関連する制度や指標についても紹介します。

         

DX認定制度とデジタルガバナンス・コード

DX認定制度はDXを推進し変革に向けた体制を整備した事業者(「デジタルの活用によって自らのビジネスを変革する準備ができている状態(DX-Ready)」と確認できた事業者)を申請に基づいて国が認定するものです。認定を受けることで、後述するさまざまなメリットを享受することができます。

DX認定制度の認定基準となるのが「デジタルガバナンス・コード」です。日本企業のDXを推進させるため、経営者に焦点を当てて経営戦略の構築など求められる対応を示しています。デジタルガバナンス・コードは経済産業省によって2020年11月に策定され、2022年9月には第2版となる「デジタルガバナンス・コード2.0」が公表されました。デジタルガバナンス・コードは2年ごとに見直されることが決まっているためで、改訂ではデジタル人材の不足やデジタル対応能力を身につけるリスキリングの必要性が説かれる現状なども踏まえ、「人材の育成・確保」が認定基準に追加されました。

DX関連の指標としては、DX認定制度およびデジタルガバナンス・コード以前に示された「DX推進指標」(2019年公表、経産省)があります。DX推進指標に対応することでデジタルガバナンス・コードの一部をカバーできるため、DX認定を目指す事業者には有用と言えます。

DX認定制度の概要

DX認定のメリットと認定手順

DX認定を受けた場合、事業者には以下のようなメリットがあります。

  • DX認定ロゴマークを使って、DX活用に積極的な企業であることをアピールできる
  • デジタル関連投資への税制優遇(税額控除3%または5%、もしくは特別償却30%等)を受けられる
  • 中小企業を対象とした金融支援を受けられる

DX認定を受けるにあたっては必要書類に記入の上、IPA(情報処理推進機構)に審査を申請し、その結果を基に経済産業省から認定を受けます。申請が受理されてから認定結果が通知されるまでの標準期間は60日、認定の有効期間は2年です。

DX認定とDX銘柄

日本国内の事業者総数が約360万社、上場企業だけでも約3,800社ある中で、2022年11月末現在のDX認定事業者は520社であり、広く普及しているとは言い難い状況です。このため、国ではDX認定制度の普及に力を入れています。

その取り組みの一つが、経産省と東京証券取引所が共同で毎年選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」です。DXへの取り組みが特に優れた上場企業を「DX銘柄」として選定するもので、その選定条件にDX認定事業者であることが2021年度から加わりました。DX銘柄には、“デジタル時代を先導する企業”として特に優れた事業者に与えられる「DXグランプリ」、DX銘柄に選定されてはいないものの、注目されるべき取り組みを実施している企業に与えられる「DX注目企業」があります(図表1)。

なお、DX銘柄のことを以前は「攻めのIT経営銘柄」という名称で呼んでいましたが、DXの潮流を踏まえて2020年から「DX銘柄」に変更されました。

【図表1:DX銘柄選定までの段階(上にいくほど優れていると認められる)】
状態 概要 名称
DX-Excellent DX認定事業者のうち、優れた実践事例となり、デジタル活用実績が既にある事業者 DX銘柄
DX-Emerging DX認定事業者のうち、ステークホルダーとの対話に積極的で、優れた実践事例となる事業者 DX注目企業
DX-Ready DX認定を取得した事業者 DX認定企業
DX-Ready以前 DX認定を取得する状態以前

出典:経済産業省の公表資料を基に筆者作成

DX注目企業やDX銘柄、DXグランプリに選定されるためには、毎年12月に実施されるアンケート調査「DX調査」に回答する必要があります。調査票は経済産業省が作成しているもので、主に「企業価値貢献」と「DX実現能力」の観点で評価されます。調査票は例年秋には事前公開され、「DX銘柄2023」の選定に向けてはデジタルガバナンス・コード2.0に沿った設問項目が加わりました。例えば、DXの推進について自社だけではなく社会や業界の課題解決に向けてDXを牽引する姿勢があるか、デジタル人材の育成・確保についてはメディアなどを通じ外部へも効果的にアピールできているかなどを問う内容に変更されました。

今や企業の存続にはDX活用は必須と言えますが、優れた形で実践できれば、DX銘柄などの「お墨付き」を得ることで株価向上など企業価値アップも期待できます。

デジタルガバナンス・コードの概要

DX認定制度の認定基準となるデジタルガバナンス・コードは、主に以下4点の考え方を柱とする行動規範です。デジタル活用によって価値創造を行い、それを見せられる形にすることが重要だと言っています。

  • ビジネスとITシステムを一体的に捉える
  • デジタル技術による影響を踏まえた、経営ビジョンの策定及び実現を進める
  • 経営ビジョンを実現するビジネスモデルの設計を行う
  • これらを価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示す

DX認定制度の認定基準はこの考え方がベースとなっており、具体的には以下の8つの基準が定められています(図表2)。DX自体の対応に加えて、ITガバナンスやサイバーセキュリティの対応も併せて進めていくことが必要です。

【図表2:デジタルガバナンス・コードのカテゴリーとDX認定基準】

出典:経済産業省の公表資料を基に筆者作成

デジタルガバナンス・コードに対応するには

デジタルガバナンス・コードはその対応方法を厳密に規定している訳ではないため、適宜他のガイドラインを活用することで、対応をスムーズに進めることができます。DX認定基準を満たすには、先述の「DX推進指標」への対応を進めるとともに、別途、DX推進指標がカバーしていないITガバナンスとサイバーセキュリティに対応するのが良いでしょう。

DX推進指標への対応

DX推進指標は2019年に経産省が策定した評価指標で、定性指標(小分類9点、計35の観点)と定量指標(小分類13点、計22の観点)で構成されています(図表3)。

【図表3:DX推進指標の構成 (定性指標と定量指標)】

出典:経済産業省の公表資料を基に筆者作成

DX推進指標に対応することで、デジタルガバナンス・コードの一部をカバーすることができます。DX推進指標とデジタルガバナンス・コードの関係性を視覚的に表現すると図表4のようになります。

【図表4:DX推進指標とデジタルガバナンス・コードのマッピング】

※赤字1~4がデジタルガバナンス・コード
出典:経済産業省の公表資料を基に筆者作成

ITガバナンスへの対応

では、ITガバナンスの対応はどう行えば良いでしょうか。ITガバナンスに関わる有力なフレームワークとしては、IT-CMFやCOBIT等が存在しますが、手軽に利用できない、内容が難解であるなど、どちらもハードルが高い印象があります。そこでお薦めしたいのが、経産省が公表している「システム管理基準」です。日本における実績がある、時代に合わせた改訂が行われている、ITガバナンスに関して国際規格と整合しているなどの点を踏まえると、有力な選択肢として挙げられるでしょう。

サイバーセキュリティへの対応

サイバーセキュリティへの対応はどうでしょうか。デジタルガバナンス・コードでは、例として「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」(経産省)への対応が紹介されています。同ガイドラインは3原則と重要10項目で構成されており、サイバーセキュリティ経営可視化ツールを使って簡単に自社のサイバーセキュリティを評価できるため、取り組みやすいと言えます。

まとめ

日本企業においては、業務のIT化を示すデジタイゼーション、業務自体を変えるデジタライゼーションはもはや当たり前になったと言える一方、その先のデジタルトランスフォーメーション(DX)はまだ道半ばであると言わざるを得ません。

2022年4月4日には東京証券取引所の市場区分が変更となり、プライム、スタンダード、グロースに再編されました。この再編は日本市場への投資を促したいとの意図でしょうが、これだけでは期待する効果が出るかはわかりません。日本に投資を呼び込むには各上場企業がより強い魅力を発信する必要があり、それには「DX対応」がキーワードとなってきます。

企業のDX対応を促進するために誕生したのがDX認定制度です。企業の存続および発展のためにDXに取り組む、その一環としてDX認定を目指し、デジタルガバナンス・コードに対応する――この流れがさらに普及することにより、日本企業のみならず、日本の国としての発展や国際競争力の回復につながるでしょう。

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