EUデータ法(EU Data Act)が9月12日、予定通り適用開始となりました。これに伴い、欧州委員会は自動車産業に特化して同法の第2章を解説したガイダンス「Guidance on vehicle data, accompanying Regulation 2023/2854 (Data Act)」(以下、車両データガイダンス)を公表しました。
EUデータ法は、インターネットに接続された製品(IoT機器やコネクテッドプロダクト)が取得するデータの共有を、メーカーだけでなく製品の保有者・利用者および彼らが指定した第三者にも一定の条件下で義務づけています。コネクテッドプロダクトには自動車も含まれ、今般公開された車両データガイダンスでは、車両が生成・取得するデジタルデータについて同法の対象となる範囲や、どのような形式でデータを整備・提供すべきかについて指針を示しています。適用対象となる当事者には完成車メーカー(OEM)、部品サプライヤー、アフターマーケットサービス提供者、保険プロバイダーなどが含まれます。
EUデータ法の第2章では「データアクセス権」を規定しています。車両データガイダンスでは、車両データを以下の3つに分類しています。
(1)Raw data(生データ)
(2)Pre-processed data(前処理済みデータ)
(3)Inferred or derived data(推論・派生データ)
このうち、同法の対象となるのは(1)生データと(2)前処理済みデータのみだと示し、それぞれ具体例を挙げました。
例えば(1)生データはセンサーが取得する信号そのものであり、(2)前処理済みデータには、車両速度、エンジン温度、走行距離、バッテリー残量などが該当します。
一方、(3)推論・派生データとは、運転スコアや高度な先進運転支援システム(ADAS)などが該当します。これらは自動車メーカーが(1)や(2)のデータを活用して生成した、新たな価値のあるデータであり、EUデータ法のアクセス権の対象外とされています。
製品の保有者や第三者に共有するデータは、完成車メーカーやその関連事業者(子会社や正規ディーラーなど)が利用するデータと「同等の品質」で提供しなければならない義務があると示しました。特に、「FRAND原則(fair, reasonable and non-discriminatory)」に従うことが明記されており、公正かつ合理的で非差別的な条件を満たすことが求められます。ただ、EUデータ法は企業間取引(B2B)のデータ共有において、データ保持者が「合理的な報酬」を請求可能であるとも定めています。
また、データアクセスについて「容易であること」も義務づけられており、サーバー経由や車載ポート経由といった手段を問わず、手続きの面で障壁がないように設計される必要があります。これにより、従来メーカーが独占的に管理していたデータを、独立系の修理業者や保険会社などの第三者に提供し、公正な競争環境の促進を目指しています。
さらに、EUデータ法第2章では「関連サービス」も対象としており、自動車産業においてはリモート車両制御サービス(遠隔でのドア施錠やエンジン始動、電気自動車の充電管理)などがこれに該当すると明記されています。