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経営品質を向上させるISO9001:2015移行プロジェクト ~ 大成ファインケミカル株式会社様

掲載:2017年02月06日

執筆者:エグゼクティブコンサルタント 英 嘉明

コラム

大成ファインケミカル株式会社様は、電子材料やコーティング材料等に使用するアクリル、ウレタン樹脂等の開発・製造・販売事業を行っており、2001年にISO9001品質マネジメントシステム(QMS)の認証を取得されて以来、ISO9001規格を製品品質のみならず、経営の品質向上の手段として活用されています。

2016年2月よりISO9001:2015移行の取り組みを開始し、2016年10月に予定通り2015年版対応の新QMSに移行されました。そこで今回、ISO9001:2015移行の取り組みを振り返りつつ、どのような点を重視し、どのように行ってきたのか等につきまして、稲生豊人社長、久米英二取締役樹脂事業部長、福本照義CSR推進室長、横山正臣製造グループ品質管理担当係長にお話を伺いしました。

         

まず、今までの品質向上への取り組みについてお聞かせください。

当初から、経営そのものの品質を上げないと、製品の品質も上がらないと考えており、ISO9001をその為のツールとして利用し、経営と品質の要素およびプロセスを改善してきました。一時、TPM(Total Productive Maintenance、全員参加の生産保全)やQC活動を行ったこともありましたが、活動が形骸化してしまう傾向があり止めたこともあります。最近は、PDCAをもっとしっかり回すことが課題と考えて、チェックとレビューを深く実施するために、なぜなぜ分析手法を勉強しているところでした。

最近は、ISO9001QMSによる経営全体のシステム構築・運営、BCPによるリスクマネジメントの取り組み、KAIZEN(安全・品質・生産性)活動による現場改善を三本の柱として経営を行っています。 
 

大成ファインケミカル株式会社(樹脂事業部)の事業内容

今回のISO9001:2015移行プロジェクトのきっかけを教えてください。

2001年にISO9001QMSを導入し、その後の運営を担ってきた管理責任者と事務局が近い将来に引退する時期を迎えつつあります。また、同時に、部門の次世代リーダーの育成もしなければならないと考えていました。

そのような中、ISO9001:2015が発表され、QMSの見直しをはかることになったことは、人材育成の為にグッドタイミングでした。今回、2015年版への移行プロジェクトを立ち上げることで、各部門の主たるメンバーにISO9001QMSの意義やノウハウを継承し、2015年版の新しい考え方を学ぶ機会を与え、今後の発展への新たな基礎づくりを行うことにしました。
 

取り組みにあたって、コンサルティング会社を利用した理由はどのようなものでしたか

2015年版への移行だけなら自社で対応できると思いましたが、人材育成や2015年版要求事項の深い理解及び現行システムの改善のためには外部の力を活用するのが良いと考えました。また、2016年10月の新QMSへの移行を円滑に進める上でも外部からの推進支援が役立つと思いました。
 

弊社をご採用いただいた理由は何でしょうか

左から横山係長、稲生社長、久米事業部長、福本室長

ニュートンさんには、BCP策定でお世話になりましたが、そのBCP策定支援方法がシンプル、短期間で、ストレスがなく、当社のニーズに合致していました。また、ISO規格を深く理解し、支援フレームをきっちり作り上げ、プロとして課題解決を支援する会社と見ています。“プロジェクトメンバーが自分たちで考える”という手法も効果的で、後々、メンバーが自ら振り返り、自分たちで考えることが出来るようになることも重要と考えました。ISO移行支援だけに留まらず、業務そのものの改善も指導頂けるという期待もありました。

今回のお取り組み内容は、どのようなものでしょうか

ISO9001:2015移行プロジェクトメンバーの皆様

まず、2月~3月に予備作業としてQMS事務局の2名が現QMSとISO9001:2015要求事項とのギャップ分析(試行)を行い、併せて現QMS文書の使用状況調査を部門長の協力を得て行いました。新年度に入った4月にプロジェクトメンバーを含む内部監査員を対象にISO9001:2015年版の勉強会(半日)を開催し、ISO9001:2015の変更点と共にISO9001の意義や基本的な考え方の教育を行いました。
 
5月に入って社長(プロジェクト・オーナー)、樹脂事業部長(プロジェクト・リーダー)、各部門長、事務局を含む24名のメンバーでISO9001:2015移行プロジェクト・キックオフを実施し、まず当プロジェクトの目的・目標を全員が合意した後、下記スケジュールにてプロジェクトを推進しました。

・5月~6月にISO9001:2015ギャップ分析を実施
  - 8章(運用)以外の要求事項についてはメンバー全員が参加
    - 8章(運用)については要求事項毎に関係メンバーが参加
・7月のQMS改善方針決定セッションにて改善課題を最終合意
・7月~8月にメンバー全員が担当する課題解決策を策定し文書化
・9月に新QMSの文書化及び社内教育を完了
・10月より計画通り2015年版対応の新QMS運用を開始

 

成果と感じられていることには、どのようなことがありますか

まず、ISO9001:2015の主旨を活かし、経営・業務課題を解決する新QMSを10月に予定通りスタートできたことが大きな成果です。同時に、はっきり見えていなかった部分が見えるようになったことも大きな成果と言えます。具体的には、各部門の長とメンバーの積極的な参画により、ISO9001:2015は、製品品質の向上だけではなく、経営の目的と目標を達成するための活動を一元的に進める仕組みであるということを再認識しました。また、方針・目標・計画・実行・点検・改善というPDCAの一連の流れの全体が見えるようになり、各自が各々の役割をしっかり認識することができました。その結果、今では、メンバーはISOに振り回され、やらされるのではなく、ISOを自分たちのやり方を見直す材料にする、目標達成の仕組み改善の参考にする、と考えるようになっています。
 
不具合発生に対しては、従来からも原因を明らかにして対策を考えてきましたが、今では「原因の出し方が甘い」として、業務のプロセスをクールに見るようになってきています。達成できた理由、できなかった理由、を皆で深く議論し、部門間の連携がより強くなり、製技販一体となって業務や課題解決を進めています。
 
リスク、目標管理、人事制度等の諸々の経営要素の統合が重要で、整合性をとろうとしてきましたが、ISO9001:2015への対応策を考えることで、統合がやり易くなりましたし、部門長の役割分担の見える化ができたことも成果です。
 

苦労されたポイントや新たな気づきなどがございますか

「ISO9001に『リスクと機会』が新たに追加されましたが、リスクはともかく、機会についての理解が弱いことに気が付きました。機会は、世の中の流れを踏まえて新しい事業を立ち上げる為に必要なことで、経営会議、取締役会に『リスクと機会』をテーマとして入れ、必ず討議することにしました。」(稲生社長)
 
 「ISO9001:2015要求事項の理解には苦労しました。4月に事業部長に就任するまでは営業の立場で理解してきましたが、今回は事業部長として、また将来の管理責任者の目で全体を理解しなくてはならないからです。しかしながら、ISO要求事項の理解という壁を乗り越えてからは、新たに自分が気づけること、そしてそれらを皆と共有できることが楽しくなりました。理念から目標展開まで、こんなに考えたことはなかったので、本当によい機会になりました。」(久米事業部長)
 
 「品質マニュアルの再編成には少々苦労しましたが、プロジェクト全体としては大体想定通りでした。営業メンバーが販売管理規則の取りまとめに苦労しながらも今回整備できたことで営業グループの業務の見える化・共有化ができて、よかったと思います。また、メンバーに何となくあったISOのやらされ感もだいぶ払拭され、移行プロジェクトが次世代リーダーへのISOの意義やノウハウの継承の増幅器になった、と感じています。」(福本室長)
 
 「最近、内部監査の全社計画を立てましたが、内部監査リーダーを務める各部門長が内部監査の重要性を深く理解されている為、計画の策定がスムーズにできた、ということがありました。また、新たに気づいた点としては事務局の重要性があります。事務局は、経営とマネジメントシステムの両方を理解していないと務まらないと痛感しました。」(横山係長)
 

当社のコンサルティングサービスへのご感想は如何でしょうか

支援フレームをきっちり作り、コンパクトだけどきちんとした進め方で、移行計画通りにプロジェクトを支援して頂き、その結果多くの成果を上げることができ、感謝しております。また、メンバーが疑問や自分の考えを発言し易いような環境づくりに配慮していただいたので、メンバーが積極的に自分たちで考え、議論することが出来ました。その結果、業務の見直しや人材育成を含めたプロジェクトの目的を達成できたと思います。
 

今後の計画をお聞かせください。

2017年1月に内部監査、3月にマネジメントレビュー、5月に審査会社によるISO9001:2015移行審査)を予定しており、また目標管理制度や能力要件、教育等の人事制度の連携や統合を計画しています。当プロジェクトの経験を当社他事業部のQMS導入とグループ会社QMSの2015年版移行に横展開していくつもりです。
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