金融庁はこのほど、「金融機関の内部監査高度化に関する懇談会報告書(2025)」を公表しました。
金融庁は金融機関の内部監査の高度化を促すため、2019年以降、内部監査に関するレポートを3回にわたって公表してきました。こうした中、2025年1月にはグローバル内部監査基準が適用開始となり、金融機関の内部監査のあり方について世界基準との整合性も念頭に置きつつ再整理する必要性が高まってきました。そこで、金融庁は2025年1月から有識者から成る「金融機関の内部監査高度化に関する懇談会」を5回にわたって開催しました。
今回公表された報告書は、この懇談会での議論結果をまとめ、金融機関における今後の取り組み指針となるよう整理したものです。
まず議題となったのは、内部監査段階別評価の水準感です。金融庁が示している内部監査の成熟度水準感は、四段階に分かれています(第一段階:事務不備、規程違反などの発見を通じた各部門への牽制機能の発揮/第二段階:リスクアセスメントに基づき、高リスク領域の業務プロセスに対する問題を提起/第三段階:内外の環境変化等に対応した経営に資する補償を提供/第四段階:保障やそれに伴う課題解決にとどまらず、経営陣をはじめとする組織内の役職員に対し、経営戦略に資する助言を提供)。
この四段階の区分について、懇談会は「変更する必要はない」としました。ただし、第一段階~第三段階は2019年に金融庁が公表した「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」で提示されている一方、第四段階については内部監査にどのような機能の発揮が期待されるか明確でないことなどを指摘。そこで本報告書では、第三段階までの内部監査の機能や、組織全体における内部監査の位置づけなどとも関連させて追記情報を加え、再整理しています。また、第一段階~第四段階へは「卒業方式」ではなく、「加算方式」で発展していくものと理解して、明示すべきだという方向性などを示しました。
また、懇談会ではこれらの段階別評価と、「3つの論点」との関係についても議論されました。「3つの論点」とは、金融機関の「内部監査の高度化に向けた取組状況等のモニタリング」で重視される3点のことです(①経営陣や監査委員、監査役による内部監査部門への支援②内部監査部門の高度化に向けた取組③被監査部門に対する内部監査への理解・浸透やリスクオーナーシップ醸成)。
懇談会の議論では、「3つの論点」は経営陣をはじめとして、組織の各部門に求められるべき具体的な内部監査高度化の取り組みであり、「段階別評価」は内部監査の目的の実現や機能の発揮の成熟度を概念的に示すものであると整理しました。つまり、「3つの論点」に取り組み、監査指摘や提言が改善され、企業価値向上につながってこそ、はじめて段階別評価も向上するということになります。
金融機関の内部監査の高度化を目指すにあたっては、内部監査部門への負託事項や目指すべき段階の明確化、経営陣などによる支援などが必要だと示しています。なお、小規模金融機関については内部監査部門に十分な人材を配置できていないという課題があるものの、内部統制が脆弱であると経営に大きな影響を与える可能性もあるという点が指摘されています。そこで、考えられる方向性として、大手金融グループに所属しているような場合には中核企業のリソースや知見を活用する、業態が近しい金融機関同士での情報交換などの横断的な連携で対応するといった対応を示しています。