
罹災証明書は、災害対策基本法によって定められたものであり、災害による被害の程度を証明することを目的に、市区町村長が被災者に発行する証明書を言います。震災などによって家屋・建屋が被害を受けた場合、罹災証明書を取得することによって、公的機関あるいは民間の支援を受けられる可能性があります。
災害対策基本法での規定
災害対策基本法では、罹災証明書に関して第90条の2にて、次のように規定しています。
市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、罹災証明書(災害による被害の程度を証明する書面)を交付しなければならない。
(災害対策基本法第90条の2)
罹災証明書については、一般生活者はもちろん、企業も知っておく必要があります。被災後の従業員の生活再建は企業の事業継続の一環と言えるからです。
罹災証明書は何に対して使うことができるのか?
罹災証明の取得によって受けられる支援は主に4つあります。
<罹災証明書取得による支援種別および事例>
支援種別 | 支援内容 | 支援事例 | |
---|---|---|---|
公的支援 | 民間支援 | ||
給付 | 被災者生活再建支援金、義援金 等 | 被災者生活再建支援金の受給 | 災害保険の保険金の受給 |
融資 | 住宅金融支援機構融資、災害援護資金 等 | 災害復興住宅融資等 | 金融機関による好条件の融資 |
減免 ・ 猶予 |
税、保険料、公共料金等 |
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私立学校などの授業料免除 |
現物 支給 |
災害救助法に基づく応急仮設住宅、住宅の応急修理 | 仮設住宅や公営住宅への入居 |
他にも自治体によって様々な支援制度がありますので、自治体のホームページや問い合わせ窓口にて調べることを推奨いたします。
被害状況の認定基準について
被害状況は認定基準に基づき、「全壊」、「大規模半壊」、「中規模半壊」、「半壊」、「 準半壊」または「準半壊に至らない(一部損壊)」の6区分となっています。住家全体に対する延床面積の損壊割合(物理的観点)と住家の主要構造部の被害(経済的観点)などにより判断されます。
<住家の被害認定基準>
被害の程度 | 認定基準 | |
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住家全壊 (全焼・全流失) |
住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの 住家全部が倒壊、流失、埋没、焼失したもの、または住家の損壊が甚だしく、補修しても済むことができない場合 例)
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住家半壊 (半焼) |
住家がその居住のための基本的機能の一部を喪失したもの 住家の損壊が甚だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもの 例)
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大規模半壊 | 居住する住宅が半壊し、構造耐力上主要な部分の補修を含む大規模な補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難なもの 例)
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中規模半壊 | 住家が半壊し、居室の壁、床又は天井のいずれかの室内に面する部分の過半の補修を含む相当規模の補修を行わなければ居住することが困難なもの 例)
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半壊 | 住家半壊(半焼)のうち、大規模半壊、中規模半壊を除くもの 例)
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準半壊 | 住家が半壊又は半焼に準ずる程度の損傷を受けたもの 例)
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【出典:内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」令和6年5月を基に当社作成
平成13年に作成された「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」は、その後の大規模地震の被災経験や増加する内水氾濫による浸水被害といった実情をふまえ、支援の迅速化や拡充のために度々、改訂されています(令和6年最終改定)。
ちなみに、災害によって住家以外のもの、すなわち、自転車や自動車、自宅の門などが壊れてしまった場合、罹災証明書に類するものがあります。「被災証明書」と呼ばれ、住家以外の建物や家財・自動車などの動産の被災状況を証明するものです。被害を受けたという事実を証明するという点では罹災証明書と同じですが、被害の規模や被害金額を証明できないという点が大きく異なります。罹災証明書は住家、それ以外は被災証明書と覚えましょう。
罹災証明書取得までの流れ
罹災証明書を発行する場合、以下の手続きが必要となります。
(1)自治体などへ証明書の発行を申請する
当該住家の所有者または居住者となる方が、被害要因に応じて消防署や自治体窓口にて申請を行います。
<被害要因と届出先>
被害要因 | 届出先 |
---|---|
火災 | 消防署 |
地震・台風・津波・水害 | 自治体窓口(各市区町村) |
必要なものは下記書類3点となります。
- 申請用紙
自治体窓口にて申請用紙が入手できます。また、市区町村によって異なりますが、ホームページからダウンロードができる場合もあります。 - 本人確認書類
運転免許証、パスポート、健康保険証など本人確認のできるもの。 - 現状写真
被害状況が確認できる写真が必要となる場合があります。
(2)自治体などの調査員による被害状況の調査
各自治体から委託を受けた調査員または、研修を受けた調査員(市区町村の職員等)が、被災した住家に訪問し、住家の傾斜、屋根、壁等の損傷状況を調査します。火災被害の場合、調査は自治体の職員ではなく、消防署員によって行われます。
(3)自治体による罹災証明書の交付
自治体により罹災証明書様式は異なりますが、概ね以下の内容が記載事項となります。
- 世帯主住所
- 世帯主氏名
- 罹災原因
- 被災住家の所在地
- 被害の程度
また、交付方法に関しては被災地の状況や各自治体の方針により異なりますが、大きく分けて、会場における交付・郵送による交付・避難所の巡回による交付の3つの交付方法があります。2011年3月11日発生の東日本大震災において、岩手県陸前高田市では、多くの被災者が避難所で生活していたこと、また公共交通機関が被災し移動が困難であることから、自治体職員が市内7箇所の避難所を巡回し、パソコンやプリンタを持込み、即席交付会場を設営して罹災証明書を交付しました。
罹災証明書取得時のポイント
罹災証明書取得時のポイントは前準備です。なぜなら、罹災証明書交付までには最短で1週間、長い場合は1か月以上の期間を要するからです。
<過去の災害と罹災証明書交付までに要した期間>
最も早い | 最も遅い | |
---|---|---|
東日本大震災 | 7日 | 48日 |
熊本地震 | 1日 | 76日 |
【出典:総務省「申請手続に係る国民負担の軽減等に関する 実態調査結果に基づく勧告 (東日本大震災関連)」(平成25 年3月)、総務省九州管区行政評価局「大規模災害時における罹災証明書の交付等に関する実態調査―平成28年熊本地震を中心として―結果報告書」(平成30年1月)を基に当社作成】
罹災証明の交付が遅れると、その分被災者支援にも遅れが出ます。申請から交付までの期間が長引いてしまう要因が下記3点になります。
- (1)本人確認書類がない
- 災害が起きた際、紛失してしまう場合もあるかもしれませんので、運転免許証・パスポート・健康保険証など本人確認のできるものについて、スマートフォンなどで写真を撮って画像を保存しておくのも一つの手です。
- (2)損壊した住家を片付けてしまった
- 被害規模が過小判定される可能性があります。できるだけそのままにしておくのが最良ですが、片づけることのできる軽微な損傷であれば、片づけ前に状況を確認できる写真を撮ることをお忘れなく。
- (3)自治体職員による救援活動の繁忙
- 大規模災害の場合、被害認定の調査・判定方法等について研修を受けた市町村職員が救援活動のため繁忙になったり、庁舎に被害が生じ業務ができない等、交付業務の遅延が起こります。
以上から、罹災証明書の交付による支援を速やかに受けるためにも、平時から罹災証明書の交付申請に係る各自治体への申請様式等の確認や、災害時における罹災証明書交付体制の事前確認等、備えを進めておくことが肝要です。