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リスクマップ

掲載:2015年08月13日

用語集

リスクマップとは、リスクの大小を俯瞰的な視点で閲覧・比較・理解できるようにするために描かれる図表類のことです。洗い出されたリスクの特徴や大きさを理解するために行うデータ収集や分析活動のことを特に“リスク分析”と呼びますが、その分析結果として、作成されることの多いアウトプットの1つです。

         

リスクマップの例

リスクマップに画一的なフォーマットは存在しません。“マップ”という言葉どおり、地図上にリスクの大小およびその所在が一目で分かるよう描画するケースもあります(図.1-1参照)。最も典型的なリスクマップは、リスクの影響度を縦軸に、その発生可能性を横軸にとって、リスクの大小を描いたものです。たとえば、毎年発表されているグローバルリスク報告書※の中でも影響度と発生可能性を縦軸・横軸にとったリスクマップが掲載されています(図.1-2参照)。ちなみにこのリスクマップをご覧いただくと、世界では、水不足(Water Crisis)や国家間紛争(Interstate Conflict)が、リスクの上位を占めていることが一目で分かります。

※1,000人以上の専門家を対象とした調査で上位となった世界にとっての脅威を挙げるレポートです。

【図.1-1: リスクマップ(例①)- 中東地域における渡航リスク】

出典:外務省 海外安全ホームページ「中東地域渡航情報」より

【図.1-2: リスクマップ(例②)- 世界のリスクマップ】

出典:グローバルリスクレポート報告書2015「The Global Risks Landscape 2015」より

リスクマップのメリット・デメリット

【図.2:「スプレッドシートとリスクマップの比較」】

リスクマップのメリットは、リスクに関する膨大な情報の瞬時の理解を手助けしてくれることです。想像してみてください。10個のリスクがあったとして、それがエクセルのようなスプレッドシート上で縦に10行書き並べられたリストと、リスクマップのようにリスクが俯瞰的に描画されている図と・・・どちらが、より瞬間的にリスクの大小を把握しやすいでしょうか?(図.2参照)

わかりやすくなるのはリスクの大小だけではありません。リスクマップは、それぞれのリスクが持つ特徴についての瞬間的な把握をも可能にします。たとえば、リスクの大きさを影響度と発生可能性のかけ算で算出する場合を考えてみてください。影響度と発生可能性の大きさが(1,4)の場合も、(4,1)や(2,2)の場合もやはり大きさとしては同じ4点になります。これをエクセルのようなスプレッドシート上で表現したとすると、瞬間的には同じ大きさの点数(4点)同士がただ並んでいるような印象にしか見えません。これがリスクマップですと、同じ4点でも、図表上は明確に描かれる場所が異なります。右下の象限と左上の象限に分かれて描写されることになり、より瞬間的にそれらリスクの特徴を把握することが可能になるわけです。そして、特徴を把握しやすければしやすいほど、リスクに対する対策の選択肢も検討しやすくなります。どのように検討しやすくなるかについては、後述します。

リスクマップは万能かと言えば、そうではありません。デメリットもあります。比較するリスクの数が多すぎると、かえってわかりにくくなることです。10個、20個のリスクを比較するならまだしも、50個、100個のリスクを視覚的に並べようとすると、重なった描写が増えたり、シート全体が大きくなり過ぎたりして、リスクマップのメリットが必ずしも活きてこないことが容易に想像できると思います。

リスクマップに見る対策の違い

【図.3:リスクマップに見る傾向と対策】

リスクマップは、各リスクへの対応手段を検討する際の有益な判断材料をも提供してくれます。

発生可能性が低く影響度が高い左上の象限(図.3①のエリア)に位置するリスクに対しては、BCP(事業継続計画)や危機管理的な発想が有効な対策手段になりやすいエリアです。プロットされやすいリスクとしてはたとえば、自然災害などが挙げられます。こうしたリスクはその可能性の低減を考えることは困難です。また、そもそも発生頻度が少ないため、学習機会にも恵まれず、なかなか有効な予防策を検討することも困難であるからです。

右上の象限(図.3②のエリア)は、発生可能性・影響度ともに大きいエリアであり、組織として最も抱えたくないリスクエリアであるとも言えます。大きさを小さくするために様々な手当を考えたくなるエリアではありますが、それ以上にリスクが大き過ぎるので、むしろ、リスク回避を検討することが望ましいエリアであるとも言えます。リスク回避とは、文字通りリスクを抱えた状況を避ける(例えば、大口取引企業の債務不履行リスクが高まったため、同企業とのビジネスを解消するなど)、ということです。

発生可能性が高く影響度が低い右下の象限(図.3③のエリア)では、予防策の検討が有効な対策手段になりやすいエリアです。影響が軽微とは言え、いつリスクが顕在化してもおかしくはない状況と言えますから、発生可能性を減らす対策を打つ予防策を検討する方が、事後策を検討するよりも、より大きな効果を期待できます。また、発生頻度が多いということは学習機会も多いという意味にもなるため、より有効な予防策を思いつきやすいという理由もあります。

最後に、発生可能性も影響度も小さい左下の象限(図.3④のエリア)では、そもそも発生可能性も、影響の大きさも小さいことがわかるため、多少のリスクであれば受容するエリアになります。

リスクマップの利用上の留意点

以上述べてきましたようにリスクマップは、リスク分析のアウトプットを関係者にわかりやすく伝えるためのコミュニケーション手段の1つです。便利ではありますが、その使用にはやや注意が必要です。“わかりやすい”がキーワードですが、その便利さに甘えてしまい、「とりあえず、作りさえすればリスクマネジメント活動が一段落する」といった錯覚に陥る組織が少なくないからです。良く言われますように、リスクマネジメント活動において、リスクマップは手段であって、目的ではありません。リスクマップは、リスクの大きさを俯瞰的に分かるようにしたものであり、組織が次にどう対応するか(例:リスク対応計画など)までを示したものではないのです。つまり、リスクマップが完成したからと言って、継続的改善の代名詞とも言えるPDCAサイクルのP(lan)(計画段階)が完了した・・・という意味ですらないのです。先述したリスクマップのメリット・デメリットを勘案した上で、組織は今一度、その利用目的をはっきりさせ、活用していくことが求められます。
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