手軽に実施できる訓練
掲載:2010年11月15日
改訂:2023年09月21日
コラム

事業継続計画(BCP)の導入において最も残念なことは、策定したBCPが作りっぱなしとなり、棚の隅でホコリをかぶってしまうことです。
有事に動けるためには、BCPを文書策定で終わらせず、継続的な活動である事業継続マネジメント(BCM)に落とし込むことが重要です。そのBCMの中で、最も大事なことは、定期的に訓練や演習など(エクササイズ)を実施し、策定したルールや手順の検証と有事に動けるように、組織の対応力を高めることです。
大事なのは分かったけれど、訓練をどうやってやるのか、どんな準備をすればよいのか、訓練を行うには特別な知識やノウハウが必要で、外部の専門家に頼るしかない、でもそのための予算がないため、BCP推進事務局は悩んでいるのではないでしょうか。
本稿では企業が外部の専門家を頼らず、自力でできる訓練とその実施方法を考えてみたいと思います
簡単な訓練の条件と種類
まず、BCP導入初期の段階でも簡単にできる 訓練の条件を、次のように定義します。
- 高度な専門知識や経験がなくても企画できること。
- 段取りや実施手順が容易で、特別な予算を必要としないこと。
- 実施結果を客観的に評価でき、改善につなげられること。
上に述べたような条件を満たすためにはどのような訓練が望ましいでしょうか。訓練には様々なタイプがありますが、個々の名称や定義・目的についてはBCM Naviの用語集に譲るとして、ここでは一例として次のような4種類を提案します。
- 安否確認テスト
- 緊急点検テスト
- 防災訓練(初期消火・避難誘導)
- ディスカッションによる机上訓練
1.「安否確認テスト」は、発災直後の報告や連絡事項の受け渡しを行うものです。例えば安否確認テストでは、外出中のスタッフから決められた時間に携帯電話やメール、アプリで安否情報を伝達してもらいます。「伝達できて当たり前」と思っていると思わぬ落とし穴が見つかることがあります。
2.「緊急点検テスト」は、工場設備等の重点個所について被災の有無を目視ですばやく点検し、被災していれば応急処置を施したり関係者に報告したりして、被災の影響を最小化するものです。事前に重要点検項目をリスト化しておく必要があります。
3.「防災訓練」は参加者の防災意識の向上やスキルアップを目的としたもので、初期消火訓練などは消防署が立ち合い、指導のもとで行います。避難誘導訓練は総務部などが段取りを組むケースが多いようです。これらはすでに多くの企業で恒例行事化していますが、それだけに形骸化している可能性もあるためBCP導入を機に、実効性ある訓練になっているかどうか見直してみることをお勧めします。
事業継続対応手順の検証にふさわしい机上訓練
上の3つは主に初動対応段階での実地テストまたは実地訓練ですが、BCPのように事後的に代替手段を実行に移すプランを実地で行うには限界があります。そこで、「事業継続対応手順の検証」については、ディスカッション形式(机上訓練)が最も簡便で効果的と考えられます。
ディスカッションの場合、まずBCPの方針や手順についての疑問点を文書ベースまたはアンケートを通じて洗い出し、その疑問点をつくようなシナリオと質問を用意します。例えば東京本社のある業務機能を大阪に移すことだけが決まっていて、だれがその業務を行うのか決まっていない場合、その不備をどう解決するのかを災害対策本部チームのメンバーを中心に議論してもらいます。
机上訓練は一種のブレーンストーミングのようなものなので、日常の会議における討論の延長として行えるというメリットもあります。ただし、まったく白紙の状態で机上訓練を自己流で組み立てることは現実的ではないため、机上訓練を担当する方は、まず外部の研修機関が行っている机上訓練に何回か参加してイメージを固めるとよいでしょう。
最後に、上記で述べたことをタイプ、種類、必要な準備、評価のポイントに分けて一覧にまとめました。
タイプ | 種類(用途) | 必要な準備・ツール | 評価のポイント |
---|---|---|---|
テスト | 安否確認・緊急連絡テスト | BCP、連絡リスト、携帯電話、携帯メール | 報告の速さ、メッセージの完全性(安否、場所、行き先等) |
テスト | 緊急点検テスト | BCP、緊急点検リスト(または被害状況チェックシート) | 報告の速さ、メッセージの完全性(被災の有無、個所、緊急対応実施の有無等) |
訓練 | 防災訓練(初期消火・避難誘導) | 被災想定(被災個所と避難ルートなど) | 行動手順の正しさ、行動の速さ(何分以内にどこに集合するかなど) |
机上訓練 (ディスカッション) |
事業継続対応手順の検証 | BCP、その他必要なリソースリストなど | 対策本部チームが現状考えられる最適な結論として合意した方針・手順を持って評価(良好、まあまあ、不十分など) |