2025年10月7日に開催された「Newton Risk Management and Cyber Security Forum2025」での対談の概要をご紹介します。本対談では、カルビー株式会社様にBCP再構築の取り組みを詳しく伺いました。経営トップの強いコミットメントと現場の巻き込みで「全員活躍」の企業文化を反映し、自分事化を実現。さらにDX活用で効率的な定着・浸透に取り組むプロセスを解説します。
BCP再構築:トップコミットメントが推進を加速
副島:本セッションでは、カルビー株式会社の髙橋さんにお話を伺います。本日はどうぞよろしくお願いします。
髙橋:よろしくお願いします。
副島:早速ですが、髙橋さんがBCPに関わるようになった経緯からお聞きかせいただけますでしょうか。
髙橋:私がBCPに関わり始めたのは、2011年3月の東日本大震災と、その半年後に発生したタイでの大洪水という2つの大きな災害がきっかけでした。東日本大震災では、ダイヤモンド構造化により原材料の調達が難しくなり、サプライチェーンの重要性を痛感しました。タイの洪水では自社の工場が浸水してしまい、生産が3~4か月停止してしまうことがありました。これらの経験が、私の危機意識の原点となっています。
副島:その危機意識が、BCPの強い推進力につながったのですね。御社では、以前に策定したBCPがコロナ禍において上手く機能しなかった経験から、「BCP再構築プロジェクト」を進められたと伺っています。
髙橋:はい。おっしゃる通り、東日本大震災の約1年後に策定したBCPが、コロナ禍であまり機能しないという事態がありました。当時の社長もそういった部分を深刻に捉えており、BCPの再構築が始まったのです。経営陣の強いコミットメントがあったことは、プロジェクトを推進するうえでの大きな後押しにもなりました。
また、プロジェクトの最中に社長交代があったのですが、経営トップが代わっても“会社として大切にしていることが一貫していた”ので、中断することなく進めることができました。
活動の源泉:「全員活躍」の文化と現場の「自分事化」戦略
副島:会社としての一貫した姿勢が支えになったのですね。本セッションは「全員活躍」がテーマとなっていますが、これは具体的にどのようなものなのでしょうか。
髙橋:当社には、行動規範となる「10の規則」があるのですが、そのうちの『Commitment & Accountability(仕事は全て約束。その結果に責任をとる)』と『業務の3原則(簡素化・透明化・分権化)』が深く関わっています。つまり、会社として方針を定めたらあとは現場に権限を委譲する、無駄なルールはなくして動きやすい体制を作る、そして仕事の結果に対して各現場で責任を持つということを指針としているのです。
こうした企業文化から「全員活躍」という考え方が浸透しています。
副島:「全員活躍」という考え方が普段の業務に息づいていることは、御社とのお取り組みを通してもしっかりと伝わってきました。BCPに落とし込むにあたっては、どのように展開されていきましたか?
髙橋:やはり「全員活躍」という文化を軸にしていますので、BCPも一人ひとりに自分事として捉えてもらう必要がある、そうでなければ正しく機能しないだろうと考えました。
BCP再構築の取り組みはコロナ禍という厳しい状況下でしたが、感染防止に配慮をしながら、現場の拠点に直接足を運ぶことを重ねました。そうすることで、各拠点長と対話の機会を作り、BCPの重要性を理解してもらうことを根気強く進めたのです。
副島:現場と直接コミュニケーションを取ることの重要性は、私自身がお客様に支援をする中でも感じます。
髙橋:私は前職でも製造業でBCP関連の仕事をしており、中途でカルビーに入社しました。同じ製造業といえど、文化やものづくりに対する考え方が全く違うということを改めて認識していたので、直接拠点に行く、工場に入るということは、会社や現場のことを理解するうえでも役立ちました。BCP推進担当として信頼を得ることにもつながったのではないかと思います。
副島:現場とのコミュニケーションが重要とはいえ、そう容易に実現できるものではありません。冒頭で髙橋さんが「理想のBCP推進担当者」と申し上げましたが、御社とご一緒する中で髙橋さんの行動力に驚かされることが多々ありました。
弊社の支援では「トップインタビュー」を大事にしていて経営トップの方にお話を伺う機会を必ず設けているのですが、事務局以外のところで抵抗があるなどの理由で、実施まで時間を要することも少なくありません。にもかかわらず、カルビーさんでは速やかにアレンジされたことが大変印象に残っています。
そうした髙橋さんの経営陣や現場までをも巻き込む強いリーダーシップが、BCPを組織全体の「自分事」に引き上げたのだと思います。
戦略の進化:定着と浸透を目指すBCMでのDX活用
副島:ここまで、BCPの活動を現場に根付かせ「全員活躍」という企業文化を反映させてこられたプロセスについてお話いただきました。再構築が一段落した今、次の目標はどのように考えられていますか?
髙橋:今後目指すのはBCP/BCMの「定着と浸透」です。その中で実効性を効率的に高めるために、DXやデジタルのシステム活用を進めているところです。
具体的には、Microsoft Teamsを使った災害情報支援のポータル、サプライチェーンのリスク管理プラットフォーム、そしてニュートン・コンサルティングさんが開発された訓練支援ツール「dan-lo」の3つを活用しています。
「dan-lo」はAIが訓練のシナリオを作成してくれるので各拠点に合わせたカスタマイズや課題の明確化ができますし、こうしたデジタルの活用によって、事務局の工数削減や情報・ナレッジの共有ができるようになりました。
おわりに:グループビジョンを支えるBCP
副島:ありがとうございます。ここまでのお話から、BCPの展開において企業文化、トップのコミットメント、現場との対話が重要な役割を果たしたことが改めて明確になりました。最後に、御社のBCPを一言で表すならなんと表現されるでしょうか。
髙橋:カルビーのBCPは、「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる」というグループビジョンを支える基盤だと考えています。
再構築は一旦完了しましたが、今後もお客様に良い製品を提供し、笑顔になっていただくためにBCP推進活動を続けていきたいです。
副島:御社のBCPは単なる計画書ではなく、グループビジョンを支える組織の根幹となっているのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。引き続きの活動のご発展を期待しております。