東京都は19日、政府の中央防災会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループ(WG)が公表した首都直下地震の新たな被害想定と対策の方向性をまとめた報告書に対し、「首都圏の実態を十分に反映していない」とする見解を発表しました。東京都が推進してきた防災対策によって死者数や建物被害が減少する見通しとなった点ではWGと認識が一致したものの、電力の被害想定や災害関連死の算出手法に算定根拠の不備があると指摘。過剰な不安を招きかねないとして再検証を求めました。首都直下地震の被害想定については、東京都は独自に試算したものを2022年に見直し公表しています。
建物の倒壊や火災による直接的な被害規模において、WGと東京都の試算はおおむね一致しました。都内の住宅耐震化率が92%に達するなど都市の強靭化が進んだ効果によって死者数や全壊・焼失棟数はいずれも10年前の想定と比較して3~4割減少すると評価されました。
一方、都市機能の維持については評価が異なります。特に電力では、WGは火力発電所の停止などを要因として発災直後の首都圏全体の停電率を約52%と厳しく見積もるのに対し、東京都は配電設備被害による都内の停電率を11.9%と試算しました。ただし、東京都の想定には、大規模な発電所や変電所および基幹送電網の拠点的な施設の被災は定量評価結果には含まれていません。東京都はWGの算出が約10年前の古い復旧データに基づいている点や、災害時には企業活動が停止することによって電力需要が減少する実態が計算に加味されていない点を指摘しつつ、火力発電所の被害軽減は国が事業者と連携して対策すべきと主張しています。電力供給は国のエネルギー政策の大きな要素であり、自治体の枠を超えた広域課題だからです。
避難生活などで亡くなる「災害関連死」についても、東京都はWGの算定を根拠に乏しいと批判しました。能登半島地震や東日本大震災の被害率をベースに算出されたものであり、医療機関や支援物資が豊富な東京と地方部とでは条件が異なると主張しました。都内では、重要施設(※)の非常用発電設備を100%確保した上で、重要施設に接続する水道管路の耐震化率が約91%であることや、緊急輸送ルートの確保についても準備が進んでいることを強調しました。
WGの報告書では、都市と地方の2拠点で生活する「2地域居住」が防災対策の一つとして盛り込まれました。これに対し東京都は「個人の選択であるべき居住形態を、防災を理由に国が誘導するのは不適当だ」とけん制しました。
※非常用発電設備を100%確保している重要施設は覚書によって発災時に優先的に燃料供給を受けられる施設(災害拠点病院や警察、消防、都および区市町村の庁舎など)。上下水道における重要施設は災害拠点病院、避難所、防災拠点など。