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初動対応計画/初動対応計画書

掲載:2011年12月20日

改訂:2024年03月29日

改訂者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

用語集

初動対応計画または初動対応計画書とは、BCPを利用する場面、有事に際し、組織が直後からどのように行動をとるべきかを示した行動計画書のことを指します。昨今、トレンドとなっているオールハザードBCPを構成する1要素でもあります。ちなみに英語では、Incident Response Plan(IRP)や、Incident Management Plan(IMP)のほか、Incident(インシデント) ではなくInitial(イニシャル)やEarly(アーリー)を用いた表記( Initial Response Plan 、Early Response Plan)をします。

         

初動対応計画/初動対応計画書とは

「初動」が指す期間は、災害の種類や規模、対応の緊急性や対象地域の状況によって異なりますが、災害発生後の数時間から数日間を指すことが一般的です。また、有事とは、平時の業務体制では対応することが困難な火災・爆発、地震や水害、情報漏えいや風評被害、ネット上の炎上などの非常事態を指します。

こうした有事の初動としては例えば、人命救助、安全確保、初期消火、避難誘導、緊急情報の収集・伝達など、緊急性の高い活動が多くを占めます。したがって対応の迅速さと適切さが、災害による被害の拡大を防ぎ、救命率を高める上で非常に重要となります。初動対応計画書では、災害発生直後における行動計画や役割分担、連絡体系などを明確に定めることが求められます。

基準やガイドラインにおける初動対応計画/初動対応計画書の表記や捉え方

初動対応に該当する活動を行動計画(書)に落とし込んだものを表す言葉に画一的なものはなく、BCPに関する主要な基準やガイドラインでも呼称が異なります。多くの場合、緊急時対応や初動対応と表記していますが、それらをも包含する活動としてインシデント対応という言葉を使って表記しているケースもあります。

基準・ガイドライン名 初動対応に関する表記 初動対応の捉え方
内閣府事業継続ガイドライン(第三版) 初動対応
緊急時の対応
事業継続のための緊急的な体制を定め、関係者の役割・責任、指揮命令系統を明確に定めているか(5.1.1.1 ①)
ISO22301:2019
事業継続マネジメントシステム-要求事項
緊急処置
警告及びコミュニケーション
手順書は、事業の中断・阻害の発生時にとるべき緊急処置について具体的であること(8.4.1一般)
ISO22313:2020
事業継続マネジメントシステム-使用の手引き
インシデント対応
(Incident Response)
対応体制は,簡易かつ迅速に編成できることが望ましい。対応体制は,同時に時宜を得た情報の伝達及び決定を確実にする仕組みを提供することが望ましい(8.4.2.2)
ISO22320:2018
緊急事態管理-インシデントマネジメントの指針
緊急時対応計画 組織は、緊急時対応計画策定の確立の目的として、健康、安全、財産および環境の保護を考慮することが望ましい(付属書D.1一般)
Good Practice Guideline 7.0
事業継続のグッドプラクティスのグローバルガイド
緊急事態対応
(Emergency Response)
インシデント対応
(Incident Response)
生命と安全を守り、施設を保護するために取るべき措置を説明すること(Table9, PP5: Enabling Solutions)

出典:上記基準・ガイドラインを元に、ニュートン・コンサルティングが翻訳・編集

初動対応計画/初動対応計画書の範囲

このように色々な形で表現される初動対応ですが、組織において具体的にはどのようなものとして捉えて、どのような行動計画書として整備していけばいいのでしょうか。結論から言うと、初動対応計画または初動対応計画書には、図1が示す広義のBCPの構成要素のうち、緊急時対応計画(ERP:Emergency Response Plan:)および危機管理計画(CMP:Crisis Management Plan)を盛り込み、対応組織の役割などを明確化しておくことです。

なお、図1にある「事前対応」とは、災害発生までに猶予のある事象における警戒行動を指します。具体的には、台風の直撃が予想される場合に河川氾濫を想定して資機材を高台に移設させたり、土嚢を積んだりする行動につながるものです。一方、「事後対応」とは災害が発生した直後からの対応行動を指します。

図1では、広義のBCPが4種類の行動計画から構成されることを示しています。4種類の行動計画とは①ERP(Emergency Response Plan: 緊急時対応計画)、②CMP(Crisis Management Plan: 危機管理計画)、③狭義のBCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)、④BRP(Business Recovery Plan: 事業復旧計画)です。①ERPは、主として人の命や安全・安心確保を目的としたものです。ゆえに避難や負傷者対応、二次災害防止活動などが含まれます。②CMPは主として有事下の指揮命令系統、すなわちいわゆる災害/危機対策本部に関わる活動のことを指します。③BCPは主として、経営資源の一部が失われた状況下での中核事業の再開・継続を目的としたものです。例えば基幹工場が被災した際に、どのように代替生産を行うかなどをカバーします。④BRPは主として、元の状態に戻すことを目的とした行動計画です。先の基幹工場被災を例に取りますと、被災した工場自体をいかに迅速に元の状態に戻すかなどの行動計画がこれに該当します。

すなわち、初動対応計画または初動対応計画書といった場合には、災害が発生することが事前に認識できる場合にはその発生に備えた事前行動に加え、発災直後の人命保護を目的としたERP、またはERPと災害/危機対策本部の活動を目的としたCMPの両者を合わせた計画を指すものと考えることが妥当です。

【図1. ニュートン・コンサルティングが考える広義のBCPと構成する4つの行動計画書】

初動対応計画/初動対応計画書の実際と策定時の留意点

以上を踏まえますと初動対応計画または初動対応計画書に含めるべき内容は、主として以下のようなものになることが一般的です。

初動対応計画書の目次例

ERP:緊急時対応計画の例

  1. 警戒体制と予防活動
  2. 避難/身を守る行動
  3. 点呼・安否確認
  4. 負傷者対応
  5. 二次被害防止のための応急処置
  6. 被害情報収集
  7. 帰宅困難者対応

CMP:危機管理計画の例

  1. 災害/危機対策本部体制・役割・責任
  2. 参集基準
  3. 代行順位
  4. 情報収集
  5. 協議・意思決定事項
  6. コミュニケーション方針・手段
  7. 狭義のBCPの発動要否判断と基準

初動対応に限らずBCPではその行動計画を実行することになる当事者自身が策定から運用(計画書の更新や訓練)までを一貫して従事することが理想とされています。初動対応計画書の場合は、総務部が策定すべきという考え方になりがちな組織も多いですが、実際のところ、有事に行動するのは総務部だけではないはずです。そうしたことを踏まえますと、事業所や工場など現場で実際にリーダーシップを発揮して行動する人やそれを支える関係者が自分たちの頭で考えて策定することが必要不可欠だと言えるでしょう。

【参考文献】
  • 内閣府事業継続ガイドライン(第三版)
  • ISO22301:2019 事業継続マネジメントシステム-要求事項
  • ISO22313:2020 事業継続マネジメントシステム-使用の手引き
  • ISO22320:2018 緊急事態管理-インシデントマネジメントの指針
  • Good Practice Guideline 7.0 事業継続のグッドプラクティスのグローバルガイド
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