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コラム

網羅的にリスクを洗い出すには?

2018年04月06日

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント

勝俣 良介

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

リスクマネジメントに関する組織の悩みは尽きません。リスクは無数に存在する一方で、それらをマネジメントするための時間や資源は有限だからです。こうした悩みを解決するためにこそ編み出された技法が、対応すべきリスクの絞り込みを行うリスクアセスメントですが、ここにも難題が立ちふさがります。
 

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リスクアセスメントのファーストステップであるリスク特定、すなわち、リスクの棚卸し一つとっても、「棚卸しの網羅性をどう担保したらいいのか?」といった悩みが生まれます。また、その次に続くリスク分析やリスク評価といったステップも、「人によって判断がブレないようにするためにどうしたらいいのか」といった問題が生じます。世の中の企業はどのようにこうした課題に立ち向かっているのでしょうか。

そこで、本稿ではリスクマネジメントで組織が最初にぶつかる壁とも言える「リスクを網羅的に洗い出すにはどうしたらいいのか」についてヒントを提供したいと思います。

リスクの洗い出しはなぜ難しいのか

リスクを網羅的に洗い出すことを困難にさせる要因はなんでしょうか。ひと言で言えば、それはリスクという言葉が抽象的だからです。その証拠に、みなさんは「リスク」と言われてどんなことを思い出されるでしょうか?言葉が抽象的だからこそ、みなさんの置かれた部門や業務内容、立場、経験あるいは性格によって思い浮かぶ「リスク」が異なるのではないでしょうか。

加えて、リスクの洗い出しをする際には「リスクを洗い出してください」というお願いをすることが多いかと思いますが、この問いかけ方にも原因があります。なぜなら、「リスクを洗い出してください」は、WHAT(何を)という問いかけではあっても、HOW(どのように)という問いかけではないからです。

言葉の抽象性やHOW(どのように)といった意味合いをもたない身近な言葉の代表格として、「頑張れ」があります。例えば、運動の成績が伸びなくて悩んでいる人がいたとしましょう。この際に「頑張れ!」という声がけをする人が多いと思いますが、「頑張れ!」と言われた方は嬉しいでしょうが、「いや、もう頑張ってるよ。どう頑張れって言うんだよ」と言い返したいところでしょう。「リスクを洗い出してください」という言葉同様、そこにはHOW(どのように)という意味合いが不足しています。「リスクを洗い出してください」は、「頑張れ」という声がけに応えることと同じくらい難しいことなのです。

どのように洗い出せばいいのか?

では、リスクの網羅的な洗い出しは、どうすればいいのでしょうか? 答えは「HOW(どのように)に重きをおいた問いかけ」にすればいいのです。先の例であれば「頑張れ!」ではなく、「あごを引け!」「ゴールの先にゴールがあるとイメージして最後まで気を抜くな!」といった声がけであるべきです。同じように「リスクを洗い出せ」に対して、もっとも重要かつ有効な方法の一つは、「これこれという目的達成に影響を与えかねないものを出してください」と問いかけることです。

そもそもリスクは「目的に対する不確実さの影響」と定義されます。これはすなわち「自分が達成したいと思っている目的に影響を与えかねないもの」に換言できます。だから、何の目的達成に影響を与えるものを考えればいいのか、そこを考えてもらうように工夫をすることが大事なのです。

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たとえば、今週末にあなたはディズニーランドに行くとします。その場合の目的は何でしょうか。「友達みんなと楽しむ」という目的であれば、リスクはその達成に影響を与えかねないもの、ということになります。どんなリスクが思い浮かぶでしょうか? 天気が悪くなる、人が多すぎてイライラして喧嘩する、乗りたい乗り物に乗れなくなる・・・などでしょうか。

なお、目的は具体的であればあるほど、リスクは洗い出しやすくなります。ディズニーランドの例であれば、「友達みんなと楽しむ」をもう少し分解して、「みんなと楽しむために必要な要素」まで落とし込むといいでしょう。具体的には、

  •  天気がいいこと
  •  時間がたっぷりあること
  • 行列がほどほどであること

・・・など

どうです?このように具体的に達成したいこと(目的)を考えると、リスクがイメージしやすくなりませんか。

企業で実践するためのさらなるヒント

前段では「リスクの洗い出し」の問いかけ方について身近な例を使って解説しましたが、これを企業において実践する際に、行ったたほうがいいもうひと工夫について触れておきたいと思います。

企業において「リスクの洗い出し」の問いかけをする際には、「時間軸」と「聞くべき相手」・・・この2点を考慮することが重要です。なお、時間軸とは、1年先に達成したいゴール(目的)か、5年先に達成したいゴール(目的)か、などといった目的達成の時間軸のことを指します。また、聞くべき相手とは、企業内のどういったポジションの人にリスクのことを聞くべきか、という意味です。

すなわち「目的達成に影響を与えかねないものを出してください」という問いかけを企業にて実践する際には、「時間軸」と「聞く相手」を意識することが望ましいと言えます。なぜなら、企業のどの役割を担う立場であるかによって、企業の目指す最終ゴールは同じであったとしても、その人がどれだけ先のことを考えるかは異なってくるからです。たとえば、社長は、3年先、5年先、10年先の将来を考えるのが一般的です。具体的には、経営理念をどうやって実現するのか?企業をどうやって永続させるのか?売上をどうやって伸ばすのか?戦略をどうやって成功させるのか?といったことを考えるでしょう。

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だから、社長が考えるリスクも当然、そういった観点にひもづくものになります。他方、日々、現場で業務をこなすスタッフの立場であれば、(最終的には社長と同じゴールを目指すにしても)今日・明日の業務が適切かつ正確、効率的に行われることを目的に考えるでしょう。だから、リスクの洗い出しを行う際には「目的達成に影響を与えかねないものを出してください」という正しい問いかけ方をすることに加えて、どの時間軸・どの対象者を考慮して、行うことが重要なのです。

ひと工夫がリスクマネジメントの品質を劇的に変える

「リスクの洗い出しがなぜ難しいのか」おわかりいただけたでしょうか。加えて、ここで述べたことは、決して実践が難しいことではないこともおわかりいただけたでしょうか。

問いかけ方が重要であり、WHAT(何を)ではなく、HOW(どうやって)という観点が重要であると指摘させていただきました。また、これを企業に適用する場合には、問いかける先の対象者が誰であるか、その対象者が持つ時間軸を考慮することが大事だとも説明しました。

リスクマネジメントは、こうした点を考慮して実践するだけで結果は劇的に変わります。他にもできることはたくさんあります。まずはここで理解した内容を早速取り込んでみてください。