日本貿易振興機構(JETRO)は3月17日、グローバルに展開する日本企業に向けて「ASEAN地域における2025年の地政学的展望」を公開しました。東南アジアにおける地政学リスクの影響や、それらに対する東南アジア諸国の取り組み状況、今後の見通しなどがまとまっています。
まず、国際通貨基金(IMF)による2025年の経済成長率予測のランキングで、上位10か国のうちASEAN諸国が5か国ランクインしており(フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ)、2025年も東南アジアは世界で最も経済成長の速い地域の一つであり続けることが示されています。
一方で、2期目のトランプ政権が発足したことに伴う米国の予測不能な動きや、中国の台頭に直面している現状も指摘されています。
ASEAN諸国にとって最大のリスクになると予想されているのが「トランプ関税」です。本報告書の発表時点でトランプ大統領は、2024年の対米黒字の多いベトナムに軽く圧力をかけていますが、他の東南アジア諸国は直接的な圧力を受けていません。しかし、世界的な貿易不均衡に対処する米国は、さまざまな製品に関税を発動するなどしていることから、東南アジアに影響が及ぶ可能性もあると記されています。こうした中、特にベトナムとタイは、脅威が現実になることを未然に防ぐべく対応を進めています。例えばベトナムは、米国から航空機、液化天然ガスなどをより多く購入する意向を強調。タイはエタンや大豆類などの農作物の輸入拡大を検討するなどしています。
米国・東南アジア間の懸念が高まると、中国にとっては東南アジアでの影響力を広げる機会となります。しかし、ASEAN域内にはすでに中国から過剰な量の製品が流入しており、安価な中国製品との競争に苦戦しています。ASEANはこうした課題に対処する計画を示唆しながらも、経済依存度の高い中国を苛立せる状況は避けたい立場です。
また、米中の貿易戦争などの地政学的事象により、世界のサプライチェーン再編が進む中で、東南アジア諸国は外国直接投資(FDI)を積極的に誘致しており、新たなグローバルな製造拠点となるべく競争しています(ただし、インドネシアでは保護主義的な政策が強まっています)。
さらに、ASEANは米中以外の国々との関係強化も進めています。例えば日本とは、インフラ開発やグリーンエネルギー移行、サプライチェーンの強化、AI・技術開発などの分野で協力を望んでいます。インドなどグローバルサウス諸国との関係も拡大中です。
報告書の結びでは、ASEANは米中の両方と貿易・投資のつながりが強いため、他地域よりも米中緊張などの影響を受けやすいものの、サプライチェーン再編における投資の受け入れ先としての魅力を維持・向上しつつ、地政学的リスクに対して幅広い回避策に取り組んでいる点を評価しています。今後の展望として、グローバルに事業を展開する日本企業にとって、急速に成長しているASEANには今後も魅力的な投資機会が存在し続けると締めくくられています。