【解説】早期注意情報(警報級の可能性)とは?他の防災気象情報との違い・活用方法
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
気象庁が発表する「早期注意情報(警報級の可能性)」は、防災気象情報の一つであり、災害リスクが高まる前に注意や警戒を促す重要な情報です。本記事では、早期注意情報の特性を他の防災気象情報との違いとともに解説し、自治体の取り組みを踏まえて企業が押さえるべきポイントを紹介します。
早期注意情報(警報級の可能性)とは?
早期注意情報(警報級の可能性)とは、警報級の大雨・大雪・暴風・暴風雪・波浪・高潮の気象現象が、5日先までに発生すると予想される場合に発表される防災気象情報です。「翌日まで」と「2日先から5日先まで」の2種類の情報があり、どちらも毎日定時に発表されますが、対象とする気象現象や発表時間、発表単位(区域)が異なります。
【表1】早期注意情報(警報級の可能性)の発表対象・時間・単位
| 翌日まで | 2日先から5日先まで | |
|---|---|---|
| 対象 | 小規模な現象(積乱雲・線状降水帯などによる大雨など) | 大規模な現象(台風・低気圧・前線などによる大雨など) |
| 大規模な現象(台風・低気圧・前線などによる大雨など) | ||
| 発表時間 | 毎日:5時・11時・17時 ※天気予報に合わせて発表 |
毎日:11時・17時 ※週間天気予報に合わせて発表 |
| 発表単位 | 天気予報の対象地域と同じ区分(「〇〇県南部」など) | 週間天気予報の対象地域と同じ区分(「〇〇県」など) |
気象庁「早期注意情報(警報級の可能性)」を基にニュートン・コンサルティングが作成
さらに、下の図1の通り、[高]・[中]の2段階で発表されます。図表では[高]・[中]・[―]の3つで表示され、[高]は警報級の気象現象が発生する可能性が高い場合、[中]は可能性が高くはないものの一定程度認められる場合、[―]は特に注意の必要がない場合を示します。
図1:早期注意情報(警報級の可能性)の発表例
気象庁は、2017年より「早期注意情報(警報級の可能性)」の前身である「警報級の可能性」の運用を開始し、2019年に現在の名称へと変更しました。早期注意情報(警報級の可能性)の「大雨」と「高潮」に関する、[高]または[中]の発表は、内閣府の「避難情報に関するガイドライン」における警戒レベル1相当の情報として位置づけられています。
早期注意情報と他の気象情報の違いとは
防災気象情報には、早期注意情報(警報級の可能性)のほか、注意報・警報・特別警報があります。以下の表2は、それらの違いを発表基準や防災対応の観点でまとめたものです。
【表2】早期注意情報と主な防災気象情報などの発表基準と防災対応
| 情報区分 | 情報種別 | 気象対象 | 発表基準 | 防災対応 |
|---|---|---|---|---|
| 防災気象情報 | 早期注意情報 | 大雨、大雪、暴風、暴風雪、波浪、高潮 | 1日前~5日前 ※警報級の現象が5日先までに予想されている場合 |
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| 注意報 | 大雨、洪水、大雪、強風、風雪、波浪、高潮、雷、濃霧、なだれ、乾燥、着氷、着雪、融雪、霜、低温 | 数時間前~半日前 ※災害が発生する可能性がある場合 ※警報級の現象が概ね6時間以上先に予想されている場合、警報に切り替える可能性が高い注意報を発表 |
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| 警報 | 大雨、洪水、大雪、暴風、暴風雪、波浪、高潮 | 数時間前~当日 ※概ね3~6時間先に重大災害が起きるおそれがある場合 |
【避難指示の発令を自治体が判断】
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| 特別警報 | 大雨、大雪、暴風、高潮、波浪、暴風雪、噴火、津波、地震(※) ※津波、噴火、地震(地震動)は特別警報に位置づけ |
数時間前~当日 ※数十年に一度の気象現象による大雨や大津波などが予想され、重大な災害が発生する可能性が著しく高まった場合 |
【緊急安全確保の発令を自治体が判断】
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| 気象情報 | 早期天候情報 | 気温(高温・低温)、大雪(降雪量) | 6日前~14日前 ※著しい高温や低温、大雪となる可能性が平常時と比べて高まった場合 |
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気象庁「気象警報・注意報」、気象庁「『2週間気温予報』と『早期天候情報』について」を基にニュートン・コンサルティングが作成
注意報・警報・特別警報は、早期注意情報(警報級の可能性)と異なり、災害が発生する「数時間前~当日、もしくは既に発生している」場合に発表されることが確認できます。特に、警報・特別警報においては、災害の切迫性が高く、数時間後には災害が発生、もしくは既に発生している可能性が高いことを伝える情報であるため、防災行動に充てられる時間的猶予があまりないことに注意が必要です。
そのため、早期注意情報(警報級の可能性)の発表段階で、以降に注意報・警報・特別警報が発表される可能性があることに留意します。まずは、どの気象現象(大雨・大雪・暴風・暴風雪・波浪・高潮)に対して発表されているか、その現象の対象地域に自社や各拠点、サプライヤー拠点が含まれているかを確認し、必要な場合には、社内の防災体制の再確認や取引先との連携、従業員の安全確保策を早期に検討するといった防災行動につなげることが重要です。
一方、早期天候情報は、10年に1度ほどしか発生しないような著しい高温や低温、大雪(降雪量)となる可能性が平常時より高まっている場合(※1)に、6日前までに発表される気象情報です。早期注意情報(警報級の可能性)と類似した名称のため、混同しないよう注意が必要です。
(※1)情報発表日の6日後から14日後までを対象として、5日間平均気温が「かなり高い」もしくは「かなり低い」となる確率が30%以上、または5日間降雪量が「かなり多い」となる確率が30%以上と見込まれる場合(降雪量については11月~3月のみ)
早期注意情報の活用とは
警戒レベル1相当の情報である、大雨と高潮における早期注意情報(警報級の可能性)の[高]・[中]が発表された場合は、その後、災害発生の数時間前から大雨警報や土砂災害警戒情報、大雨特別警報などが発表される可能性があります。
そのため、企業は従業員の安全確保を最優先とし、早期注意情報(警報級の可能性)が発表された段階で、今後を見据えた防災対策を講じることが重要です。
以下の図2は、大雨の早期注意情報(警報級の可能性)の発表から、災害発生までの時系列を警戒レベルと企業の防災行動ごとに整理したものです。
図2:早期注意情報を踏まえた企業の防災行動の流れ
大雨の早期注意情報(警報級の可能性)[高]・[中]の発表後、企業は従業員に対し、気象状況の確認や、出張予定の調整、リモートワークへの切り替え、フレックスタイム制の活用などを促します。ただし、BCPの実効性を高めるためには、これらを従業員が自ら判断し実行できる体制を構築することが基本となります。
警戒レベルは、一人一人が災害に関心を持ち、自主的に取るべき行動を判断し、自分の命を守ることを目的としています。そのため、企業はこれを念頭に、平時よりその体制を構築するための勉強会や訓練を行い、大雨の早期注意情報(警報級の可能性)の発表後は、どのような行動が求められるのか、その後どのような防災気象情報が発表されるのかを周知することが重要です。
たとえば、災害発生が予想される数時間前には、警戒レベル2・3相当である大雨・洪水注意報、大雨警報が発表されます。この場合、浸水害に備えるため、止水板の保管場所を確認するとともに、使用方法・設置場所を確認します。
さらに、リアルタイムで更新される浸水キキクルなどで状況を把握し、必要があれば社用車を移動させることや、今後、特別警報が発表される場合を想定し、従業員同士が声を掛け合い、出退社の調整を促すなど、安全に業務を継続できる環境を平時に整えます。
このようなリスクカルチャーの醸成や従業員による主体的な取り組みは、近年多発している線状降水帯による大雨や、集中豪雨などの対策においても有効です。この場合、短時間で浸水による被害が発生する可能性がありますが、事前の訓練により、従業員が戸惑うことなく実践することが可能となります。
早期注意情報(警報級の可能性)をきっかけに、従業員の意識向上と主体的な行動判断の定着を図る一助になれば幸いです。