リスク管理Naviリスクマネジメントの情報サイト

ローミング、事業者間ローミング、フルローミング方式

掲載:2023年02月01日

用語集

携帯電話ユーザーが臨時的に契約以外の事業者のネットワークを利用して自分の携帯電話を使えるようにする仕組みのことを「ローミング」といいます。あらかじめ携帯電話事業者(キャリア)が他社と連携しておくことで、自社のサービスエリア外でも通話やデータ通信のサービスを提供できます。

この仕組みを海外で使っているのが国際ローミングであり、国内のキャリアが海外のキャリアとローミング契約を結ぶことで、利用者は自分の端末を海外でも使用することができます。一方、臨時的に契約以外のキャリア回線に乗り入れるという仕組みは、国内では整備されていません。契約先のキャリアが通信障害を起こした場合、復旧するまでユーザーは通話やデータ通信ができません。携帯電話が社会インフラとなった現在では、119番や110番といった緊急通報につながらないという問題だけではなく、銀行ATMや物流など各方面でサービスが利用できなくなることが問題視されています。また、キャリアの通信障害はメンテナンス作業の不手際など人為的なもの以外にも設備異常や台風や地震など災害による故障もあり、非常時における通話やデータ通信の維持が重要な課題となっています。

そのため、鉄道各社に振り替え輸送の仕組みがあるように、キャリアにおいても事業者同士で回線を乗り入れる「事業者間ローミング」の整備を目指し、2022年9月に検討会が立ち上がりました。直接のきっかけとなったのは、2022年7月にKDDIが起こした大規模通信障害でした。

実はローミングを活用した通話やデータ通信の維持は、東日本大震災の直後にも検討されました。しかし当時は3G回線でキャリアごとに通信規格が異なるなどの課題が多く、実現しませんでした。現在は各キャリアとも4Gの規格は共通しているため、事業者間ローミングを阻む要因の一つは解消されました。

事業者間ローミングでは、2つのタイプが検討されています。緊急通報(呼び返し機能あり)と一般通話およびデータ通信のすべてを可能とするものと、緊急通報の発信のみを可能とするもの(通報のみ可能)です。前者を「フルローミング方式」と呼びます。また、緊急通報の法令上の要件(通報と折り返し電話の両方が揃うこと)を満たすためには一般通話も対象とするローミングでなければなりません。総務省の検討会は2022年11月に第一次報告書をまとめており、そこには「フルローミング方式」で「できる限り早期に導入する」と明記されました。

ただし、フルローミング方式の場合、障害の規模によっては機能しないことがあらかじめ分かっています。それは基幹インフラ(コアネットワーク)に障害が発生した場合で、加入者データベース(DB)周辺が故障したり、輻輳したりしている状態ではローミングの仕組みは使えません。要するにフルローミング方式で対処できるのは、携帯電話基地局の故障など局地的な通信障害の場合に限られます。もう一方の「緊急通報の発信のみを可能」とするローミング方式は、こうした大規模障害発生時の最終手段として検討されることになります。

事業者間ローミングにおいて要件を満たさない「通報のみ可能」を検討するのには、緊急通報の約6割が携帯電話から掛けられているという実態があるからです。令和3年度警察白書によれば、110番通報の7割以上は携帯電話などの移動電話からの通報であり、通報のみで折り返しはできない(要件を満たさない)としても、それを認めなければ緊急事態を切り捨てることになりかねません。2022年7月に起きたKDDIの大規模障害時には、同社グループからの110番通報の件数が平時と比べて約45%減となりました。

基幹インフラ障害時に限って「緊急通報の発信のみ」を認めるのか、引き続き検討が進められます。例えば「SIMカードなしの発信」や「SIMカードありアノニマス(匿名)発信」が議題に上がっています。アメリカなどではSIMカードなしの緊急通報が認められており、日本で流通しているスマートフォンもこれに対応しています(法令上、実際に発信はできません)。

事業者間ローミングの実現に向けては、ローミングを実施する際の適用条件や利用料金の負担、運用ツールの策定、システム開発など多くの課題があります。総務省の検討会ではそのための作業班を立ち上げ、2023年6月に第2次報告書をとりまとめるとしています。

当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる