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コラム

衛星携帯電話サービスの特徴とBCP対策活用方法

2013年11月20日

コンサルタント

小林 利彦

コンサルタント 小林 利彦

衛星携帯電話(略して衛星電話とも言う)とは、通信用人工衛星を直接経由して音声通話やデータ通信を行う携帯電話機またはその通信サービスを指します。上空からの電波を捉えられる場所であれば、通信インフラが整備されていないような砂漠や山間部、あるいは陸上の基地局からの電波が届かない遠洋海上であっても、他の携帯電話や固定電話と通話することが可能です。また、通信経路に衛星を使うことから地震や津波などによる地上の災害の影響を受けにくく、東日本大震災以降、災害時の非常用通信手段として自治体や民間企業で導入が進んでいます。このような衛星携帯電話の特徴をまとめると次のようになります。

【広域性】
軌道上の衛星からは、国や地域を超え地上の広い地域をカバーエリアとして電波を送り届けることができます。また、衛星をいくつも組み合わせれば地球全体に渡ってカバーすることも可能です。

【柔軟性】
地上に設置する可搬型地球局(持ち運びができる地球局設備)や車載型地球局(中・大型車両を改造し地球局設備を取り付けたもの)を移動することにより、通信拠点の追加・撤去・移動が容易にできます。通信が困難な場所からでも短時間に回線を設定することができます。

【国際性】
相互に接続され国際的な通信網が構築されている衛星からは、国境を越えて広範囲に情報を伝達することが可能です。特に、通信インフラの不足している国や地域では、衛星電話が世界と繋がる重要な役目を果たします。

【耐災害性】
衛星そのものが宇宙空間にあり地上の影響を受けないこと、衛星を管制する基地局は複数あり、相互にバックアップ体制にあること、などが「災害に強い」理由として挙げられます。

衛星携帯電話に関する法令と最新動向

日本国内または日本籍船が遵守すべき衛星携帯電話に関する法令と衛星携帯電話サービスの提供が可能な組織は以下の通りとなります。

・総務省の電気通信事業法にともづく電気通信事業の登録業者であり、電波法に基づく無線局の免許を受けている 
・電波法に基づく免許はないが免許を受けた事業者の無線通信インフラ等の設備を利用する仮想移動体通信事業者【MVNO(Mobile Virtual Network Operator)】

東日本大震災では、総務省等より貸与された衛星携帯電話が被災自治体や避難所等で広く活用され、緊急時の通信手段として有効に機能しました。これらを踏まえ、総務省は衛星携帯電話の普及を促すため、設置費・維持費が低価格となる新しい衛星携帯電話サービスの導入や、日本国内で使用できない一部の衛星携帯電話サービスの合法化の推進を決定しました。

まず、平成24年8月、英・インマルサット社が提供する新型衛星携帯電話「IsatPhonePRO(インマルサットGSPS※1型)」が認可されました。インマルサットGSPS型のハンディ型端末(アンテナ一体型)は最新の衛星携帯電話であり、従来利用されてきた衛星携帯電話の半額以下のコストで購入でき、衛星電話導入のハードルが下がりました。

次に、平成24年12月、(株)日本デジコムおよびソフトバンクモバイル(株)が、アラブ首長国連邦(UAE)のスラヤ・テレコミュニケーションズが提供するスラヤ型衛星電話の無線局免許を取得し、日本国内向けサービスを開始しました。震災当時、この衛星サービスは日本の電波法では技術基準などが規定されておらず、使用不可となっていましたが、総務省が特別に使用を許可したサービスです。地上の携帯電話並の小型・高性能な衛星携帯電話がメディアや支援機関などで活躍したため、認可が切望された衛星携帯電話サービスです。

現在、日本国内で利用できる衛星携帯電話サービスは下表のように、「インマルサット」「イリジウム」「ワイドスター」「スラヤ」の4種類となっています。いずれも通信衛星を利用した音声通話およびデータ通信を提供するという点では同じですが、人工衛星の特性や対応端末の違いによって、利用エリアや機能がそれぞれ異なります。

※1:Global Satellite Phone Servicesの略称

日本国内又は日本籍船で使用できる衛星携帯電話システム名と電気通信事業者名
(平成25年4月1日現在)
衛星携帯電話のシステム名(導入順) 電気通信事業者名(五十音順)
インマルサット 株式会社日本デジコム(ミニM型、BGAN型及びGSPS型)
グローブワイヤレス株式会社(BGAN型)
KDDI株式会社
Satcom Global FZE(BGAN型及びGSPS型)
Satcomms Japan株式会社(BGAN型)
JSAT MOBILE Communications株式会社(D型、BGAN型及びGSPS型)
有限会社SKY-FIX COM JAPAN(D型)

M型、BGAN型等の詳細については、こちらを参照ください。
イリジウム KDDI株式会社
ワイドスター 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
(NTTドコモ)
スラヤ 株式会社日本デジコム
ソフトバンクモバイル株式会社

注:上記は各システムの免許を取得している電気通信事業者のみを記載しています。仮想移動体通信事業者(MVNO)が同サービスを提供している場合もありますが含んでおりません。

通信用人工衛星による衛星携帯電話システムの相違

通信用人工衛星には静止衛星と非静止衛星を利用する2種類の形態システムがあります。

形態(利用衛星) 内容 サービス 衛星高度 周期
静止衛星 地上から見ると衛星がいつも同じ位置に止まって見える人工衛星を利用。衛星3機~4機でほぼ地球全体をカバー。 インマルサット
ワイドスター
スラヤ
約36,000km -
非静止衛星 大きく長楕円、中高度、低高度の3つの軌道で地球全体をカバー。実用化が進んでいる低高度軌道は衛星高度が低くより円滑に音声などの通信が可能。 イリジウム 約500~数千km 周期(低高度)
約5~6時間
 
静止衛星の原理 非静止衛星の原理
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出典:NTT DIGITAL MUSEUM, 総務省 電波利用HP

・インマルサットによる通信は、衛星携帯電話同士でも、衛星携帯電話と地上の携帯電話、固定電話、インターネットとの間の場合も必ず、一旦、地上の中継基地を経由して行われます。

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インマルサット衛星ネットワーク

・ワイドスターによる通信システムでは、衛星電話端末-衛星-地球局(衛星電話の地上設備)-衛星-衛星電話端末の経路で接続されます。 衛星電話専用の交換機を使用していること、および交換機間に迂回ルートがあることから、災害時、携帯電話などで規制がかけられても、疎通が確保されます。

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・「イリジウム」による通信システムでは、「イリジウム」同士の衛星携帯電話間通信の場合は地上の中継基地を経由することなく、衛星携帯電話と通信衛星のみで通信が成立します。但し、地上の携帯電話や固定電話と通信する場合は、静止衛星の場合と同様、地上の中継基地を経由して通信する必要があります。

主要電気通信事業者が提供するサービスの特長

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衛星携帯電話利用の留意点
衛星電話は、デジタル衛星放送などと同様、あくまでも地表の端末と軌道上の通信衛星の間の通信であるため、衛星携帯電話のアンテナは屋外で、通信衛星のある方角に向けておく必要があります。

したがって、端末の形状によらず、建物などの屋内で使用する場合には、必ず屋外に送受信用の専用アンテナを設置する必要があります。また、屋外であっても、高層ビル群に囲まれた場所など、電波障害を引き起こしやすい場所ではやはり送受信が出来ない可能性が高いようです。以下に主なサービスの使用環境を記載します。

どのサービスにも一長一短があり、導入する際には、実際の利用環境でテストを実施のうえ、購入されるとよいでしょう。

インマルサット衛星携帯電話の使用環境
・辺りに上空をさえぎるものがない屋外に立ち、アンテナを垂直に上方に向けます。衛星の場所が南から南東の方角に位置するため、空が見える場所でもその方角に電波を遮るような障害物がある場合には通信できない可能性があります。

・見上げたときに空が見える範囲が広ければ広いほど衛星から良好な信号を得られます。見上げたときの視界の約70%が空であれば、信号は良好な状態になります

スラヤ衛星携帯電話の使用環境
・南西方向の空が見渡せる、障害物がない場所で使用して下さい。 
〇 建物がなく、開けている
△ 高い建物がある
△ 建物と建物の隙間
× 建物などの障害物がある
*市街地や山間部などの空が広く見えない場所で衛星電話を利用すると、通話ができるようになるまで時間がかかったり、通話中に切れたりすることがあります。
・アンテナが伸びている状態で、アンテナの角度を南西の方角の25°~60°に傾けて使用して下さい。
・移動しながらの使用はなるべく控えて下さい。

イリジウム衛星携帯電話の使用環境
・理想的な使用環境は下図のように、イリジウム衛星携帯電話のアンテナを地平線として、仰角8.2度より上に空が広く360度見渡せるような場所です。屋内での利用、山間部、高層建築・建造物や葉が生い茂る樹木などの障害物により、衛星からの電波を受信できない場合があります。

・イリジウムは1.6GHz帯域を使用しており、天候 (雲、霧、雨、雪、風、煙など) による影響が受けにくい特徴があります。

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[KDDIのHPより引用]

BCP対策としての一般的な利用方法

大規模災害発生時には、停電・断線・輻輳などで有線網や携帯電話の基地局に障害が発生し、固定電話や携帯電話が繋がりにくくなります。社員の安否確認、被害状況の把握、事業継続・復旧活動への対応には、いずれも通信手段の確保が重要なポイントとなります。地上の被害状況に左右されない衛星携帯電話は有効な通信手段の一つですが、これまで支援してきた多くの企業の衛星携帯電話を配置には大きく2つの傾向があります。

例1)経営層に衛星携帯電話を配備
災害対策本部メンバーがすぐに集まれない場合の意思決定や、社員への重要な指示命令系統の伝達をスムーズに行うことを期待しての配備と言えます。

例2)各拠点に衛星携帯電話を配備
自らの拠点が被災した直後には他の拠点の被災状況がどこまでなのかは把握できません。他の拠点の被災状況や、自拠点の被災状況や指示に加え、他拠点の被災情報の収集、救援依頼などを行える可能性が高くなります。また非被災拠点から被災拠点へ連絡を取れる可能性も高いでしょう。組織に複数拠点があり、被災地と遠隔地(非被災地)との確実・迅速な情報交換を期待する場合、このような配備になる傾向が多くあります。

これまで紹介したように衛星携帯電話は有事の際には非常に有効な通信手段です。しかしながら、場所や天候などにも左右されることを理解し整備する必要があります。使用方法は電話に添付のマニュアルに書いてありますが、自組織での通信可能な場所などは書いていません。BCP文書の補足としてこういったことをあらかじめ記載しておくこともよいかもしれません。また重要なのはあくまでひとつの手段に頼らないことです。衛星携帯電話も利用者が増加すれば輻輳が発生しますし、使いたいときに何等かの理由で使えないことも容易に想定できます。あくまで複数手段のひとつとして整備することをお勧めします。

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