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介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)策定義務化への対応を今からどう始めるか

掲載:2022年04月14日

執筆者:アソシエイトシニアコンサルタント 高橋 篤史

コラム

昨今の新型コロナウイルスの猛威は、とりわけ高齢者や介護事業に影響を及ぼしていますが、2021年4月に施行された「令和3年度介護報酬改定における改定事項について(以下「介護報酬改定」)」では、感染症や災害への対応力強化として、介護事業者は2024年3月末までに事業継続計画(BCP)を策定し、研修や訓練を実施することが義務付けられました。事業者は従業員や利用者に対する安全配慮義務を負っており、その義務を果たす上でも有事への対応計画であるBCPの策定は必要です。本稿では、厚生労働省が公表しているガイドラインとひな形(※)を活用して、効率的かつ効果的にBCPを策定していく方法について解説します。
※ガイドラインとひな形は文末「参考文献」にURLを掲載

         

介護施設・事業者に求められるBCP

今回の介護報酬改定では、災害時と感染症発生時のBCP策定や研修・訓練の実施が義務化されました。2021年4月から3年間の経過措置期間を経てBCPを策定していない場合、入居者や職員が災害や感染症で万が一、死亡したときには、安全配慮義務違反として処分される可能性が高くなります。

コロナ禍においては、ホームヘルパーから感染したとみられる新型コロナウイルスが原因で高齢者が亡くなり、ヘルパーの勤務先の訪問介護事業所が「必要な安全対策を講じていなかった」として、損害賠償を請求される訴訟も起きています。このような流れから、厚生労働省では、すでに介護施設・事業所における業務継続ガイドラインとひな型を公表しています。ガイドラインにはBCPの基本的な考え方がわかりやすく解説されており、有事における介護サービス事業者に求められる役割とBCP策定において決めるべき事項が、過不足なく網羅されています。ひな形を用いて、これらを自組織向けに整理することもできます。BCP策定に向けて第一歩を踏み出す準備は整っていると言って良いでしょう。

なぜ今から始めるのか

猶予期間が終了する2024年4月までには約2年間ありますが、コロナ禍の今こそ、検討を開始することを推奨します。それには、二つの理由があります。

①新型コロナウイルス対応の記憶が新しいうちに対応を整理することで生の体験を活かせる
災害などの記憶は年月が過ぎれば薄れていくものです。また、東日本大震災などの自然災害についても同じことが言えますが、体験者とそうでない人との意識の差は大きいものです。記憶の新しい今、ひな形の項目を見ながら、自分たちが行った具体的な対応と反省・課題を振り返り、経験を記録しておくことは、今後の貴重な指針になります。

②対策の内容によっては、今すぐできるものだけではない
BCPは「一度策定して終わり」ではなく、この先、事業を続ける限りはずっと付き合っていくものです。直ちに「ひな型を全部埋める」、「一回で完璧を目指す」必要はありません。まずは現状の対応力を把握することから始めましょう。現状を把握すると、おのずと対応できていないことが明らかになります。ガイドラインを参考に、ゴールを決めたら、2024年3月末までに実施する事項の優先度をつけて、徐々に対応していけばよいのです。ただし、実施すべき対策の中には時間を要するものもあるでしょうから、早めに動くに越したことはありません。

ガイドラインを活用してのBCP策定の進め方

ガイドラインに従って、ひな形に記入することで、一通りBCPを完成させることができます。しかしながら、ひな型を埋めただけの形式的な計画では実効性が伴わないことに注意が必要です。BCP策定の真の目的は文書作成ではなく、有事に動けるようにすることです。ひな形を埋めるだけでは作成した人しか覚えていないという場合が多く、とりわけ突発型の自然災害においては、文書を読んで考えている余裕はありません。大地震発生、台風で河川が氾濫、施設内に感染者が発生、などの折に、関係者が即時に判断して動くための瞬発力、予想外の事態にも対応できる応用力が重要です。

また、現場はコロナ対応に追われ、ただでさえ人材不足で忙しい中、BCP策定が必要以上の負担を強いる形になるのは好ましくありません。BCP策定を単なるペーパーワークで終わらせず、かつ過度の労力をかけずに実効性を持たせるために、以下のような進め方を提案します。

①ひな形をチェックリスト代わりに、現状を確認する
まず、ひな形の項目をチェックリストとして、現時点で確実にできていないこと、決まっていないことを明らかにしましょう。できていないこと、決まっていないこととはつまり、何を書けばいいのかわからない部分です。それらは、必ずしも今すぐに対策がとれるものばかりとは限りません。このステップでは対策についてはひとまず課題として切り出しておくにとどめ、どんどん現状確認を進めます。

②簡易演習を用いて、対応を確認しながら記載していく
一通り①の作業を終えたところで、簡易的な演習をしてみましょう。関係者全員(もしくは、少なくとも施設の長や各業務の長)が集まり、実際に災害が起きたと想定し、時系列に沿って、具体的にどのように行動するかを確認していきます。簡易演習は時間を区切って行うのが良いでしょう。例えば「発災直後:全員が身の安全を確保、1時間後:Aさんが入居者の安否確認、Bさんが従業員の安否確認、3時間後:Cさん、Dさんが被害状況の把握…」といった流れです。その際にガイドラインを見て、現時点で決まっていること、すでに対応できていることは、ひな形に書き込み、対応に迷うことがあれば、①同様、課題として切り出します。

簡易演習のメリットは大きく二つあります。一つ目は参加者間で同じ状況を疑似体験することで当事者意識、危機意識が高まること。もう一つは課題認識を共有できることです。これらによって、後々対策を検討する際にリアルな議論ができます。具体的なイメージがないまま検討に入ると、多くの場合、空中戦となり、ありきたりで一般的な結論に落ち着きがちですが、演習体験後の議論では、実態に即した、有効な対策に結びつく場合が多いのです。

③ガイドラインを参考に、どこまでやるかを決める
課題として切り出された事項について、2024年3月末を一時的なゴールとして、どこまで対策を導入すべきかを決めましょう。ガイドラインには具体的な実施事項が書かれているので、それを基におおよその難易度を把握し、いつまでならできそうかを判断します。新たにルールを決める必要があるならば、「誰と誰が集まって、検討にどのくらい時間をかけるか」を整理しましょう。費用がかかりそうなものは概算で見積もって、年度の予算に組み込めるようにしておきましょう。

④優先順を決め、期限と担当者を決める
②ができたら、課題を並べて2024年3月末までの予定を決めましょう。例えば「居室の棚の固定(地震による転倒防止)や従業員の緊急連絡網の更新などは、1ヶ月以内に行う。従業員の休憩室の拡充は数ヶ月、耐震補強は数年をかけて行う」といった具合に、いつまでに何を行うかといった事項を洗い出しておき、定期的に進捗を確認します。この時大事なのは「誰が責任を持ち」「いつまでに」やるのかを明確にする事です。ここを曖昧にすると、だんだんと優先順位が低くなり、担当者が変わる際に引き継がれない等の理由で、最後には活動自体が消滅してしまう恐れがあります。中には2024年3月末までに完了しない課題もあるかもしれません。あるいは別の方法で解消するものもあるかもしれません。大切なのはそれらを埋もれさせずに、しっかり管理していくことです。

あとは演習を繰り返し、色々なシチュエーションで、策定したBCPが有効かどうかを検証しましょう。その都度、新たな課題が見つかるはずですので、2024年以降も継続して改善を重ねていただければと思います。

最後に

本稿では、ガイドラインとひな形を活用して、いかにBCPを効率的、効果的に策定していくか、ということについて解説しました。「急がば回れ」の言葉どおり、ほんの少しの工夫(簡易演習)を取り入れるだけで、単なる穴埋めではない、「真に役に立つBCP」を策定することができます。また、BCPとは有事のための計画と思われがちですが、優先業務の選定や必要なライフライン・担当職員の特定といった検討を通して、不要な業務を削減したり、適切な人員配置へ体制を見直したりという業務改善的な効果も期待できます。義務化によって「やらされる」のではなく、有事にも強く、より信頼される組織にステップアップする好機と捉えて、関係者一丸となって取り組んでいただけると幸いです。

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