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民間企業の方のための気候変動適応ガイド

掲載:2023年03月28日

ガイドライン

環境省は2022年3月、民間企業が気候変動の影響を回避・軽減するための自主的な取り組みを手引きする「民間企業の方のための気候変動適応ガイド」を改訂しました。本ガイドは、2018年12月に施行された「気候変動適応法」を受けて策定されたもので、初版は2019年3月に発行されています。改訂版では、最新の気候リスク情報開示や適応に取り組むための考え方、手法等に関する記述を充実させています。

気候変動への適応とは、現在すでに起きている気候変動に伴う被害や将来予測される被害を、科学的情報をもとに、防止・軽減する取り組みのことです。カーボンニュートラルの実現、労働環境の変化に伴う対策、自然災害によるサプライチェーン分断の回避などがあります。

「気候変動適応法」では、民間企業には「自らの事業活動を円滑に実施するため、その事業活動の内容に即した気候変動適応に努める」、「国及び地方公共団体の気候変動適応に関する施策に協力するよう努める」ことが期待されています。

         

気候変動対応が強く求められている組織とガイドの主な対象者

本ガイドの主な利用対象者は、気候変動適応が必要とされる企業の実務上の担当者です。特に、積極的な気候変動リスク情報開示が求められる企業の担当者にとっては大きな助けになるでしょう。なお、積極的な気候変動リスク情報開示が求められる企業とは、具体的には上場企業を指します。

その理由としては、2021年6月に改訂されたコーポレート・ガバナンスコードが、プライム市場上場会社に対してTCFDに基づくリスク情報開示を求めているためです(図1参照)。

【図1:上場企業に求められる気候変動リスク情報開示】

上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取り組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略、経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。

特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

※出典:コーポレート・ガバナンスコード(2021年6月11日, 株式会社東京証券取引所)

さらに昨今では、企業の気候変動適応状況を可視化・評価する仕組みが増えています。例えば、CDPは、英国の非政府組織(NGO)が運営する環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムで、企業や団体は自ら登録して環境情報を開示することができます。CDPはその情報を元に企業のランク付けをおこない、公開しています。

DJSI (The Dow Jones Sustainability Indices)は、ESGの観点から世界の主要企業の持続可能性(サステナビリティ)を評価し、総合的に優れた企業をDJSI銘柄として選定しているインデックスです。気候変動リスク情報開示が積極的に求められている企業にとってはDJSI銘柄に指定されることは、投資家および外部ステークホルダーに対するアピールになると言えるでしょう。

こうした可視化・評価の仕組みにおいて、評価されるには適切な情報開示は必須となります。本ガイドの活用により、より適切な情報開示をおこなうことで、企業価値を高めることにつながります。

もちろん、上記のような情報開示義務を持たない企業であったとしても、上場企業のサプライチェーンの一旦を担う企業であれば、取引先から何かしらの情報開示を求められる可能性があります。情報開示の手法について理解しておくことは必要です。気候変動適応のポイントは組織の種類によって大きく異なるものではないため、団体やNGOの方々も参考になるでしょう。

本ガイドの主な記載内容

本ガイドは4つの章と巻末資料から構成されています。全体では129ページありますが、巻末の参考資料の割合が多く、第Ⅰ~Ⅲ章はそれぞれ5~10ページ程度、第Ⅳ章は45ページ程度となっています。

第Ⅰ章では、なぜ民間企業が経営の重要課題として気候変動対策に取り組む必要があるのか、その理由を改めて解説しています。続く第Ⅱ章では、気候変動が実際に、民間企業の事業活動にどのような影響を与え得るのかについて言及しています。第Ⅲ章では、気候変動適応への取り組みをチャンスに変えるポイントについて解説しています。最後に第Ⅳ章では、気候変動適応の進め方を、経営戦略への実装例を用いるなどをして説明をしています。なお、巻末資料には参考として、他社ではどのようなリスクや機会を認識し、適応策を講じているのかについての事例が掲載されています。

民間企業の気候変動適応ガイド改訂版の構成 (☑ あなたが知りたい情報は?)
第Ⅰ章 気候変動は経営の最重要課題 -迫り来る気候リスクに備え、勝ち残るために-
☑ なぜ、民間企業は経営の重要課題として、気候変動対策に取り組む必要があるのか?
☑ 既にカーボンニュートラルに取り組んでいるが、なぜ、「適応」にも取り組む必要があるのか?
第Ⅱ章 事業活動における気候変動影響
☑ 気候変動は事業活動に、どのような影響を与えるのか?
☑ なぜ、社内の他部署やサプライヤーまでも巻き込んだ取組が必要なのか?
第Ⅲ章 気候変動適応への取組をチャンスに変える
☑ 「適応」に取り組むことにどんなメリットがあるのか?
☑ まだ実害がないのに、なぜ「今から」取り組む必要があるのか?
第Ⅳ章 気候変動適応の進め方
4.1 気候変動影響への戦略的対応 -気候変動適応の進め方-
☑ これまで取り組んできたリスク管理や環境管理等とは全く異なる新たな取組が必要なのか?
☑ 将来のリスクや機会をどのように評価すればよいのか?
4.2 経営戦略への実装 -TCFD提言の枠組みを踏まえた取組-
☑ TCFD提言と気候変動適応は、どのような関係にあるのか?
☑ 気候変動適応によって経営戦略のレジリエンスを高めるための留意点は?
4.3 気象災害の拡がりに備える -事業継続マネジメントを活用した取組-
☑ なぜ、今までのBCPに気象災害への備えを組み込む必要があるのか?
☑ 気象災害を対象としたBCPを策定する上での留意点は?
参考資料
☑ 他社はどのような物理的リスクや機会を認識しているか?
☑ 他社はどのような適応策を講じているか?
☑ 取組を進めるうえで参考となる情報を知りたい

出典:『改訂版 民間企業の気候変動適応ガイド』環境省、2022、P6

本ガイドはTCFDガイドとセットで読む

本ガイドの利用にあたっては、『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0~』(以下「TCFDガイド」)とセットで利用することをお勧めします。TCFDガイドは、環境省より2021年3月に発行されている気候リスク対応の手順書です。気候リスクを導き出すためのシナリオ分析の事前準備から、リスク重要度の評価、シナリオ群の定義、事業インパクト評価、対応策の定義、文書化と情報開示、まで順を追って詳細に解説しています。

本ガイドは、TCFDガイドに定められた手順を実践する上で参考になる豊富な事例や関連データ、ヒントを紹介している参考書として活用できます。気候変動適応への対応の進め方、今後の経営戦略への活かし方等について、あらゆる業界の事例が豊富に掲載されているので、自社の取り組みを検討する上で非常に有用です。

本ガイド活用のポイント

本ガイドを活用する上では、特に次の4点がポイントとなります。

① TCFDに基づくリスクマネジメントを実施した際の、アウトプットイメージを持つことができる
本ガイドは、他社がどのようにリスク分析をおこなっているのか、またその結果をどのように今後の対策や戦略に結び付けているのかについて、実際の開示例とともに紹介しています。TCFDに基づいたリスクマネジメントを実施しようと思っているけれども、どこから始めたらよいか分からない、といった課題感を持っている担当者様は、まずは本ガイドに記載の他社事例からアウトプットイメージを持っていただくことをお勧めいたします。

具体的には、ガイドの第Ⅳ章の2「経営戦略への実装 -TCFD提言の枠組みを踏まえた取組-」をご覧ください。

② 気候変動リスクや機会特定のヒントを得ることができる
気候変動リスクや機会を特定するにあたっての他社事例として、巻末の参考資料の中に物理的リスクと機会、及びその要因が業種別に整理されています。加えて、企業が認識している物理的リスクの要因、及び財務に与える影響等についても紹介がされています。実際に自組織にて気候変動リスクや機会を特定する際や、一度洗い出してはみたがこれで必要な内容が十分に網羅されているかどうかが不安、といった際に、参考情報としてご活用いただくことが可能です。

具体的には、巻末の参考資料「A.1.2 日本企業の業種別の物理的リスクと機会の認識」をご覧ください。

③ 気候変動のリスク・機会の対策や経営戦略への活かし方のヒントを得ることができる
②に関連して、特定された気候変動リスクや機会への対策事例が業種ごとに一覧で紹介されています。また、分野ごとの適応ビジネスの例についても具体的な企業事例とともに掲載されています。気候変動のリスク・機会までは特定できたが、それを実際にどのように経営に活かしたらよいか分からない、といった課題感を抱えている担当者様は、自組織と似た業種の組織からヒントを得ることで、今後の戦略を考える際のインプット情報としてご活用いただけます。

具体的には、第Ⅲ章「気候変動への取組をチャンスに変える」、巻末の参考資料「A.1.3 日本企業の業種別の適応策事例」をご覧ください。

④ BCPへの取り込み方のヒントを得ることができる
気候変動対策の一つとして、気象災害を考慮した企業のBCP取り組み事例が紹介されています。また、BCPを策定することで気象災害による組織への影響を最小化するだけでなく、BCPで事前に対策を打つことが組織にとっての「機会」になり得るといった事例もあります。これから新しくBCPを策定しようとしている組織の担当者様だけでなく、既にBCPを策定している組織の担当者様にとっても参考になるでしょう。

具体的には、第Ⅳ章 4.3の「5)気象災害を考慮した事業継続戦略・対策の検討と決定」をご覧ください。

今後、気候変動による自然災害の頻度や強度はますます高まると予測されています。気候変動適応は持続可能な企業となるために欠くことのできない経営戦略といえます。本記事が、皆様の気候変動適応への取り組みを進める際の一助となれば幸いです。

ちなみに、入手方法につきましては、環境省ホームページ、もしくは国立研究開発法人 国立環境研究所にて運営・管理する「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」にてダウンロードすることができます。

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