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企業におけるESGリスク対応の現状と課題

掲載:2022年01月06日

改訂:2022年03月31日

コラム

昨今、企業のESG(環境、社会、ガバナンス)リスクへの対応が注目されています。気候変動や強制労働といったESGリスクへの対応は「利益に直接結びつかないから」と後回しにされがちでしたが、ここ数年で意識は大きく変わってきました。現在、各企業はESGリスクをどう認識し、どのような対応を進めているのでしょうか。ニュートン・コンサルティングはその実態を探るべく、2021年9~10月にかけて企業アンケートを実施しました(※)。本稿では、アンケート結果を基に企業におけるESGリスク対応の現状と課題を探ります。
※アンケート概要:実施期間:2021年9月16日~10月7日、実施方法:Web上、有効回答数:98

         

ESGリスクへの意識は高まるも対応進まず

ESGリスクに対する企業の意識が変わってきた背景には、実際にESGリスクによってビジネスが脅かされる事例が度々発生していることがあると考えられます。有名な事例では、ある世界的飲料メーカーがインドの工場で大量の水を汲み上げたことにより、干ばつなど水資源に問題をきたしているとして訴えられ、操業停止に追い込まれました。また、日本の大手衣料品メーカーが「強制労働によって生産された原料を使用している」と報道され、注目を浴びたのも記憶に新しいところです。

アンケートでも「ビジネスの特性上、抱えるESGリスクは大きい」と回答した企業は64.2%(※)で「そう思わない」の11.2%を大きく上回りました。一方で「ESGリスクに有効な対策を打てている」とした企業は22.4%となり、リスクを認識しつつも対策が追い付いていない現状が伺えます。「ESGリスクを意識したリスクアセスメントができている」は28.5%、「ESGリスクをビジネスチャンスとして活用できている」も27.5%と、いずれも低い水準にとどまりました。

※「とてもそう思う」「そう思う」を合計し小数点第2位以下切り捨て。以下同様

ESGリスク対応をビジネスチャンスとして活かすには現場の巻き込みが大事

アンケート結果を分析したところ、「ESGリスク対応において、現場の強いリーダーがESGリスクマネジメント活動に関与している組織」と「ESGリスクをビジネスチャンスとして活用することができている組織」との間に強い相関性があることを確認できました。ただし、それが実践できている会社はまだ多いとは言えず、「ESGリスクの現場の権限の強いリーダーが活動している」に「そう思う」と回答したのは31.6%にとどまります。ESGリスクに「とりあえずの対応をしておこう」といった感も否めません。当事者の関与に関してはまだ改善の余地があると言えそうです。

ESGリスクと組織風土

ESGリスク対応は全社的な取り組みが求められるため、企業風土によって大きく左右される部分があります。企業風土については「組織横断のワークショップを行おうと思えば気軽にできる」に対し「そう思う」が47.9%、「形式よりも実質を重んじる会社だ」という質問でも「そう思う」が44.9%と、リスク対応を進めやすい企業風土が一定程度あることが伺えました。一方で「何か始めても、いつも単年度や一時期の活動になりやすい」に対しても「そう思う」が54.0%と過半数を占め、活動の継続に関しては課題があると言えそうです。自由記述コメントでは「風土変革の必要がある」「改革しようとしているが組織末端に浸透しにくい」「ボトムアップで動き出すことが難しい。マインドセットを変える必要がある」といった回答がありました。

活動の継続には社長の関与と事務局の力量が不可欠

ESGリスクは中長期的な視野に立って見ていくべきリスクであることから、ESGリスク対応の継続性は重要な要素です。ESGリスクをいくらビジネスチャンスに活かせたとしても、その活動が継続されなければ意味がありません。

この点につき、アンケート結果を分析したところ、「事務局にメンバーに現場のことをよく理解している人(業務部門のラインマネジメント経験者)がいる組織」と、「ESGリスクに対する取り組みが一過性のものではなく継続的な活動につながっている組織」との間に強い相関があることがわかりました。また、「社長の本気度が伝わってくるかどうか」と「事務局メンバーに現場のことをよく理解している人(業務部門のラインマネジメント経験者)がいるかどうか」が、ESGリスクへの取り組みの継続性に大きな影響を与える要素になるという傾向も伺えます。

しかし、ESGリスク対応に役立つ業務部門のラインマネジメント経験については、「事務局メンバーの大半はラインマネジメント経験者である」は37.7%、「事務局メンバーに業務部門のラインマネジメント経験者がいる」も38.7%と、いずれも半数に満たない結果となりました。自由記述コメントでも「必要性を強く理解している人でないと推進できない。そのメンバーが不足している」「社内人材に経験者が少ない」「リスクについて説明できる人材が関与していない」といった声が挙がっています。一方で、自社のESGリスクへの取り組みについて「社長の本気度が伝わってくる」かどうかを尋ねたところ、「そう思う」が50.0%となり、「そう思わない」45.9%をわずかに上回りました。

おわりに

ニュートン・コンサルティングでは、社長も含む経営層が率先してESGリスク対応に取り組むことを推奨しています。先述の通りESGリスク対応には中長期的な視点が求められるため、そうした視点を持てる経営層の関与が欠かせないからです。また、ESGリスク対応の形骸化を防ぐためには、経営層が社員にESGリスクに対する姿勢を積極的に示していくことが重要になります。これからESGリスク対応を始める企業や、対応は開始したもののうまく回っていないという企業では、このポイントを意識して進めると良いでしょう。

企業に対してサステナビリティへの配慮を求める動きは今後ますます強まっていくことが予想され、これまでESGリスクに対して特段の取り組みを行ってこなかった企業でも、方向性の見直しを余儀なくされる可能性があります。自社の持続的な成長のためにも、今一度、ESGリスク対応について考えてみてはいかがでしょうか。

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