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コーポレートガバナンス・コード (2021年改訂対応)

掲載:2015年07月01日

改訂:2021年06月10日

改訂者:チーフコンサルタント 藤岡 誠

用語集

コーポレートガバナンス・コードは、上場企業がコーポレート・ガバナンスにおいて、遵守すべき事項を規定した行動規範です。なお、コーポレート・ガバナンスとは、経営者を律するための仕組みであり、一般的には企業の業務執行監視を行う取締役会や、そうした取締役(会)などの活動を監視する監査役、社外取締役などといった機関のあり方を指します。

         

コーポレートガバナンス・コードの変遷

以前より、類似の行動規範(上場会社コーポレート・ガバナンス原則)が存在していましたが、これを置き換える形で東京証券取引所(東証)が定め、2015年6月1日から施行し、以降3年ごとに改訂されています。2021年6月11日には、2回目の改訂版が施行されました。改訂が重ねられるにつれて、社外取締役や監査役の役割強化、企業内の中核人材の多様性確保や、サステナビリティに関わる情報開示が求められるようになってきました。これは、コーポレート・ガバナンスの形が社会経済の環境変化に応じて柔軟に変わるものだからです。

ちなみに、コーポレートガバナンス・コードによく似たものとして、スチュワードシップ・コードがあります。両者ともに同じ目的を掲げたものですが、対象者が異なります。コーポレートガバナンス・コードが企業に向けた行動規範であるのに対し、スチュワードシップ・コードは、株主(機関投資家)に向けた行動規範です。スチュワードシップ・コードについて詳しくお知りになりたい方は、こちらをご覧ください。

コーポレートガバナンス・コードの構成と特徴

コーポレートガバナンス・コードは、日本取引所のホームページ上からダウンロードすることができます。全体で36頁あり、本編は全5章から構成されています。

【コーポレートガバナンス・コードの目次】
  1. コーポレートガバナンス・コードについて
  2. 基本原則一覧

第1章 株主の権利・平等性の確保
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
第3章 適切な情報開示と透明性の確保
第4章 取締役会等の責務
第5章 株主との対話

コーポレートガバナンス・コードにおける注目すべき特徴の1つとしては、行動規範の根本的な思想を挙げることができます。本コードでは「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を基本にした「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式が採用されています。「行動規範に規定する内容について、原則的には遵守すべきだが、できない(やらない)場合は相当の理由を説明すべきだ」という意味です。たとえば、【原則1-5】において次のような事項が述べられています。ここでは買収防衛策を不適切な目的で講じてはならない旨を述べていますが、もし対策を講じるのであればその理由について説明しなければならないとも述べています。これが「コンプライ・オア・エクスプレイン」の考え方です。

【原則1-5.いわゆる買収防衛策】
買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

※コーポレートガバナンス・コードより引用

ほかにも、目次を見ただけでも、その特徴が見えてきます。たとえば、“株主”という言葉が何度も登場していることから、株主との健全な関係を保つために遵守すべき事項を示していることが分かります。これを裏付けるものが、5章に登場する“株主との対話”です。これは旧行動規範(上場会社コーポレート・ガバナンス原則)にはなかったものです。ここでは具体的には、上場企業は、株主総会の場以外においても株主との間で建設的な対話を行うべきとし、取締役会は、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取り組みに関する方針を検討・承認し、開示すべきといった旨を述べています。

そのほか、コーポレートガバナンス・コードの特徴をいくつか挙げておきます。

  • 従来の「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」では”~期待されている”という表現だったものが、本コードでは”~すべきである”というより強い表現に変わっている
  • 改正会社法の定めに則り、新しい3つの機関設計(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)を基に説明がなされている
  • 5つの基本原則の下にいくつかの原則及び補充原則が設けられ、全体的に詳細にわたって記述されている。取締役会等の責務をより具体的に説明しており、社外取締役については2名以上選任すべきとしている(関連する箇所:基本原則4)
  • 様々なステークホルダーとの協業が不可欠であることを十分に認識すべきとし、ESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的対応を含めることが示唆されている(関連する箇所:基本原則2)
  • 上場企業は、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきとしており、特に現状の非財務情報では具体性を欠く記述となっており、付加価値に乏しい場合が少なくないとの指摘があることから、取締役会の積極的な関与を示唆している(関連する箇所:基本原則3)

コーポレートガバナンス・コード 2021年改訂のポイント

・概要

コーポレートガバナンス・コード2021年改訂は、持続的成長と中長期的な企業価値の向上の実現という基本思想に基づいて、特に2つの目的で実施されました。1つ目は、新型コロナウイルスのまん延を契機とした社会経済環境変化におけるガバナンスの諸課題に企業が対応できるようにすることです。2つ目は、2022年4月から始まる東京証券取引所の新市場区分での取引にあたり、国際的に投資対象として優良な企業を集めることが期待される「プライム市場」(旧東証1部市場)で、より高度なガバナンスへの取り組みを推進することです。

・主要な改訂箇所3点

2021年6月の主要な変更点は、①取締役会の機能発揮、②企業の中核人材の多様性確保、③サステナビリティに関する取り組みの開示です。改訂にあたり上場企業に対しては、これまで通り、「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式で上記変更点への取り組みが求められます。また2022年4月から始まる東京証券取引所のプライム市場上場企業には、より厳格な適用が求められ、追加の対応が必要になります。以下で変更点の概要をお伝えします。

①取締役会の機能発揮
上場企業は、不確実性の高まる社会において持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するため、さらなる取締役会の機能発揮を求められます。具体的には、経営の方向性や事業戦略に照らして適切な取締役の知識・経験・能力・就任年数に関する適切な組み合わせの確保が求められます。

②企業の中核人材の多様性確保
取締役会だけでなく経営陣にも多様な視点が求められ、女性、外国人、中途採用者の管理職層への登用及びそれに向けた人材育成などの具体的取り組みが必要になります。特に、社内の環境整備や人材育成の方針、実施状況の開示などが求められるようになりました。これにあたっては測定可能な自主目標の設定をすることが定められています。

③サステナビリティに関する課題への取り組みの開示
中長期的な企業価値の向上や、ESGやSDGsの観点で、サステナビリティに関する課題への取り組みが求められています。企業はサステナビリティに関する取り組みへの基本方針を策定し、人的資本・知的財産への投資が企業の持続的成長に資するように監督をすること、また、それらの取り組みを適切に開示するよう定められています。特にプライム市場上場企業は国際的枠組み(TCFD提言やIFRS財団における開示枠組みなど)に基づく気候変動対策に関連する情報開示を質・量ともに充実させるよう求められています。その他、これら要素が経営戦略に反映・実行されるために財務的健全性が保たれているかなどについて、投資家との間で建設的な対話をするよう期待されています。

・改訂箇所の一覧

今回の改訂では、上記主要ポイントを含めた16個の原則の変更・新設が行われました。その内容は、3つの原則及び8つの補充原則の変更、5つの補充原則の新設です。なお、東京証券取引所の発表では、基本原則に関して変更・新設がないと記載されていますが、基本原則の「考え方」においては、2か所加筆・字句修正がありますので、それも一覧に追加しています。

コーポレートガバナンス・コードの改訂箇所(2021年6月改訂による)
改訂方法 項目 改訂箇所
1 変更 補充原則1-2④ ・プライム市場上場企業は議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべき
2 変更 基本原則2
考え方
・SDGs、TCFDを背景に、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)への意識が高まっており、経営課題として積極的・能動多岐に対応していくべきこと
変更 補充原則2-3① ・サステナビリティを巡る課題への対応はリスク減少・収益機会につながる重要な経営課題として認識し、積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべき
新設 補充原則2-4① ・女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等の多様性の確保の考え方、目標、状況を公表すべき
3 変更 補充原則3-1② ・プライム市場上場企業は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべき
新設 補充原則3-1③ ・自社のサステナビリティの取り組みを適切に開示すべき
・プライム市場上場企業はTCFD又は同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき
4 変更 基本原則4
考え方
・支配株主が企業及び株主共同の利益を尊重し、少数株主の利益保護できるようにするためのガバナンス体制の整備をすべき
新設 補充原則4-2② ・取締役会はサステナビリティの取り組みについて基本的な方針を策定すべき
変更 補充原則4-3④ ・取締役会はグループ全体を含めた全社的リスク管理体制を構築し、その運用状況を監督すべき
変更 原則4-4 ・監査役及び監査役会は、監査役の選解任等に係る権限の行使などにあたって、適切な判断を行うべき
変更 原則4-8 ・プライム市場上場企業は取締役会において独立社外取締役3分の1以上(必要な場合は過半数)を選任すべき
新設 補充原則4-8③ ・支配株主を有する場合、独立社外取締役3分の1以上(プライム市場上場企業は過半数)または利益が相反する重要な取引・行為について特別委員会を設置すべき
変更 補充原則4-10① ・プライム市場上場企業は、指名委員会・報酬委員会について独立社外取締役過半数を基本とし、独立性に関する考え方・権限・役割等を明らかにすべき
変更 原則4-11 ・取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき
変更 補充原則4-11① ・取締役会にて必要なスキルを特定し、取締役の有するスキル等の組み合わせを開示すべき
変更 補充原則4-13③ ・取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対して直接報告を行う仕組みを構築する等、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべき
5 変更 補充原則5-1① ・合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が株主との対話を行うことを基本とすべき
新設 補充原則5-2① ・事業ポートフォリオの基本方針や見直しの状況について示すべき
出典:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの改定に伴う実務対応」を基に加筆修正

なお、これまでの改訂の変遷は下表の通りです(2018年以降は主な変更点を記載)。

コーポレートガバナンス・コードの変遷
年月 名称 対象 求められる主要な対応
2015年6月 コーポレートガバナンス・コード 上場企業 コーポレートガバナンス・コード原則の適切な実践
2018年6月 改訂コーポレートガバナンス・コード 上場企業 ①政策保有株式の保有の厳格化
②企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
③適切なリスクテイクに資する報酬制度の設計
④CEOの選解任手続の確立
⑤独立社外取締役の更なる活用
⑥資本コストを考慮した経営戦略・経営計画の策定
2021年6月 改訂コーポレートガバナンス・コード 上場企業 ①取締役会の機能発揮
②企業の中核人材の多様性確保
③サステナビリティに関する取り組みの開示

上場企業に求められるアクション

改訂コーポレートガバナンス・コードが施行された2021年6月11日以降に定時株主総会を開催する上場企業は、遅くともその6か月後までに変更・新設された各原則への対応状況を反映したコーポレート・ガバナンス報告書を提出する必要があります。特に本コードを実施しない場合は、コーポレート・ガバナンス報告書にその理由を説明しなければなりません。

2021年6月の改訂後の流れとして、上場企業は下記のスケジュールに留意して準備を進めることが求められます。

改訂コーポレート・ガバナンス・コード施行後の流れ
年月 マイルストーン・実施内容
2021年 6月11日 改訂コーポレートガバナンス・コード施行
2021年 6月30日 東京証券取引所の新市場区分の移行基準日
上場企業に対して移行先の基準に達しているかどうかを2021年7月末までに通知
2021年 9~12月 東京証券取引所上場企業による市場選択手続きの期間
2021年 12月末 改訂後のコーポレートガバナンスに関する報告書の提出期限
2022年 4月4日 新上場区分への一斉移行の完了
※プライム市場への上場企業は、この後の株主総会の議論を踏まえ、プライム市場に適用されるより厳格なコードへの対応が必要になる

改訂により、次表の7点が新たな開示項目となります。 上場企業は、2022年4月4日から始まる東京証券取引所の新市場区分に応じて、コーポレートガバナンス報告書においてこれらの開示への対応が求められます。「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象範囲は新市場区分によって異なります。特にプライム市場に上場が決まった企業は、その後の株主総会後速やかに、全ての原則に対してより高水準なコードへの対応が必要になります。スタンダード市場はプライム市場ほどの水準ではないものの、全ての原則が対象となっています。一方、グロース市場では基本原則のみ「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象として、状況に鑑みて自主的にガバナンスの向上を進めるよう推奨されています

2022年4月以降に新たに開示が求められる項目
原則 新たな開示項目
補充原則2-4①
社内の多様性確保
① 女性・外国人・中途採用者それぞれについて 、中核人材の登用等の「考え方」、自主的かつ測定可能な「目標」及び「その状況」
② 多様性の確保に向けた「人材育成方針」及び「社内環境整備方針」並びにその実施状況
補充原則3-1③
サステナビリティについての取り組み
③ 経営戦略の開示にあたって、 サステナビリティについての取り組み
④ 人的資本や知的財産への投資等
⑤ 【プライム市場のみ】TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示
補充原則4-10①
指名委員会・報酬委員会
⑥ 【プライム市場のみ】委員会構成の独立性に関する考 え方・ 権限・役割等
補充原則4-11①
取締役会の実効性確保
⑦ 経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有 するスキル等の組み合わせ
出典:JPX,『コーポレートガバナンス・コードの改訂に伴う実務対応』より引用し一部変更

なお、対話ガイドライン前文によれば、「機関投資家と企業の建設的な対話を充実させていく観点からは、各原則を実施する場合も、併せて自らの具体的な取組みについて積極的に説明を行うことが有益であると考えられる」として、開示項目以外についても自社の具体的な取り組みを記載することが推奨されています。

コーポレートガバナンス・コードがもたらす影響

大きな変更のあった2021年改訂のコーポレートガバナンス・コードですが、基本思想である中長期的な企業価値の向上や、その規範の適用方法である「コンプライ・オア・エクスプレイン」には変更がありません。「本コードの原則の履行の態様は会社の業種等により様々に異なり得る」としており、全ての原則を一律に適用しなければならない訳ではないことには十分な留意が必要です。ゆえに「買収防衛策をとりやめる企業が増えているから、うちもやめる」といった短絡的な考えではなく、企業側、ステークホルダー側双方が趣旨を理解し、企業の個別の状況を十分に尊重した取り組みを行っていくことが肝要です。

【参考文献】
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