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スチュワードシップ・コード

掲載:2014年07月28日

改訂:2021年06月21日

改訂者:シニアコンサルタント 日下 茜

用語集

スチュワードシップ(Stewardship)が「財産管理の職務」と訳されることから、スチュワードシップ・コードとは“資産運用受託者(機関投資家)の行動規範“を意味します。なお、資産運用受託者(機関投資家)とは、“個人投資家”ではなく“法人投資家”を指し、大がかりな投資を行っている組織です。代表的な機関投資家としては「生命保険会社」や「投資信託会社」、「年金機構」などを挙げることができます。

         

日本版スチュワードシップ・コードとは

日本版スチュワードシップ・コードは、正式には「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」(以下、日本版スチュワードシップ・コード)と呼ばれるものです。2014年2月に策定・公表され、これまで2017年5月に改訂、2020年3月に再改訂がされました。機関投資家が、建設的な対話を通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、中長期的な投資リターンの拡大を図ることを目的としたものです。
スチューワードシップ・コードは機関投資家の行動原則であるのに対して、企業の行動原則をまとめたのがコーポレートガバナンス・コードです。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードは、自動車の両輪のような関係であり、どちらも経済全体が持続的に成長していくことを目指しています。なお、コーポレートガバナンス・コードの詳細に関してはこちらをご覧ください。

【参考:スチュワードシップ・コードの起源】
世界に目を向けますとスチュワードシップ・コードという考え方が世に広まり始めたのは、もう少し前になります。この言葉が広く知れ渡るようになったのは、2008年の金融危機がきっかけです。危機の2年後、2010年7月に、英国の財務報告評議会(FRC:Financial Reporting Council)が、「スチュワードシップ・コード」と呼ばれるガイドラインを策定・公表したのです。2019年10月には2012年以来の改訂として、「英国スチュワードシップ・コード2020(The UK Stewardship Code 2020)」が公表されています。これは、英国企業株式や債権、不動産などの資産を保有する機関投資家に向けたものです。同様の金融危機を決して起こすまいと、投資先である企業の経営監視、すなわち、コーポレート・ガバナンスへの取り組み強化を狙ったものです。

日本版スチュワードシップ・コードの8つの原則

日本版スチュワードシップ・コードは、以下の8つの原則とその原則を補足説明した指針により構成されています。赤字部分が2020年3月の再改訂での変更箇所です。2020年3月の再改訂では、コード前文の冒頭記載が改訂され、「スチュワードシップ責任」の定義を変更し、E(Environment:環境)S(Social:社会)G(Governance:ガバナンス)要素などのサステナビリティを考慮すべき旨が新たに追加され、原則7、8にも同様の内容が追加されています。この背景には、英国版の改訂版でESG要素が新たに追加され、国際的にもスチュワードシップ活動におけるESG要素の重要性が年々高まっていることがあります。

【日本版スチュワードシップ・コードの原則】
1 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
2 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
3 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
4 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
5 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
6 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
7 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。
8 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。
※赤字部分が2020年3月の再改訂での変更箇所。8は新たに追加された

日本版スチュワードシップ・コードの特徴

日本版スチュワードシップ・コード最大の特徴は、「プリンシプルベース(Principle-base)・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)」の2つを思想の柱に持っていることです。

プリンシプルベース(Principle-base:原則主義)・アプローチ
本コードは、法令とは異なり、法的拘束力は有しません。したがって、機関投資家が従うべき詳細を定めることはせず、自らのスチュワードシップ責任を適切に果たすことができるよう、その趣旨・精神に照らして自らの活動が適切か否かを判断するための原則が定められています。なお、「プリンシプルベース(原則主義)」に対応する手法として、ルールが遵守されているか否かに関して明確な基準を示す「ルールベース(細則主義)」があります。2つの手法は必ずしも二者択一である必要はなく、両手法の最適な組み合わせを追求することが重要です。

コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)
本コードを受け入れる機関投資家は、「本コードを受け入れる旨」(受け入れ表明)およびスチュワードシップ責任を果たすための方針等を自らのウェブサイトで公表すること、当該公表を行ったウェブサイトのアドレス(URL)を金融庁に通知することが期待されています。但し、本コードに記載される原則と指針の全てを遵守しなければならないというものではなく、遵守しないものがある場合には、その理由や自らのスチュワードシップに対する取り組みについて説明を行うことが求められるという内容となっています。なお、最新の英国版の原則ではコンプライorエクスプレインではなく、適用を義務づけるアプライ・アンド・エクスプレイン(Apply and explain)に変わりました。アプライ・アンド・エクスプレインでは原則の適用を求めるだけでなく、どのように適用するかについて説明が求められます。

日本版スチュワードシップ・コードに期待されること

日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した機関投資家は、293に上ります(2020年12月31日時点)※。コードを受け入れた機関投資家が、投資先企業の経営者などと面会し、自己資本利益率(ROE)の適切な向上を求めるといった動きが期待されます。他方、企業側としては、機関投資家の目線・考え方を知ることで自社が気づいていなかった課題に気づく機会が生まれ、それは企業価値向上の端緒となると考えられます。

ただし、スチュワードシップ・コードの目的である「建設的な対話を通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、中長期的な投資リターンの拡大を図ること」は、同コードさえ正しく機能すれば実現できるものではないというのもまた事実です。企業の外側からアプローチする規範(スチュワードシップ・コード)のみならず、企業の内部からアプローチする規範も必要になります。それが先述のコーポレートガバナンス・コードです。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードという車の両輪がうまく回り始めた時に初めて、株式の持ち合い、銀行による企業支配、内輪の論理による取締役の解選任と取締役会の運営等が見直しを余儀なくされ、真の日本企業の改革が実現するでしょう。

※日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した機関投資家は金融庁HPに掲載されています。『責任ある機関投資家の諸原則』≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」の受入れを表明した機関投資家のリスト

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