スチュワードシップ(Stewardship)が「財産管理の職務」と訳されることから、スチュワードシップ・コードとは“資産運用受託者(機関投資家)の行動規範”を意味します。なお、資産運用受託者(機関投資家)とは、“個人投資家”ではなく“法人投資家”を指し、大がかりな投資を行っている組織です。代表的な機関投資家としては「生命保険会社」や「投資信託会社」、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」などを挙げることができます。
日本版スチュワードシップ・コードとは
日本版スチュワードシップ・コードは、正式には「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」(以下、日本版スチュワードシップ・コード)と呼ばれるものです。機関投資家が、建設的な対話により、企業価値の向上や持続的成長の促進を通じて、中長期的な投資リターンの拡大を図ることを目的としたものです。2014年に初めて策定されて以降、社会・経済環境や資本市場の変化を踏まえ、継続的に見直しが行われてきました。
スチュワードシップ・コードは機関投資家の行動原則であるのに対して、企業の行動原則をまとめたのがコーポレートガバナンス・コードです。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードは、「車の両輪」のような関係であり、どちらも経済全体が持続的に成長していくことを目指しています。
- 【参考:スチュワードシップ・コードの起源】
- 世界に目を向けますとスチュワードシップ・コードという考え方が世に広まり始めたのは、もう少し前になります。この言葉が広く知れ渡るようになったのは、2008年の金融危機がきっかけです。危機の2年後、2010年7月に、英国の財務報告評議会(FRC:Financial Reporting Council)が、「スチュワードシップ・コード」と呼ばれるガイドラインを策定・公表したのです。2019年10月には2012年以来の改訂として、「英国スチュワードシップ・コード2020(The UK Stewardship Code 2020)」が公表されています。これは、英国企業株式や債券、不動産などの資産を保有する機関投資家に向けたものです。同様の金融危機を決して起こすまいと、投資先である企業の経営監視、すなわち、コーポレート・ガバナンスへの取り組み強化を狙ったものです。
日本版スチュワードシップ・コードの8つの原則
日本版スチュワードシップ・コードは、以下の8つの原則と各原則を補足説明した指針により構成されています。これらの原則はプリンシプルベース・アプローチを採用しており、各機関投資家が自らの運用方針や特性に応じて、柔軟かつ主体的に取り組むことが求められています。
2025年6月には第三次改訂版が公表・確定され、協働エンゲージメントの位置付けの明確化や、実質株主の透明性向上などが新たに盛り込まれています。本改訂では、形式的な対応ではなく、実質的な責任履行が求められています。
特に、実質株主の透明性向上については、機関投資家は投資先企業との建設的な対話に向け、企業側の求めに応じて自らの株式保有状況について説明すべきであるとともに、開示を求められた場合の対応方針を公表すべきである、という内容が原則4の指針として加えられました。
【日本版スチュワードシップ・コードの原則】
| 1 | 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 |
|---|---|
| 2 | 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 |
| 3 | 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。 |
| 4 | 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。 |
| 5 | 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。 |
| 6 | 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。 |
| 7 | 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。 |
| 8 | 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。 |
日本版スチュワードシップ・コードの特徴
日本版スチュワードシップ・コード最大の特徴は、「プリンシプルベース(Principle-base)・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)」の2つを思想の柱に持っていることです。
- プリンシプルベース(Principle-base:原則主義)・アプローチ
- 本コードは、法令とは異なり、法的拘束力は有しません。したがって、機関投資家が従うべき詳細を定めることはせず、自らのスチュワードシップ責任を適切に果たすことができるよう、その趣旨・精神に照らして自らの活動が適切か否かを判断するための原則が定められています。なお、「プリンシプルベース(原則主義)」に対応する手法として、ルールが遵守されているか否かに関して明確な基準を示す「ルールベース(細則主義)」があります。2つの手法は必ずしも二者択一である必要はなく、両手法の最適な組み合わせを追求することが重要です。
- コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)
- 本コードを受け入れる機関投資家は、「本コードを受け入れる旨」(受け入れ表明)およびスチュワードシップ責任を果たすための方針などを自らのウェブサイトで公表すること、当該公表を行ったウェブサイトのアドレス(URL)を金融庁に通知することが期待されています。ただし、本コードに記載される原則と指針の全てを遵守しなければならないというものではなく、遵守しないものがある場合には、その理由や自らのスチュワードシップに対する取り組みについて説明を行うことが求められるという内容となっています。なお、最新の英国版の原則ではコンプライ・オア・エクスプレインではなく、適用を義務づけるアプライ・アンド・エクスプレイン(Apply and explain)に変わりました。アプライ・アンド・エクスプレインでは原則の適用を求めるだけでなく、どのように適用するかについて説明が求められます。
日本版スチュワードシップ・コードに期待されること
2025年6月の改訂により、日本版スチュワードシップ・コードは、形式的な遵守の段階を終え、実質的な対話による価値創造のフェーズへと移行しました。機関投資家にとっては、自らのガバナンスと専門性を高め、受益者にとって意義あるリターンを追求する実力が問われることになります。一方、企業にとっては、本コードを遵守する投資家を信頼できるパートナーとして迎え入れ、共に持続的な成長を目指す責任ある対話姿勢が求められます。
スチュワードシップ・コードの目的は、「建設的な対話を通じて企業の価値向上と持続的成長を促進し、中長期的な投資リターンの拡大を図ること」です。しかし、この目的は、コードを形式的に導入するだけでは達成されません。企業外部からの規範であるスチュワードシップ・コードだけでなく、企業内部からの取り組みを促す規範も必要です。それが、前述のコーポレートガバナンス・コードです。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードという「車の両輪」が適切に機能し始めて初めて、株式の持ち合いや銀行による企業支配、内輪の論理による取締役の解任・選任や取締役会運営といった課題が解消され、日本企業の真の改革が実現するでしょう。
※日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した機関投資家は金融庁HPに掲載されています。『責任ある機関投資家の諸原則』≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」の受入れを表明した機関投資家のリスト(2025年12月31日時点)
