カーボンプライシング
掲載:2023年03月09日
用語集
地球温暖化をもたらす炭素(二酸化炭素(CO2))など温室効果ガスについて、その排出量に価格を付けることで削減を促す政策手法を「カーボンプライシング」といいます。企業や組織にとっては炭素を排出すること自体がコストとなるため、脱炭素のための取り組みや技術を採用する動機となります。日本では2050年のカーボンニュートラル実現という国際公約の達成に向けて、カーボンプライシングの本格的な導入を予定しています。
気候変動による災害は頻度、被害の大きさともに増しており、温室効果ガスの大幅削減は国際社会の急務となっています。脱炭素社会を実現するために注目されているのが、CO2排出に経済的な負担を求めるカーボンプライシングです。
その具体的な制度は「明示的カーボンプライシング」と「暗示的カーボンプライシング」に大別されます。排出される炭素量へ直接的に価格を付けて排出量に応じた費用の負担を課すのが前者、エネルギー消費量や機器などに規制や基準を設けて間接的に排出削減コストなどを課すのが後者です。
世界各国が積極的に導入し、整備を急いでいるのは明示的カーボンプライシングで、特に企業/組織が消費する化石燃料の炭素含有量などに応じて課税する「炭素税」と企業ごとに排出枠を定めて削減したCO2を売買する「排出量取引制度」に期待が集まっています。
カーボンプライシングの歴史
世界初のカーボンプライシングは、1990年にフィンランドが導入した炭素税です。一方、排出量取引制度については、気候変動対策で世界を牽引するEUが2005年、初めて導入しています。
2022年に発表された世界銀行の報告書(※1)によると、炭素税は36件、排出量取引制度は32件、あわせて68件のカーボンプライシングが世界の国や地域で導入されています。その収入は世界全体で840億ドルに達し、脱炭素社会へ移行するための資金などとして役立てられています。しかし、気温上昇抑制目標を満たすレベルでは不十分であり、国際エネルギー機関(IEA)では先進国が目指すべき炭素価格として、2030年にCO2排出量1トン当たり130ドル、2050年に250ドルとしています。(※2)
日本では1997年に採択された京都議定書を契機に検討が始まり、2012年に「地球温暖化対策税」として炭素税が導入されました。原油や天然ガス、石炭といった化石燃料にCO2排出量1トン当たり289円が課税されています。ただし、その炭素価格は他国と比べて低くとどまっています。排出量取引制度については2010年に東京都が「総量削減義務と排出量取引制度」を開始、翌年から埼玉県も「地球温暖化対策計画制度」「目標設定型排出量取引制度」を実施しています。
日本が国際公約として掲げる、2050年に実質的な排出量をゼロにする目標の達成と経済成長をともに実現させるには、大胆な先行投資への支援 が必要です。そこで岸田政権はGX(グリーントランスフォーメーション)と呼ぶ脱炭素戦略として、2023年からの10年間に官民あわせ150兆円余りの投資を実現させるとしています。まずは資金の使い道を脱炭素事業のみとする国債、GX経済移行債を20兆円発行して民間からの投資を促していきます。その償還財源として経済産業省は2022年12月、カーボンプライシングを本格的に導入する方針を示しました。
排出量取引制度を2026年度からは国として導入し規制を強化し、2033年度からは電力会社に対しては有償でCO2の排出枠を割り当てる制度に移行する予定です。また、炭素税に似た賦課金を2028年度に導入、石油元売りや商社、電力、ガス会社などからCO2の排出量に応じて徴収する仕組みを検討しています。
GX経済移行債で集めた資金の使い道には、脱炭素のための革新的な技術開発や商用化を支援するグリーンイノベーション基金事業、光電融合技術による半導体などの開発費、蓄電池関連の設備投資などがあります。
※1 The World Bank「State and Trends of Carbon Pricing」2022
※2 IEA「Global Energy and Climate Model」2022
参考文献
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