平成21年8月7日に内閣官房は「新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザ等に関する関係省庁対策会議(第23回)」を開催し、「新型インフルエンザ対応中央省庁業務継続ガイドライン」を策定しました。(新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議 発行)
本ガイドラインの目的と使用方法
本ガイドラインは、新型インフルエンザ発生時において、府省庁が以下を目的とする事業継続計画を策定するにあたり、参考となるよう、発行されました。- 各中央省庁の機能維持、必要な業務の継続
- 新型インフルエンザ対策に関する業務の実施
- 感染拡大の抑制
ちなみに、平成21年2月17日に同関係省庁対策会議より発行された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」との違いについても触れておきます。2月に発行されたガイドラインは空港や港などの水際対策から家庭や個人への感染防止策など新型インフルエンザに対して網羅的に対応策を示しています。それと比較して、8月発行の本ガイドラインは国の意思決定機関として中央省庁の機能維持を目的としているため、「新型インフルエンザ対策ガイドライン」とは対象範囲が異なっています。
本ガイドラインの特徴
本ガイドラインの特徴は、地震対策などに共通する指揮命令系統の明確化や人員、物資の確保などに加えて、新型インフルエンザ対策特有の対応策として感染防止策の徹底があげられていることです。たとえば、業務継続時の感染リスクも考慮に入れ業務継続手順を検討するように記載されています。
また、本ガイドラインは中央省庁を対象としているため、政府の体制、政府に求められる役割、公務上の災害等の考え方など、政府特有の項目が盛り込まれています。
地震災害と新型インフルエンザ対策の相違
内閣官房が平成19年に打ち出した「中央省庁業務継続ガイドライン」は首都直下地震をリスクとして想定し業務継続計画策定のためのガイドラインです。このガイドラインと新型インフルエンザ向けの本ガイドラインとでは想定するリスクは異なりますが、各中央省庁の機能維持を共通の目的としており、業務継続の対応手法にも共通する要素があります。本ガイドラインは以下の表により地震災害と新型インフルエンザの相違を整理しています。対応策を考える上で参考になると思いますので、ご参照ください。
【業務継続計画における地震災害と新型インフルエンザの相違】
項目 | 地震災害 | 新型インフルエンザ |
---|---|---|
業務継続方針 | 災害応急対策等に全力を挙げながら、できる限り業務の継続・早期復旧を図る | 感染リスクを勘案し、最低限の国民生活の維持に必要な業務に限定して継続する |
被害の対象 | 人的被害のほか、施設・設備等、社会インフラへの被害も大きい | 主として、人に対する被害が大きい |
地理的な影響範囲 | 被害が国内全域とはなりにくい | 被害が国内全域、全世界的となる |
被害の期間 | 過去事例等からある程度の影響想定が可能 | 長期化すると考えられるが、不確実性が高く影響予測が困難 |
災害発生と 被害制御 |
主に兆候がなく突発する 余震、津波等を除き被害量は事後の制御不可能 |
海外で発生した場合、国内発生までの間、準備が可能 被害量は感染防止策により左右される |
本ガイドライン上の想定シナリオ
本ガイドラインでは新型インフルエンザ発生シナリオは、- 全人口の25%が罹患
- 1つの流行が約2ヶ月継続
- 流行の波が2~3回発生
このシナリオを社会的な影響から考えると、
- 従業員の最大欠勤率は約40%(1事業所で見た場合)
- 物流の停滞、物資の不足
- 学校、保育施設などの臨時休業
- 多数の中小企業の経営破たん
本ガイドラインは業務継続計画を策定する上で必要な情報が網羅的にカバーされており、中央省庁だけでなく、地方自治体や財団法人なども大いに活用できると思います。新型インフルエンザに対する基本的な考え方は、機関の公私に関わらず共通しています。そのため、社会的要請が高い社会機能維持者や地元地域への影響が大きい企業など、本ガイドラインを参考に、事業継続計画を策定することをお奨めします。