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富士山ハザードマップの改定ポイントと企業に求められる対応

掲載:2021年09月13日

コラム

2021年3月に富士山防災対策協議会が「富士山ハザードマップ」を17年ぶりに改定しました。本稿では、富士山ハザードマップの概要と改定のポイントをまとめるとともに、企業活動にも大きな影響をもたらしかねない大規模噴火に対して、企業がどのように備えておくべきかを解説します。 なお、富士山ハザードマップとは、富士山の噴火によって影響が及ぶ可能性のある範囲を地図で示し、視覚的に分かりやすく描画したものです。富士山が噴火した時に、いつ、どのような現象が、どの範囲まで到達するかが地図上に表示され、誰でも簡単に被害予測を確認することができます。また、火山現象や避難情報を分かりやすくまとめた「火山防災マップ」や、避難計画などの基礎資料となります。

         

富士山ハザードマップ改定までの経緯

富士山ハザードマップは、2000年頃から富士山直下で低周波地震が多発したことを受け、2004 年に初版が策定されました。内閣府・消防庁・国土交通省を事務局とする富士山火山防災協議会及び富士山ハザードマップ検討委員会が2001年に設置され、約3年間の検討を経て策定されています。

今回の改定の背景には、最新の調査研究により、富士山噴火が従来の予測よりさらに深刻な被害をもたらす可能性があると分かってきたことがあります。具体的には、航空レーザー測量で富士山域の詳細なデータが得られたため溶岩流などのシミュレーション結果が変わってくること、近年になって新たな噴火口が発見されたことなどが挙げられます。このため、専門家や防災機関関係者による検討会が設置され、2018年から改定に向けた検討が行われていました。

富士山ハザードマップの種類

富士山ハザードマップには「ドリルマップ」と「可能性マップ」があり、それぞれを単体で確認することも、重ね合わせた図として確認することもできます。

ドリルマップ
溶岩流、火砕流などの火山現象が実際に発生した際、各地域がどのような状態になるのかをコンピューターシミュレーションなどによって地図上に描いた分布図

可能性マップ
溶岩流・火砕流などが及びうる最大範囲や最小到達時間を網羅的に示した図

富士山ハザードマップの改定ポイント

今回の改定では、最新の知見を踏まえて、より精緻な分析方法が採用されました。それに伴い、噴火の被害が及ぶと想定される範囲が2004年版より大幅に拡大しています。

溶岩流などがより早く、より遠方まで届く想定に

溶岩流・火砕流・融雪型火山泥流の被害想定については、より詳細な地形データを反映するため、2004年版より細かい地形メッシュサイズを用いています。溶岩流が200mメッシュDEM※、火砕流と融雪型火山泥流は50mメッシュDEMだったところを一律で20mメッシュDEMとしています。また、溶岩流が流れ始める地点の数は2004年版の44地点から252点に、火砕流も発生が予測される地点を9地点から35地点に増やして分析しています。加えて、2004年版では大規模噴火時の溶岩流の噴出量を7億㎥としていたところを13億㎥に、火砕流は240万㎥から1,000万㎥に変更しました。
※DEM:数値標高モデル(Digital Elevation Model)データ。地表面を等間隔の正方形に区切り、それぞれの正方形に中心点の標高値を持たせている

これにより、溶岩流については影響範囲の幅が狭くなったものの、一部で到達時間が早くなり、到達距離も長くなっています。火砕流も、2004年のシミュレーションでは被害が想定されていなかった地域においても被災の可能性が指摘がされています。傾斜の急な北東と南西方向を中心に到達距離が長くなっているためです。また、融雪型火山泥流(火山を覆う雪や氷が融かされることで発生する泥流)に関しても、想定する火砕流の噴出量が増加したことにより、大きな河川を流下し、遠方まで届くシミュレーション結果になりました。

想定火口範囲の追加により、市街地への被害拡大も

想定火口範囲とは、噴火が想定される火口や、火口が生じる可能性のあるエリアを指します。今回の改定では、分析対象とする過去の噴火年代を約3,200年前から約5,600年前に拡大したことに加え、近年発見された中小規模の火口を新たに想定火口に追加しました。また、伏在火口(繰り返し発生した噴火によって地中に埋もれた火口)として山頂から半径4km以内の全域も想定火口に追加しています。これらの要素が加わったことで、2004年版の想定と比較すると市街地への溶岩などの到達時間が早まるとともに、到達距離も長くなる傾向が明らかになり、より多くの人が被害を受ける可能性が示唆されています。

【コラム:溶岩流・火砕流・融雪型火山泥流】

溶岩流は高温でドロドロに溶けた溶岩(マグマ)が斜面を流れ下る現象で、温度は1,000℃程度と非常に高くなりますが、速度が時速3kmを超えることは稀であり、過去の火山噴火でも人的被害は多くありません。一方、火砕流は噴火によって放出された火山灰や軽石、火山ガス等が混ざり合い地表に沿って流れる現象で、速度は時速百km以上、温度は数百℃に達します。1991年の雲仙普賢岳の噴火では、火砕流が市街地方面へ流下し、死者・行方不明者43人という甚大な被害をもたらしました。火砕流の人的被害を防ぐためにも噴火警報や発表されている情報を確認し、事前に避難することが必要です。融雪型火山泥流は火山を覆う雪や氷が融かされることで発生し、谷筋や沢沿いに沿って遠方まで流れていきます。速度が時速数十kmまで達することがあるため、火砕流と同様の対応が求められます。

企業に求められる対応

大規模噴火による被害は、企業活動にも影響を及ぼす恐れがあります。地震や水害などと同様、事前にどのような対策ができるかを考え、備えておく必要があります。その際に有効なのがBCP(事業継続計画)の策定です。大規模噴火に備えたBCPではどのようなポイントを考慮する必要があるのか、以下で解説します。

①重要業務復旧の検討
企業がBCPを策定する際には、重要業務の洗い出しに加え、その重要業務を噴火直後からどのように復旧させていくのか、復旧目標と併せて予め検討しておく必要があります。火山噴火の場合、断続的に噴火が続く可能性があるほか、避難指示が出た場合に長期的に施設への立ち入りができない可能性もあり、その対策を考えておかなければなりません。複数拠点がある場合は代替拠点を検討することになりますが、代替拠点でどこまで重要業務をカバーできるのかの確認も求められます。

②タイムラインの策定
噴火前または噴火が発表された直後から「どの時間まで」に「誰」が「どんな作業」をするのかをまとめた「タイムライン」をBCPに含めることで、より実効性のあるBCPを策定することができます。

③降灰への備え
今回の改定では降灰のシミュレーション結果は変更されていませんが、「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」による降灰シミュレーション(2019年)では、東京でも多いところで火山灰が4~16cm積もる可能性があることが示唆されています。また、神奈川県・山梨県でも8~16cm積もる可能性があるとされています。精密機器を製造している工場などでは、換気ダクトや窓の隙間などから火山灰が入ってしまうことにより、製品に影響が出る可能性があるため、ダクトなどから火山灰が入らないように養生をするなどの対応が必要です。また、火山灰の除去をする際に必要なスコップやバケツ、ほうきなどの道具類や、灰を身体に入れないようにするためのマスク・ゴーグルなどは噴火直後に手に入りづらくなる可能性があるため、事前に準備をしておくことが大切です。こうした内容についても、必要に応じてBCPに盛り込むと良いでしょう。

富士山ハザードマップの改定で被害想定が大幅に拡大したことを受け、自治体では避難計画の見直しなどの動きが出ています。企業においても、最新の情報や被害想定を確認し、自社の備えを見直す機会にしてはいかがでしょうか。

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